特集 2019年2月26日

壁にぴったりハマっている自販機「ぴたん機」を味わう

奇跡的に壁と同化した自販機たち

壁にぴったりハマっている自販機がある。

自販機にもいろんなサイズがあるだろうに、何の因果か壁と全く同じ幅にぴったりと収まっている。そんな自販機を「ぴたん機」と命名した。2013年のことである。

それから6年の歳月を経て、このたび発見数が100体を突破した。ここで改めてその魅力を分析してみたい。

1983年徳島県生まれ。大阪在住。エアコン配管観察家、特殊コレクタ。日常的すぎて誰も気にしないようなコトについて考えたり、誰も目を向けないようなモノを集めたりします。

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ぴたん機とは何か

壁にぴったりハマっている自販機こと、ぴたん機。すべての始まりは、この光景だった。

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こんなにピッタリなことってあるのか? ゴミ箱の置き場所も秀逸

自販機に合わせて門を作る人なんていないし、門に合わせて自販機を作る人もまたいない。つまりこの光景は、「既存の門」と「既存の自販機」、その両方が偶然にも同じ幅だったことで生まれたのだ。

自販機の神様が、気まぐれに起こしたイタズラである。奇跡ってやつは、意外と身近なところで起きている。

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このタバコ屋もそうだ。あとで紹介するけれど、タバコ屋とタバコ自販機はフィット感が高い

店をたたんで、代わりに自販機を設置することになった。どんな機種があるかなあ? と問い合わせてみると、なんと店の間口にピッタリな自販機が見つかったのだ。店主は小躍りして喜んだ。

……というのは私の想像だけれど、でもきっとそういう物語があったに違いない。だって左側の自販機なんて、寸分違わぬジャストサイズである。運命を感じずにはいられないじゃないか(こんなに隙間がなくて大丈夫なのかと心配になるほど)。

特に自販機が二台、三台と横並びになると、ぴったり収まるための難易度も上がってくる。

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こっちは三連のぴたん機。左側にもぴたん機がある
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幅の違う異種の自販機(タバコ+飲料)を組み合わせて、上手いこと収めてある

自販機の機種について調べてみると、設置場所に合わせて数種類のサイズから選べるようになっていた。ただし規格があるわけではないので、メーカーごとに数センチ単位で幅は違っている。壁にピッタリ収まるかどうかは、測ってみないと分からない。

自分が設置者だったら、横幅の数値を見るときドキドキしていったん目を閉じるだろう。ピッタリ入るのか入らないのか、そこで世界線が分岐する。人生にはそういう分かれ道もある。

上手くハマったときの爽快さ

自販機がぴったりハマると爽快である。

これは部屋に家具を置くときをイメージしてもらえれば分かりやすい。本棚が壁にぴったり収まったとき、なんとも言えない達成感があるだろう。ジグソーパズルだってそうだ。欠けていたピースが、あるべき場所に帰るあの感覚。それを街中でも味わえるのである。

すべての自販機には収まるべき壁があり、静かに時が来るのを待っている。自販機と壁の運命が交わるとき、そこにぴたん機が生まれる。

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自販機がぴったり収まっていると、
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見ているこっちまで爽快な気分になってくる
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よくぞ、よくぞキレイに収まってくれた……!
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なかには、苦労のあとがうかがえる例もある。正面からだと幅が足りなかったため、斜めにして何とか設置できたのだろう。ピッタリ入れるのも一筋縄にはいかないことが分かる
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珍しい新聞自販機もこの通りピッタリ
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まるで自販機が壁から生えてきたかのような、不自然なまでの食い込み具合
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これなんか、ブロック塀に自販機のポスターを貼っているのと見間違えるほど。……って、あれ?

後半、なんだか雲行きが怪しくなってきたのに気付いただろうか。いくらなんでも不自然である。こんなに自販機と一体化する壁があるはずないじゃないか。生い立ちが、他のぴたん機とは違っているのが目に見えて分かった。

人工と天然の違い

なにか変である。いくら壁にピッタリな自販機があるとは言っても、「どう考えて出来すぎだろう」というケースが散見された。

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これもそうだ。最初から自販機の入るピッタリサイズの凹みがあったとは考えにくい
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ゴミ箱もちょうど収まる都合のいい壁があったわ~、便利だなあ。なんて訳はない
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向かって左側のブロックが、明らかに半端な位置で切断されている。これを見て確信した

つまり、自販機がちょうど入るように壁を作ったのだ。人間の作為が多分に含まれていることから、これを「人工ぴたん機」と呼んで区別することにした。

そう、ぴたん機は作れるのである。観察の際には、それが天然なのか人工なのかを意識するようにしたい。

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地球上には「天然ぴたん機」と「人工ぴたん機」とがある。集計してみると、やはりというか、人工の方が多かった

これは残念な結果である。人工ぴたん機は、なるべくしてピッタリになった自販機であり、先に述べたような運命性もなければ、組み合わせから生まれる爽快感にも乏しい。人間の所業により、ぴたん機の生態系がおびやかされている。

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それでも、こんな風に手間ひまかかった(おそらく既存のシャッターを切り抜いた)のを見ると、人工も悪くないなあという気分になる
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壁の隙間を塗り込んでいるタイプも珍しい
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とはいえ、ここまで来るとハリボテ感は否めない。たしかにピッタリといえばそうなのだが……

でも逆に考えるのだ。人工が過半数以上を占めているということは、つまり天然が貴重だということ。人工を見て、まだ見ぬ天然に思いを馳せる。そういうのもいいのではないか。

