沖縄本島最北端の奥集落
沖縄本島最北端の奥集落は目立った観光地があるということもなく、のどかな雰囲気の静かな集落です。
そんな奥集落で、2年に1度シヌグという行事が行われます。
シヌグ自体は他の集落でもおこなわれますが、奥のシヌグでは3日目の最終日に奥シヌグのクライマックスであるビーンクイクイなる行事があるそうです。いつもは静かな奥の若者も長老も大ハッスルするビーンクイクイとはいったいどんな行事なのでしょうか。
車で那覇を出たのが11時すぎ、途中でお昼ごはんを食べて奥に着いた時は午後3時前。さすが最北端の奥。遠いです。
さっそく集落の真ん中にあるシヌグモーと呼ばれる広場に行ってみると、すでに多くの人で賑わっていました。
さてさて、ビーンクイクイとはいったいどのようなお祭りなのでしょうか。
ビーンクイクイって?
ビーンクイクイを簡単に説明すると、集落の長老の男性を桶に乗せて担ぎ、集落内を練り歩くというもの。
こちらが桶です。
籐(とう)の葉っぱで飾られています
こんなお祭りみたことがないですよね。
せっかくなので映像でもご覧くださいませ。
ビーンクイクイはこんな風に行なわれる
少し時間を戻してビーンクイクイを時系列でみていきましょう。
まずはお祭りが始まる前の広場です。
広場シヌグモーの周りでは集落のみなさんが藁を編んでいました。
ビーンクイクイは五穀豊穣と無病息災を願う行事だそうで、藁は米の豊作を意味しているそうです。
編まれた藁は腰や頭に巻きます
最初に、神様に捧げていたお酒が長老たちに振る舞われます。
そして参加者や見学者にお米を振りかけて「五穀豊穣」「無病息災」のお裾分けがされます。
長老が桶に乗る前に、シヌグモーの中心で女性が輪になって踊るウシデークがあります。
今回桶に乗る崎原栄昌(えいしょう)さんは大正14年11月1日生まれの87歳。
シヌグは兄弟ないし男の祭という意味があり、ビーンクイクイでも桶に乗ったり行列を作るのは男性の役割だそうです。
また桶に乗ることができるのは生涯1度限り。
桶に乗ったことのない集落の最高齢の男性が選ばれるそうですが、いつもだいたい80代の半ばだとか。
お元気そうな栄昌さん87歳
栄昌さんを桶に乗せると男性たちが桶を担ぎ、空手や棒術の演武を先頭に、太鼓を打ち鳴らし「ビーンクイクイ」「エイヤーサー」の掛け声を繰り返しながら行列が始まります。
太鼓の人が「ビーンクイクイ」と叫ぶと、まわりの人たちが「エイヤーサー」のかけ声。
語源やはっきりとした意味などは今は誰にもわからないそうですが、「ビーンクイクイ」は福よ来い来い、「エイヤーサー」は悪よ去れという意味が有力だそうです。
「ビーンクイクイ」「エイヤーサー」
「福よ来い来い」「悪よ去れ」
シヌグモーを3周まわると、行列は栄昌さんを桶に乗せたまま集落を通り、アシャギマーと呼ばれる広場を目指します。
集落に入ってもずっと「ビーンクイクイ」「エイヤサー」のかけ声と動作は続けられます。
アシャギマーの広場の手前では女性たちが男性たちの行列を迎えます。
そしてアシャギマーに到着してもまだ行列は広場を何周もまわるのです。
この日は快晴で気温も高く、見ている私も汗だく。
時間は計っていませんでしたが、最初に行列が始まってから30分近くたっていると思います。
桶に乗る栄昌さんも行列の男性たちもすごい体力です。
なぜ長老が桶に乗るのか
長老が乗る桶は昔は棺桶を使っていたそうです。
棺桶と言っても今のように横たわる形態のものではなく、縦長の桶のようなもの。現在は中に座れるようになっていますが、棺桶時代は今よりも底が深く長老は立ったまま担がれていたとか。
棺桶を使う意味も解釈はいろいろあるものの、儀式的に棺桶に入ることで天国に一番近い存在になり、これまで人生の荷をおろし、これからは周りの人の幸せを願って生きる神様のような立場になるのではないかと教えてもらいました。
そして集落の人たちはそんな長老の姿を喜び、長寿の恩恵を授かるそうです。
その話を聞いて写真を見直してみると、担がれて上下に揺れる桶の中で大変なはずなのに栄昌さんはとても優しい顔をしていることに気付きました。
桶に入る人は自分もとうとうこの番が来たか!と自分の人生を振り返り、周りの人は村のために今までご苦労様でしたと感謝する。
ビーンクイクイの桶に入ることはとても誇らしいことなんだよ、とも集落の人はおっしゃっていました。
桶から降りた栄昌さんから、この日のために大切に保存してきたという30年古酒が参加者のみなさんに振る舞われました。
30年前からこの日の準備をされていたとは!
観客の我々にもお裾分けでミキや食べ物が配られました。
ミキなのでどろっとしてましたが、キンキンに冷えていて美味しかったです
ハムとクラッカー
最後は踊っておしまい
少し休憩を挟んで、アシャギマーで再度女性によるウシデークが行なわれます。
大役が終わった男性陣はお酒や食事をしながら、ウシデークを楽しみます。
無病息災と五穀豊穣を願う
奥ではかつて1952年にビーンクイクイが途絶えたそう。復活したのはそれから数十年後の1983年。
その後は1年ごとにでシヌグと海神祭が交互に行われています。
沖縄本島最北端の奥集落。
自然がたくさんあってのどかな奥集落には、ここにだけ受け継がれている伝統が息づいていました。
「ビーンクイクイ」「エイヤーサー」
奥集落に無病息災と五穀豊穣がもたらされますように。