虚無トレイ問題
誰が見ても偽物と分かるので、まあいいのだけれど、ちょっと虚無感強くないですか。
スーパーで惣菜を買って帰ると、トレイが上げ底されていて微妙にがっかりすることがある。お菓子や飲料なんかも、最近さりげなく内容量が減っていたりする。
原材料費の高騰など、理由はいろいろあるのだろう。なので気持ちは分かる。分かるのだけれど、やるならもっと堂々とやろうじゃないか。
残念な気持ちにならない、後腐れのない上げ底とは何かを考えてみた。
上げ底が世にはばかっている。たとえば、スーパーの惣菜。
四隅の凹みは、トレイを積み重ねる際の足となる重要な構造である。でも真ん中の盛り上がりはどうか。きっと堀との合わせ技で、実際よりもたくさんの惣菜が入っていると錯覚する効果を狙っているのだろう。
これも創意工夫のたまものと言えばそうなのだが、こと上げ底に関してはどうしてもネガティブな印象を持ってしまう。
流通の都合で、従来のパッケージサイズから変更できない理由があるのかもしれない。値段据え置きで容量を減らさなければならない事情も分かる。でもこの見た目である。上げ底があることでイメージ的に損している部分があるよなあ、と老婆心ながら思ってしまった。
んー、世の上げ底に対する負の感情をくつがえすにはどうすればいいだろう。私は別に上げ底の回し者でも何でもないが、ここに解決すべき課題があると感じた。これがビジネス書だと、きっと「デザイン思考」を持ち出してくるだろう。
とりあえず思ったのは、「どうせ中を見れば、誰だって上げ底に気付く」という点だ。ならば、もっと堂々としようじゃないか。こそこそやるからイメージが悪いのだ。そうだそうだ。
こっそり行われる上げ底は、一見すると上げ底には見えない。上げ底であることを隠しており、かなり後ろ向きの思考が働いている。よってここでは「パッシブ上げ底」と呼ぶことにしよう。
となると堂々とした上げ底とは、反対に能動的であるべきだ。それには上げ底であることを隠さず、みずから上げ底を誇示する姿勢が必要となる。
本来ならば複数人でアイデア出しをすべきフェーズである……が、ゆるいデザイン思考なので、メンバは私ひとりである。脳内で活発な議論を交わし、「アクティブ上げ底」こそが問題解決の鍵だと導き出した。
ただし、これはあくまで仮説である。次は検証フェーズとして、実際に動作するプロトタイプを制作、仮説の有効性を実証することになる。
上げ底から端を発した話題が、だんだん形になってきた。確証は持てないが、こんなことは誰もやったことがない。作って確認するしかないのだ。
これまでの経験では、ふんわりしていたアイデアでも、形にすると「あれ? 意外といいじゃん」ってことも多い。作ってみないと分からないことがいっぱいある。なので、失敗をおそれず作ろうじゃないか! その先にだけ未来がある。
プロトタイプができたら、次はいよいよ検証である。ここで本当に「上げ底のネガティブイメージを払拭できるか」を試すわけだ。結果やいかに。
動画でもまとめてみた
茶碗を揺るがしながら、白米が内側からあふれだしてくる。これは火山による地殻変動か? いや、誰がどう見ても上げ底だ。
光を放ちながら、自らが上げ底であることを主張するご飯。山盛りの下には、レモン搾り器の蓋があるのは分かっている。それだけに期待値は低く、従来の上げ底が持つガッカリ感はないし、おまけに何やらエンターテイメント性も生まれている気がする。
もうこそこそと隠れて上げ底をする必要はない。上げ底とはかくあるべし! という姿を示してくれたのだ、その持ち前のアクティブさによって。
上げ底とはかくあるべし、なんて大見得を切ってはみたが、白米がうごめく動画を編集していると、だんだん自信がなくなってきた。こういうのはよくない例である。結論ありきで突き進み、無理やり自分の思った方向に文章を持って行く。ちゃんと考察した方がいい(自戒を込めて)。
とその前に……晩ご飯前に米を盛り上げていたので、はたして「何をやっているのだ」と妻に問い詰められた。俺は米をアクティブに上げ底しているのだ。これがカッコいいはずなのだ。そう力説する。
しかしその声は届かない。問題点として指摘されたのは、以下のポイントである。
そして妻はこう言った。「どちらかというと、これはソバ屋の前にある箸が上下するマシンなのでは」
とりあえず今回は、その上げ底されたご飯を食べながら、次なる動きを考えはじめた。「ゆるいデザイン思考」は、また仮説立案やプロトタイピングのフェーズに戻る。こうしたサイクルを回して行くことで、きっと課題解決に近づくはずなのだ。
上げ底を見てガッカリする問題が、いつか解決することを願ってやまない。
誰が見ても偽物と分かるので、まあいいのだけれど、ちょっと虚無感強くないですか。
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