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人工の存在を意識し出したことで、より天然のぴたん機が愛おしくなってくる。これは店の入り口をつぶして作った自販機置き場であり、活きのいい天然物だ
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これを見つけたときは、あまりの衝撃に言葉を失った。壁と標識との間にあるわずかな隙間、そこに食い込んでいく自販機……!
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よく見ると標識とは接触していた。こいつは大物である
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同様に、電柱と接触している自販機も見つけた。ギリギリを攻めていくこの姿勢にしびれる

最後の2つは、これまでとは違って「壁に」ぴったりハマっているわけではない。でもいろんな例を見て理解が深まった今なら分かる。これは紛れもなく同類、ぴたん機である。

ぴたん機という概念を思い付いていなければ、おそらく発見できていなかっただろう。「ぴったりハマった自販機がある」ということ、そして「過半数以上が人工である」いう事実。それらを知って初めて、その貴重さ、稀有さが理解できるようになったのだ。

なので人工と天然に優劣はなく、どちらも等しく観察していく必要があると感じた。

タバコ屋が気になる

観察を続けていると、ひとつ気になることがあった。やけにタバコ屋が目に付くのだ。

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ぴたん機が設置されていた場所を集計してみた。タバコ屋は3位である

1位の「会社/ビル」は、そもそも存在している数が桁違いである。一方のタバコ屋はというと、そんなに店舗数があるわけでもないのに、全体の約20%をも占めている。

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たびたび目にするこの光景。タバコ屋を見つけたら、ぴたん機の存在を疑え
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共通しているのは、どのタバコ屋も閉店しているということだ
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対面販売をやめて、代わりに自販機を置く。そうすると、自然とこの形に落ち着くのかもしれない
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これは珍しくて、タバコ屋の前に飲料の自販機しかないタイプ。でもちゃんと、ぴたん機になっている
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酒屋の横にマルボロの看板が出ていて、でも置いてあるのは酒と飲料のぴたん機。上部に閉められないシャッターがあることから、以前はこの部分がタバコ屋の窓口だったのかもしれない
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こちらは角の隅切りの位置にある、タバコのぴたん機。元は窓口が存在していたにおいがする

以前に当サイトで大山顕さんが発表した記事、「角のタバコ屋めぐり」を見ていると、やはり高確率でタバコ屋にぴたん機が備わっていた。「タバコ屋転じて、ぴたん機となる」、そういうことわざがあってもおかしくない頻出ぶりである。覚えておこう。

たくさん並ぶと気持ちいい

自販機が横に連なれば連なるほど、壁にぴったりハマるのが難しくなってくる。その分、見かけたときの爽快感は高い。

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2つ並べてピッタリの幅にするのも大変ではあるが、
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3つ並べてピッタリの幅にする方が難易度は高い。これを見て「ちょうどいい幅になる自販機の組み合わせを見つけるアプリ」が作りたくなった
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横並びも、四連になると苦しくなってくる。これはギリギリのところでゴミ箱に救われたが、それがなければ ぴたん機認定は難しかっただろう
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ところが、五連は余裕の顔をして街に潜んでいた。いまにも5体並んで無表情でこっちへ歩いてきそうな雰囲気がある

これが人工なのか天然なのかは、意見が分かれるところだろう。注目すべきは、自販機上部に取り付けられた板である。不自然に空いてしまった空洞を後から塞いでいるため、「自販機に合わせて後から壁をくり抜いた」という人工の可能性は薄いと考えた。

もし予想が当たっていれば、これは天下の五連かつ天然ぴたん機である。発見したのは2016年だが、いまもこれを超える大物は見つかっていない。

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横並びになる数が増えれば増えるほどレア度は高くなる。集計してみると、まさにその通りの結果となっていた。単純に自販機を並べられる場所も限られてくるし、五連の存在が確認できたのは奇跡である

ただ、見た目の爽快感は三連くらいがピークのように感じる。五連までいくと幅が広すぎるせいか、かえってぴったり感は薄れてしまう。フットワークの一連、バランスの三連、パワーの五連、といったところだろう。

気になるぴたん機

最後に、見た目が気になったぴたん機を個別に紹介したい。

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ゴミ箱がおそろいになっているのが可愛いぴたん機。コカコーラの赤、ペプシの青が隣り合って仲良くしている和み系でもある
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神社の脇にあった自販機は装飾されていた。そういえば、かつて公衆電話もこんな風にデコられていた時代があった。路傍にたたずむ者の宿命なのかもしれない
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あまりにピッタリなサイズのため、人工ぴたん機か? と思いきや、上部の窓や屋根を見るに、天然ぴたん機である可能性が高い。おそらく元は勝手口だろうと推測する。見事である
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これはぴたん機と呼ぶには隙間が空きすぎではあるが、それにしても「自販機コーナー」である。自販機が何個あればコーナーが成立するのだろう
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と思っていたら、自販機が一個のコーナーを見つけた。コーナーの限界値は一個でした

今回は35体のぴたん機を例に出して、その生態系を紹介した。このために全ての写真をいったん編集したのだが、掲載していない分がまだあと65体も残っている。分析が進んだら、いずれ追加報告を行いたい。


カップ酒の自販機

タバコ屋に負けず劣らず、酒屋にもぴたん機は多かった。

しかし酒の自販機は、いま急速に撤去が進んでいるという。中でもカップ酒の自販機は絶滅危惧種。

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たまたま撮影していたぴたん機の中に、稼働中と思われるカップ酒の自販機(右)があった。この光景が見られるのも、あとわずかかも
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