網走道の駅
網走と聞いてまず思い浮かべるのは網走刑務所ではないだろうか。そしてそれはたぶん映画の影響が大きいだろう。
網走の道の駅のフードコートは「キネマ館」と言って映画の雰囲気がじんわりと感じられる場所になっていた。
ここのフードコートのイチオシがこちら「網走ちゃんぽん」である。
天都山のシバれを体感したあとなのでよけいに暖かさが沁みた。もちろんちゃんぽん自体も美味しいのだけれど、冬の北海道では温度こそがたいせつな価値なんだなと思った。
一階にある観光案内所で次にいくべきおすすめを聞く。
冬の北海道は年明けになると流氷が着岸するので一気に観光客が増えるのだという。そして夏は沢で遊んだり山に登ったりと、また観光客が増える。
一番人がいないのが、寒いわりに海もまだ凍っていない今なのだとか。
観光案内サイトに並ぶ「ヒグマ出没のため閉鎖」の文字。天候とヒグマ、こればかりはどうしようもないもの2大勢力である。
「ぜひ知床には行ってもらいたいんですけどねー、この時期はなにしろヒグマが出るので、散策路も入れる場所が少ないです」と。しかも日が短いので今からだ向かうと行ったはいいが帰ってこられない可能性が大とのことだった。なるほど手詰まりである。
能取岬(のとろみさき)
この天候でも、この時期でも、安全に行けて最高な場所はないかと聞いたところ、能取岬(のとろみさき)という場所を勧めてくれた。なんでもCMの撮影なんかでもよく使われていて、行けば「見たことある!」と感動すると思いますよ、と。
それそれ!そういうのですよ、僕の求めていたのは。
お礼を言って車に乗り込み、走ること30分。
能取岬、すごかった。まず風圧で車のドアが開かないのだ。開かないどころか車ごとひっくり返されそうなくらいに揺れている。アメリカで車や牛がトルネードに飛ばされる映画を見たことがあるが、車内で感じる恐怖はそれに値する。怖い。
風が少し息切れしたタイミングで無理矢理外に出てみたのだけれど、地吹雪で地球が波打っているように見えた。
目も開けていられないのでたまらず撤退。
このあと1時間ほど震えながら車内で待機して、吹雪の止み間に走り出て撮った写真がこちらである。
吹雪がおさまると見える景色がものすごく素晴らしいので、寒くても夢中で写真を撮ってしまうのだけれど、2分くらいで手とか顔とか、外気に触れている場所がちぎれそうになる。
そしてまたすぐに海の方から雪雲がやってくるのが見える。
防寒着は作業服屋さんで
この能取岬での地吹雪の写真をSNSにアップしたところ、数人からメッセージをいただいた。ありがとうございます。
その中のいくつかに、防寒着は絶対に作業着屋さんで買え、と書いてあった。このアドバイスにもしっかり頼らせてもらいたい。
最近では関東でも作業服屋さんの防寒着が機能的で最高、なんて話をよく聞くだろう。でも自分ではほとんど行ったことがなかった。一回なにかの撮影で防護服を買いに行ったことがある程度である。
しかし入ってみたら勧められた理由がすぐにわかった。
作業着というのは基本的に屋外での仕事を想定して作られているのだろう。ということは、北海道の作業着には必然的に防寒対策が必須となるのだ。結果、ほとんど防寒着屋さんと言ってしまって間違いない品ぞろえである。
特に見てほしいのが手袋コーナーの充実度。
先ほどの能取灯台で凍傷になりかけたばかりである。明日のことを考えて手袋を買っておいた。
お店を出るとすでに真っ暗だった。いったい何時間手袋を選んでいたのか。
恐る恐る時計を見るとまだ17時前である。
そういえばこちらに来てから日の入りがずいぶん早いなと思っていたのだ。明日は何時に日が沈むのか見届けたいと思う。
現地で読む羆嵐
この日は早々にホテルに帰って流氷館で買った羆嵐を読んだ。この小説、実は前にも読んだことがあったのだけれど、案内所でさんざんヒグマの話を聞いたあとに読むとやはりリアリティが違う。
前に旅行で沖縄に行った時に台風が直撃してホテルから出られなかったことがある。その時は「損した!」と残念に思ったのだけれど、ホテルで一日中オセロやトランプで遊んでそれはそれで楽しかった。
沖縄にはその後も何度も遊びに行ったのだけれど、なぜかよく思い出すのは台風の日の、あの部屋で過ごした時間なのだ。
吹雪きの北海道で夜に羆嵐を読んだ夜のことを、僕はきっと忘れないだろう。