中国のローカル鉄道はタイムマシン
――よろしくお願いいたします。中国全土の稀少な普通列車に乗っているというのがすごいですね(笑) まずローカル列車の魅力についてお願いいたします。
twinrail「中国がどんどん変わっているといわれていますが、車窓にも車内にも、1980年代のレトロ、生活スタイル、列車そのもののスタイル、沿線のスタイルがあるんですね。大都市・外界とつながっているのにその路線・列車は昔のまま、というギャップにいちいち萌えてしまうんです。」
――僕も今の中国より、昔懐かしの中国が好きですね。乗りたいなあ。
何玏「そうした列車に乗れるところは限られています。中国は長距離移動の多い国柄なので、鉄道を走るのは特急列車や貨物列車がもっぱらで、近距離の移動はバスや地下鉄がメインです。発展から取り残されて、道路整備が不十分な東北部、西北部、西南部の地域で、中国のローカル線を走る普通列車は残っているのです。」
――なんと、もうほとんど走ってないとは。上海や広東の列車に乗ってると、ときどき駅員が起立して見守ってる通過駅を見るのですが、あれはひょっとしてもう列車が止まらない駅なのですね!
twinrail「普通列車は乗るたびにイベントだらけで。中国の果てを走る列車だからこそ味があります。少数民族が乗ってるとか、豚や羊が乗ってくるとか。」
何玏「沿線の廃墟とか廃村が見られるとか。冬は今どき石炭を焚いて暖房するという古式ゆかしい列車があるとか。」
――列車に乗ればいいんで、バスよりも簡単に確実に乗れるわけでしょう。乗りつぶしたくなりますねえ。
何玏「中国の時刻表を見ると一番後ろのほうに、普通しか走ってなくて、時刻表なのに営業キロふられてなくて、時刻が明記されてない路線があるわけです。すごい気になるわけですよ。もうこれは制するしかないと。行ってみると想像の斜め上の出来事が待ってるわけです。」
肥料袋が詰め込まれる(四川省)
twinrail「僕が乗ったのは四川省の攀枝花というところから普雄へ行く普通列車です。少数民族のイ族が暮らす地域で、イ族の人を乗せて時々12両編成の列車が緑の山の中を走るんですよ。」
――東南アジアに近い西南のほうの景色ですねえ。長い列車がのんびりと走ってそう。
twinrail「途中の西昌駅から混み始めて。駅の塀の隙間から駅に列車にわさわさ人が入ってくるんです。子供も多かったなあ。」
twinrail「人のほかには持ち込まれた肥料袋も入ったし、豚も羊も乗らされて。肥料袋やら人やらでもうめちゃめちゃ混むんですよ!」
――肥料袋!
twinrail「それを窓から入れるんです。窓から出入りする人もいます。あと帰りもジャガイモの山が普雄駅入口に積まれてて駅に入れなかった(笑)」
――それにしても過疎みたいなのに人が利用してるんだなあ。そういえば駅前に馬車がとめてあって降りた人々がそれに乗り換えてました。今の時代に牧歌的ですよねえ。
試される大地の鉄道乗りつぶし
何玏「僕が好きなのは中国東北地方です。僕の実家は西安で、それまでにぎやかな中国しか知らなかったけど、わびしい中国を知ってとりつかれました。中でも地図でいうと中国東北端の碧水というところに行く盲腸線がすごくて。3月に行ったら現地はまだ冬で、温度はマイナス30度の極寒でした。」
――ハードルがめちゃめちゃ高い(笑)
何玏「人口密度がものすごく少ない白樺とかの森の中を進んでいく列車で、車窓を見るとたまに見る建物も昔のままで一部朽ち果ててるんですね。それでも何もないところで止まって人が乗ってくるんです。衝撃的でした。」
――何かの地元民しかわからない目印があって時間になったらそこに集まるんだろうなあ。
何玏「終点の碧水に着いたんですけど何もないんです。驚くほど何もない。鉄道で働いてる人の村なんですね。鉄道員を送る列車だったのです。」
――わびさびある景色ですねえ。
何玏「ちなみにその路線は今は資金不足でメンテが行き届かず、鉄道当局から基準に達してないので身売り先を探してるようで。」
