来年は踊り手で参加してみたくなった
じゅり馬まつりパレードは来年以降も開催予定とのこと。“踊る阿呆に見る阿呆”はまた別のまつりの謳い文句だが、踊っていた女性たちのあまりに楽しそうな様子に次は踊り手側で参加してみたくなってしまった。あの衣装も着てみたいし馬飾りも付けてみたい。
しかし、今年がハイレベルだったことで来年からは激戦のオーディションになっているかもしれない。心してかからねば。
かつて琉球王国だった沖縄には、他の地域に類を見ないような独特なまつりが現代にも脈々と受け継がれている。
村の長老を棺桶に見立てた木桶に入れて担ぐまつり「ビーンクイクイ」もなかなかすごかったのだが、今回見物した「じゅり馬まつり」は鮮やかな紅型衣装を身にまとい腹に馬飾りをつけた女性たちが隊列をなして集落内を練り踊るというこれまたユニークなものだった。
じゅり馬まつりを語る上でまず欠かせないのが、まつりが行われる場所である那覇市辻(つじ)という地域についての説明。ちょっと堅い説明で恐縮だがお付き合い願いたい。
那覇空港や那覇港からもほど近い那覇市辻は琉球王国時代の1672年に創建された歓楽街、いわゆる花街として栄えた地域。かつては料亭や旅館が建ち並び多くの人々が行き交う沖縄県下最大の社交街として知られていた。
そんな辻の女性たちは「じゅり」と呼ばれ、基本的な教養に加えて料理や唄、三線(さんしん)、琉球舞踊などの芸を身につけて日々努力していたそうで、京都祇園の舞妓さんとも少しイメージが重なる。
“義理・人情・報恩”を信条に、辻という社会で家族のように助け合って暮らしていたとされる女性たち。厳しい環境に身を置かれた悲哀だけではない、沖縄の女性らしい逞しさや明るさが感じられる。
そんな彼女たちの年に一度の晴れ舞台だったのが、毎年旧暦1月20日の二十日正月に行われる伝統行事「じゅり馬まつり」なのだ。
と、お堅い説明が続いてしまったので、ここで先日行われたじゅり馬まつりの写真を。
南国らしい鮮やかな紅型衣装と、帯のあたりからにょきっと顔を出すユーモラスな馬飾りが特徴的。この馬飾りについて由来は諸説あるようだが、群馬県に伝わる新年の豊作祈願の門付け芸「春駒」が沖縄に伝わり、それが土着化していったものではないかといわれている。
馬には白と赤の二種類あるのだが、赤のほうがちょっと野性的な鋭い目つきをしているのがまた良い。
戦前の最盛期では3,000人(!)規模の大行列だったため、女性たちがこの日のために準備する衣装や小物、化粧品などで那覇の経済が大きく動くほどだったとか。そして辻で暮らす女性たちにとって故郷の家族に元気な姿を見せる数少ない機会でもあったそうだ。泣ける。
動画でもどうぞ!
ユイユイユイ!という掛け声とともにくるくるとハイテンポで踊る女性たち。なんとも晴れやかで楽しそうな表情が印象的だが、この女性たちは実はプロの舞踊家などではなく一般公募で集まった方たち。というのも、じゅり馬パレードは1988年以来、実に36年ぶりの開催なのだ。
戦後もじゅり馬まつりは開催されてきたのだが1980年代後半、財政難を理由にまつりは中止に。その後、2000年になって地域活性化を目的として再開された。そして、昔(1965年)のじゅり馬まつりの様子を撮影した8ミリフィルムが発見されたことからパレード復活の計画が持ち上がり、ついに今年実現することに。
そんなわけで今年がじゅり馬パレードの復活元年。初の試みとして参加者の一般公募を行い、踊り手30名、地謡(じかた:三線の演奏者)9名が集まった。年齢は13歳から71歳までと幅広く、出身地も沖縄本島のみならず沖縄本島周辺の離島や台湾、アメリカとワールドワイド!13歳の子は母親と一緒に親子で参加しているのだとか。
個人練習と何度かの全体練習を重ねて迎えたという本番当日。まだ三月とはいえ南国の強い日差しが照りつけるなか、晴れやかに、軽やかに踊る女性たち。たまに逆に回ってしまって照れ笑いする姿もご愛嬌。
パレードは移動しながら町内三箇所で演舞を行っていく。
じゅり馬まつりは例年旧暦で行われるため平日と重なり、沖縄に住んでいてもこれまでなかなか見る機会がなかったという人も多い。今年は日付を変更して日曜に開催されたためたくさんの見物客で賑わった。
じゅり馬の行列が移動するたびにぞろぞろと付いていく見物客たち。家の窓やベランダから顔をのぞかせて見物する人も。きっとかつてのじゅり馬行列もこんな感じだったのだろう。賑やかな三線の音色にシャンシャンという鈴の音、ユイユイという女性たちの掛け声が美しく響く。さながら白昼夢を見ているかのよう。
じゅり馬パレードは一時間ほど続いたのち、スタート地点に戻ってきた。見物について回っただけでも汗だくになったので、踊っていた皆さんはさぞや大変だったろう。71歳の方は大丈夫だろうか。
しかし、まつりを締めくくる沖縄の定番の踊り「カチャーシー」が始まると会場のボルテージは最高潮に!
資料などがほとんど残っていないなかでの36年ぶりのパレード開催、しかも踊り手は経験の少ない一般の方々ということで、きっと開催までには大変な苦労もあったことだろう。
しかし最後の記念撮影での皆の「やりきった!」という晴れやかな表情を見れば、まつりは大成功だったことが伝わってきた。
いやはや、実に良いまつりだった。
じゅり馬まつりパレードは来年以降も開催予定とのこと。“踊る阿呆に見る阿呆”はまた別のまつりの謳い文句だが、踊っていた女性たちのあまりに楽しそうな様子に次は踊り手側で参加してみたくなってしまった。あの衣装も着てみたいし馬飾りも付けてみたい。
しかし、今年がハイレベルだったことで来年からは激戦のオーディションになっているかもしれない。心してかからねば。
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