特集 2025年6月11日

与謝野晶子と千利休とおれの地元、堺の旧市街を歩き直す 恩師にも会う

高校生のころ、わたしが通学のためにチャリを漕ぎまくっていた場所は、大阪府堺市の旧市街だ。

歴史的に見るとかつては日本国内でもトップレベルに盛り上がっていたエリアで、千利休や与謝野晶子の出身地でもある。飲食店や和菓子屋さんなど、長年営業を続ける名店も多い。

高校生の自分はそんな街のことがよくわからないままに過ごしていた。大人になった今、また歩き直してみることにしよう。

ファンクバンド「踊る!ディスコ室町」のまこまこまこっちゃんです!ギターを弾いています!京都在住!

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チンチン電車で堺市内へ

わたしがチャリで走っていた堺市内の道路は、大道筋(だいどうすじ)という大きな道である。

大人になってから知り合いにこのへんのことを話すと「◯◯という店に行ったことがあるよ」とよく言われる。名店が多いエリアだったのだ。立ち漕ぎしすぎてなにもかも見逃していた。

今回はこのへんを改めて歩いてみたい。自転車だと通過してしまいそうなので、路面電車で向かうことにした。自転車通学がメインだった当時も、気が向くとチンチン電車に乗って通学していた。

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始発駅の駅舎がシブい。久しぶりに乗ってみると、おじいちゃんが孫に対して「じゃりン子チエの舞台はこのへんやで」と路線図を指さして説明している。孫は「なにそれ、知らん」と答えて、車内に気まずい空気が残った。
当時、数ある名店をスルーして通ったブックオフが今もあった
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「飯炊き仙人」のゲコ亭

電車が大道筋に入って、まず見えてくるのが「ゲコ亭」である。

ここは昔から「飯炊き仙人」と異名をもつ店主が釜で炊くコメがとにかくめちゃくちゃうまいと評判の定食屋さんだ。残念ながらもう仙人はいないが、今でも昼どきに行列ができる。

遠方からやって来る人も多いらしく、友達に「堺でゲコ亭にいったよ」とよく言われる。「ゲコ亭うまいよな」とムダに話をあわせたことがあるが、実は行ったことがなかった。すんません。

外観にインパクトがある。毎日店の前を通っていたが、朝夕の登下校時に通過するだけの高校生には縁がなかった。しかし30歳をむかえた今は、定食屋が大好きである
今のおれには大ヒットだが、高校生にはややシブすぎたかもしれない店内

入店すると、おかずはセルフで選ぶスタイルだ。ご飯は会計時に大中小から宣言。BGMのない店内に、会計をするおばあちゃんの声と、お客さんがめしをかき込む音が響いている。

好きなものばっかり選んで会計に進むと、おばあちゃんが私のお盆をひと目みて「せんにひゃくえん」と暗算しつつ(「せん」ではなく「に」にアクセントがくる大阪弁)、「野菜も食べてや」とホウレンソウのおひたしをサービスしてくれた。おばあちゃんありがとう。

ライターのこーだいさんとその同居人で堺出身のTさんが同行してくれた。店が混んでいたので道路を挟んだ別館へ
白ご飯に肉じゃが、ぶり照り、味噌汁でせんにひゃくえん。おひたしはサービス!

食べてみると、ぶり照りのタレも甘辛く、肉じゃがもしっかり甘いのが関西風だ。特に肉じゃがは大阪風なのかもしれない。甘い玉ねぎと、味がしっかりしゅんだ(しみた)牛肉が懐かしうまい。

わたしとTさんが異口同音に「やっぱり肉じゃがは牛肉かもしれへんな」とうなった。ふたりとも自分で作るときは安い豚肉を使いがちだったが、大阪の肉じゃがはやっぱり牛なのだ。

もちろんコメもおいしい。コメのプリプリと甘辛い肉じゃが、ぶり照りのコンビネーション、そして箸休めにおひたし。仙人とおばあちゃんの技、おそるべしである。

こーだいさんのう巻きがうまそう。「こっちはナスの煮浸しがサービスされたんですよね」と
仙人ありがとう!
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「かん袋」でくるみ餅

ゲコ亭でお腹はいっぱいになったがこれで満足している場合ではなく、歩いてすぐの至近距離にあるのが「かん袋」だ。

こちらの名物はくるみ餅。和菓子である。クラスメイトの女の子たちがたまに通っていたような気がするが、その頃わたしはブックオフに吸い込まれていた。30歳になった今もブックオフには行きたいが、今日はそのことを忘れてくるみ餅を注文する。

江戸時代の創業当時、店主が建築資材を紙袋のように投げ飛ばしていたことから「かん袋」と命名されたそうだ
番号札が本当に札でかっこいいね

とどいたくるみ餅はみどり色だ。胡桃のお餅なのかと思っていたがそうではなく、餡でお餅をくるんでいるからくるみ餅なのだった。15年間の勘違いが今とけた。

堺名物・くるみ餅(氷くるみ餅)。ずんだのような豆の味わいがある餡が、キリッと冷えてなおうまい。冷たくなると甘さが控えめに感じられるのか、上品さを感じます。クラスメイトたちは夏に来てこれをよく食べていた気がする。
こちらが通常のくるみ餅。こっちももちろんおいしい。温かいお茶といっしょに食べたい甘さ

食ってみると、もちろんおいしい。おれがブックオフで漫画を立ち読みしているあいだに、クラスの人たちはこんないいものを食べていたのか、とぼんやり悔しくなった。

今食べれたのでオッケー

なお店内には、堺の歴史や文化を表現した設えが多い。いま私が暮らしている京都の老舗たちはそのへんの主張がない(=本当はめっちゃ主張があるはずだが、はっきり目で見てわかるアピールはしていない場合が多い)ことが逆にわかるほどだ。

目につくのは南蛮貿易にまつわる品物
こちらは南蛮人形。1550年には宣教師としてザビエルもやってきた。ザビエルはくるみ餅を食っただろうか

これら南蛮貿易については、じつは和菓子屋さんが多いこととも関係していた。貿易港として栄えたので、古くから砂糖が手に入りやすくて菓子文化が発展したのである。

さらにその後、戦国時代には千利休が登場、わび茶とかいって茶道を盛り上げまくったこともあり堺には和菓子屋さんが多いのだ。

これまで堺・京都と、比較的和菓子屋さんの多いエリアに暮らしてきたので気づかなかったが、意識して歩くとたしかに和菓子屋さんが多い。

⏩ 与謝野晶子と橋田壽賀子とおれの母校

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