ライトチャイナからディープチャイナまで。
中国本のニーズは時代とともに変わっていった。中国本、あるいは神保町の専門書店といっても難しい本だけでなく、尋ねてみればライトな本も教えてくれて、思いがけない本や知識との出会いがありそうだ。
ディープなところでも、中国人も驚く中国マニアック学術研究本がかなりあることを教えてくれた。秋葉原や原宿で売られている、通しかわからない電気製品やファッションのようなものだろうか。マニアック好きにもたまらない。
東京の本の街「神保町(じんぼうちょう)」にはなんだかすごそうな本屋が多くある。
専門の本屋がズラリと並ぶそのさまは独特な雰囲気で、どこかに入って知らないジャンルの本に囲まれてみたいけど、どの店に行けばいいのかわからなくなる。
秋葉原まで行ったけど結局ヨドバシカメラに行ってしまうように、原宿に行ったけど結局ユニクロに行ってしまうように、神保町に来たのに結局なんとなく大型書店に入って満足してしまうことがよくある。
ところで僕はこれまで中国ネタを書いたこともあり、中国ならちょっとは慣れている。
神保町には中国専門書店「東方書店」という本屋がある。ここでふらっと入って買いたくなる本について聞いてみた。
東方書店は中国専門書店だけに、日本で売られている中国についての本と、中国現地から輸入した本がびっしり売られている。
僕も中国にはちょっとは慣れているとはいえ、この量には圧倒される。ましてや中国を知らない人は、である。
店内で本に囲まれていると、すっと店入ってきて「XXについての本はありますか?」と聞いてくるお客さんがいた。また店員さんは「XXは売っていますか?」という電話に応対しているようだった。
なるほど、ネットの検索に慣れてるように、お客さんも本屋街の検索に慣れている。そういう買い方なのか。
そこで僕も「中国語が読めなくても読めてしまう本を教えて下さい!」と聞いてみた。
「隠れヒット商品が、イラストの描き方の本なんですよ。これですとイラストメインですので直感的に見てわかります」
中国でトレンドの漫画の描き方の本だ。難しそうな資料本だけでなく、こういう本まで売っているとは。 訊ねてみるものですね。
むかし、日本のイラストの描き方の本をが中国で売られているのを見たことがある。でも最近の画風は違って、そのイラスト技法の本も中国で出版されているのか。
中国での流行に合わせて仕入れたんだろうか。いつごろから販売しはじめたのだろう。
「あるときイラストの描き方本の注文が来たんですよ。それで中国からいろいろ輸入して売り出してみたのです。これがすごい売れたんですよね。熱心な方がいるんですよ。
ふだんは学術書とか売ってるので、いやー、なんか意外で、すごいなあと」
田原さんも最近のトレンドの変わり様に驚いていた。
イラスト集を見ると、男性キャラのイラストの描き方がけっこうある。女性のファンが多いのだろうか。
「そうなんですよね。描き方本以外にも、アニメ化された天官賜福の漫画の原作なんかは100冊200冊クラスで売れるんです。若い女性に人気なんですよ。
ファングッズとしてのイラスト集とか、そういうのもすごく売れるんです。
初回限定本に特典がつくものもあるのですが、これが難しいんですよね。輸入して届いたものが初回限定の期待されてたものじゃなかったりすると、ファン心理としては「ソレジャナイ」わけで。悩ましいですねえ」
「2020年まで出ていた「知日」という雑誌も、人気でしたね。この雑誌は中国語を知らなくてもなんとなく何が紹介されているかわかります」
と田原さんはバックナンバーを紹介してくれた。
「NHKで紹介されたことで日本でも知る人ぞ知る雑誌となったんですよ。
最初はサブカルの本だったのですが、だんだんと日本文化紹介の本になっていきましたね」
知日は日本紹介雑誌で、ゲーム、お笑い、コンビニ、雑貨などいろんな種類をテーマにしていて、かなり分厚くつまり中身が濃い。
中国でもそのまま「雑貨」という言葉が使われるほど人気の日本の雑貨。それを知日の雑貨回でどうマニアックに分析するのだろう。気になる。
ともかく題材が日本で写真も多いのでなんとなく何を扱っているかわかるし、なんならスキャンして翻訳サービスを使えば読めそうだ。
中国の日本マニアの調査能力に「えらいくわしいなあ」と脱帽したい。
日本の中国本についても少し触れよう。
「中国好きな日本人というのは歴史に惹かれるのでしょうね。うちにそういう本は多いですが、それにしてもなんでこんなに詳しいんだと、中国人も驚くような本もあります。」
例えばどんなのだろう。
「三国志関連ですね。全部三国志だけの棚もあります。三国志学会の本もありますよ。なんで日本人そんなマニアックなんだと、中国人も驚きますね。
あと中国鉄道時刻表(中国のローカル線に乗ったら鉄道員と仲良くなった)なんかも驚かれますね。」
「昔は中国の武術本が中国専門でないお客様にも売れてたんですよ。
少林拳って聞くじゃないですか。少林拳っていってもいくつも分かれてて、それぞれの流派というんですか、その写真や絵がメインの武術の本があるんです。」
たしかに昔は中国のイメージといえばそのひとつがカンフーとか少林拳だった!格闘家が神保町に来てたんですか。なるほど中国書籍の中には肉体派の本もあるわけだ。
「ここが語学書のコーナーですが、昔だと香港映画の影響で言語を覚えたくなり、広東語を学習するんだという人が多かったですね(といって広東語の学習コーナーを指を指す)」
ジャッキーチェンの映画の物真似とか鼻歌とかやってた世代はいる。そこから始まる広東語かあ。
中国本のニーズは時代とともに変わっていった。中国本、あるいは神保町の専門書店といっても難しい本だけでなく、尋ねてみればライトな本も教えてくれて、思いがけない本や知識との出会いがありそうだ。
ディープなところでも、中国人も驚く中国マニアック学術研究本がかなりあることを教えてくれた。秋葉原や原宿で売られている、通しかわからない電気製品やファッションのようなものだろうか。マニアック好きにもたまらない。
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