浜松町の高架下
次に勧めてもらったのは浜松町にある高架下である。
東京にはさまざまな路線が集まってきている。電車だけではなく高速道路だって多い。それにともない高架下も増える。
浜松町は京浜東北線と東京モノレールが立体的に交差するダイナミックな景色が見られる。これも一つの東京のみどころだと思う。
そしてこの京浜東北線の線路の下にあるトンネルが今回の目的地である。
なるほどこれは人に勧めたくなるトンネルである。前編では奥多摩にある鍾乳洞を紹介したのだけれど、それに匹敵する迫力といえる。
高架下のトンネルはもちろん人間が実用上の理由で作ったものだけれど、自然が何億年もかけて作った鍾乳洞と雰囲気が似てきているのが面白かった。
少し先に歩くとがらっと雰囲気が変わるのもいい。
途中から色味が変わるのは照明が黄色くなるから。たった数メートル歩くだけなのに、朝から夜まで過ごした気分になる。
これまでもデイリーでは東京の高架下について何度も記事にしてきてきた(これとか)。
これまでは東京にはわざわざ変わった風景を愛でる人たちがいるんだなぁ、と思い見ていたのだけれど、今回の取材で都内にある高架下建築をいくつか見ているうちに、その面白さがわかってきてしまった。やはりネットで見るより現地に行くことが大切なのだ。
東京駅グランスタふたたび
前回紹介した東京駅の地下にあるグランスタも、上に線路が通っているという意味では広義の高架下建築である。
前回の取材からこの東京駅のグランスタが好きになってしまい、東京駅を使うたびに時間のかぎりをここで過ごしている。
中でもおすすめされたのが洋食屋の老舗「東洋軒」である。
東洋軒は三重県の津市が本店。赤坂にも有名な店舗があるのだけれど、それこそ格式が高くて「ちょっと腹減ったから行こうぜ!」みたいな軽いテンションでは行けない。
そんな老舗が東京駅の地下に出店しているのだ。有名店でもエキナカならば入りやすくないか。
お店に入るとここがエキチカだということを忘れる。しっとりとしたバイオリン曲が、ちょどいい音量で流れている。
お店おすすめのブラックカレーを注文。緊張を隠して冷静な調子で注文することができた。こういう小さな勝利を重ねて、人は大人になっていくのだ。
戦利品のブラックカレーは、それはもう黒かった。
前回食べた草枕のカレーも衝撃的だったが、東京にはカレーで人を驚かす文化があるのだろうか。
食べてみると、見たまんまだがコクがすごい。辛さにはトゲがなく、食べ進めるにつれじわじわと体の中が熱くなってくる感じ。聞くところによると、じっくり煮込んで作るこのカレーは完成までに1か月かかるのだとか。あるかそんな料理。アザラシの尻に鳥をつめて埋める、とかではなくてだぞ。
そして特筆すべきはご飯の美味しさである。この濃いカレーを乗せるためだけに栽培されているんじゃないのか。つやつやしていてしっかりと甘い。自家製の福神漬けだってこれだけで一品料理として胸を張れる。
いろんな感情がうずまきすぎてこの一皿でおなか一杯になってしまった。記憶を上書きしたくなかったのでこの日は帰って何も食べずに寝た。夢でまたこのカレーが出てきそうだったから。
次のページは秋葉原駅周辺の遺構を観光します。