――試される大地だ!早く乗りに行かないとまずいわけだ。
何玏「黒竜江省のあたりは、ほんと北海道ですよ。東北地方は林業で入植したのに資源がなくなって、今、無数の夕張的な街がありました。それを見に行くために乗りつぶしましたよ。」
おっさんトラップ
――車窓は景色がすごすぎてシャッターチャンスを待って窓に張り付きたくなりますね。
何玏「それがそうでもないんです。鉄オタとしては車窓をとりたいけど、おっさんが話しかけ続けてきて邪魔するんです、相手の反応関係なく話し続けますよね。しかもおっさんの言ってることが方言強すぎてわからないことがある(笑)」
twinrail「日本語を車内で話していると、大学生っぽい人から日本人ですか?と聞かれることもありますね。村上春樹が好きという話から始まるんだけど、スマホを見たら海賊版漫画アプリがあって、日本の漫画を見てる日本オタクだった。」
――車窓が見たいのに出会いもあり悩ましいですねそれ。
何玏「普通列車は職員も客も友達で、外界の人がくるとわかるんですよ。だから乗車すると客と職員にロックオンされて、茶を出されて「どこからきた?」と質問攻めするんです。「どこから来た」「家の値段はいくらだ」「収入はいくらだ」「医療保険は何割か」「家電が安いか」聞いてくる話題がいつも同じで。」
――どこから来た?とか家族構成とか無駄に聞かれますよね。
何玏「通り一遍の話なんですけど、ローカル列車の人たちからするとすごい非日常なんです。彼らは数十年同じ列車にのりこんで生活しているんで、日常の刺激がないんですよ。質問攻めしたくなるのはそうした背景があって、日本の話が彼らにとってはめちゃくちゃ面白い。」
twinrail「貧しくてスマホがないわけではないんですよ。少数民族の人々もスマホはもってるけど、使い道はLineみたいなWeChatというアプリで。そのWeChatのグループチャットで今日の豚情報が流れてくるんです。」
何玏「あ、鉄道おじさんに、他の中国の地域の鉄道や日本の鉄道と比べて鉄道はどうだとは聞かれますね。船と一緒で同じ列車でいつづけるわけで、列車は家なんです。うちの職場どう?みたいな意識。日本の車掌とはそこは違いますね。」
――いいなあ。高速鉄道は客も乗務員も、今はまず絡んできませんよね。
twinrail「鉄道員は暇なんですよ。それでいてみなさんノリがいい。乗務員がゆるく絡んでくれてダメダメなのがローカル列車なんです。」
何玏「だから旅行には翻訳機を持っていくといいでしょうね。あれがあるとハプニング的な会話が楽しめて思い出深い旅行になると思いますよ。」
――おじさんとの遭遇の話が多いですが、おばさんはどうです?車内販売の人とか?
何玏「おじさんとは対照的に車内販売の女性はあまり声をかけてこないですね。普段から人と接しているから話したいとは思わないのかもしれないのかも。」
twinrail「車内販売で妙なものが売られるんですよね。あるときはニセ札判定ビームが出せるメガネを売っていたので買って、買ったついで売り子さんにビームを照射したらウケて、切符売り場の売り子さんにもビームを照射してまたまたウケました(笑)」
妄想中国鉄道旅行のススメ
いま中国に行けないなかで、時刻表でどう脳内妄想鉄道旅行すればいいか聞いてみた。
「時刻表を読むというのは、そこに住む人々の生活を想像することだと思っています。列車というのは適当に走っているわけではなくて、ちゃんと人々の生活に合わせて走っているんですよね。
「「崖」とか「峰」とかが駅名に付いている、きっと山の中を通るのかな?」「深夜0時に終点の駅に着く列車には、どんな人が降りるんだろう?」「普通列車が走っていない、ここで生活圏が変わるのかな?」とか思うわけです。
生活と移動って切り離せないものですし、移動できない今こそ人々の移動の証である時刻表をじっくりと読み解きたいですね」
とtwinrail氏。なるほど時刻表の妄想旅行は日本とはまた違う感じで楽しめそうだ。