雑居ビルの空気感は人がつくりだす
高田馬場のミャンマーに行くぞ、という気持ちのせいもあるだろうけど、上から下まで建物を巡って、なんかゆるゆるになっていた。
家に帰るまでが遠足とはいうが、ミャンマーには日本の中古の列車が走っている。だから山手線に乗ってもミャンマー気分のままだろうと思い込んで乗ったが、山手線の中は日本だった。
やはりタックイレブンの空気感は商品だけでなく、人が作り出す空気感がいいのだ。
東京の新宿と池袋の間にある高田馬場は外国料理屋が多い。中国やベトナムや韓国料理などいろんな料理屋があり、珍しいところではミャンマー料理屋もある。
ミャンマー料理屋でも珍しいのに、高田馬場駅のすぐ近くにミャンマーの店ばかりが入ったビルがあるという。名前はタックイレブン。
タックイレブンに行ってみたら本当にミャンマーだらけで海外旅行に行ったような非日常が楽しめた。
高田馬場駅は地下に東西線が、地上ではJR線と西武線の線路が並行し、駅の先で布団ばさみのような形で交差する。この布団ばさみの間の空間のようなところにタックイレブンがある。
駅の改札口から手塚治虫のキャラクターが描かれた壁に向かって、横断歩道を渡ってすぐのところにあるという。
写真の先を行ったところを右に曲がると上階に行くためのエレベーターがある。1階には「ノング・インレイ」というミャンマー料理屋があって、ここは有名なのだそう。しかしこの上の階がすごいんだとか。
なにせ筆者はミャンマー語も文字もわからないので、一昔前のスマホがなかったころの旅のようにビルの中を歩くことにした。次々に出てくるミャンマー語の意味が知りたくて時間がある人はグーグルレンズを使って歩いてみてもきっと面白い。
とりあえずエレベーターで一番上の11階までいって、そこから階段で降りてくることにした。最上階でエレベーターを降りて驚いた。
ビルの通路は一本。その両側に事務所のドアが並ぶ。空いていないところも多いけど、1つのフロア(階)にだいたいひとつくらいドアが開いていて、見てみるとだいたいミャンマーの商店なのだ。
中をおそるおそる覗くとそこはミャンマーだった……ということではなくて、店の外にミャンマー語のポスターやら商品棚があるので、のぞきこむ前からどう見てもミャンマーなのである。
それぞれの店が小さな事務所スペースに商品を広げながら、よくよく見てみるとそれぞれ違う商品がある。店の名前はあったりなかったり、ミャンマー語で書かれたり。迷わず行けよ、行けばわかるさ。
店の中に入ってみれば、商品がびっしり。ミャンマー人の方がまったり座っているだけでなく、店にお邪魔するとご飯を食べていたり、商品をパッケージしていたり、友達と談笑していたりする。匂いだけでなく、雰囲気もどこか日本ではなくアジアな感じでたまらない。
店員さんは日本にいるので日本語が通じる。ミャンマー人同士でミャンマー語で談笑してるけど、これはなんですか?ときけば、日本語で頑張って答えてくれる。それもまたいい。
売られているものは食材が多い。インスタント麺や調味料からおかずや冷蔵されたものまでいろいろある。
何がおすすめなのだろうか。聞くと
「人気なのはミルクティーですよ。日本人に人気。あとも食べるお茶も人気。ご飯にかけるんですよ。いろんな味があるね」
とすすめてくれた。何店かで聞いたけど、やはりこの2つが定番のようだ。
ミルクティーも独特な苦みのある甘さがいいし、勧められたたべるお茶も味は日本人に人気そうな味ながら、日本にはない感じの食べ物で、「ほぉー」とか「へぇー」とか驚きながら食べた。
ある店に入るとおかずが売られていた。「何か買いたいです!」と声をかける。ここで食べることはできず、持ち帰るようだ。
ミャンマーにいるかのように、これとこれを下さいと指をさすと、料理を紙コップに入れてくれた。それほどにおわなかったけど、念のため100円ショップで買ったチャックが付いた保存袋に入れて匂いや食事が漏れないように持ち帰る。
「からいですよー」というミャンマー納豆なるものを買った。帰ってから食べてみると、他のアジアの激辛な食べ物に比べてマイルドで、でも風味があってご飯がすすむ!思いもよらないうまさに、食卓で「おいしい!」と唸った。
1000円以上するものもあるけれど、モヒンガーというミャンマー定番の麺料理のインスタント麺が200円とか、四角いケーキが300円とか、インスタントコーヒーやミルクティーがバラ売り一袋50円とか、けっこう手軽なものも多い。
ミャンマーの人にとっては愛用する食品で生活に根差した商品だが、日本人には食べたり飲んだりするまでどんな味かわからない。これもまた海外旅行にいるような感覚で楽しい。
タックイレブンに足を踏み入れた当初は、店にいっても全部が知らない商品ばかりで目が泳いでいた。でもいくつかの店に入って目がなれて余裕が出てきた。そこでじっくり店内でお土産になりそうなものを捜す。
ロンジーはミャンマーに行ったときに買ったのだが、やはり着る機会がないのだ。なにか使えたり飾れたりするものがいい。
と探しているとちょうどあった。スマホケースが。
「これいいものですよ、買って。iPhoneなの?じゃあこれがいいね」
そういって店のおじさんは対応ケースをピックアップして見せてくれた。どれも旅先で売ってそうなケースだ。
「ヨドバシで売ろうとしたんだよ。そしたらダメって言われちゃって。ガハハ」
陽気な店員からiPhoneSE2用スマホケースを買った。1000円もしなかったので財布に優しい。
階段で4階まで下っていくと、カフェがあった。1階のノング・インレイがやっている「タウンジーカフェ&バー」だという。これもまたアジアにトリップしたような雰囲気の店で、旅先で休憩するように、ふらふらと入り椅子に座る。
日本のカフェとの微妙な内装の違いとか、テーブルに置かれた揚げ豚皮のパッケージとか、テーブルや椅子の置き方といった空間づくりに外国感がにじみでている。脳のどこかが、いま日本でないどこかにいるような誤解をしていた。
もちろんここでも店員さんはやさしく、どこかゆっくりした空間だ。ミャンマーの上下移動旅の最後に気持ちよく脱力できた。
高田馬場のミャンマーに行くぞ、という気持ちのせいもあるだろうけど、上から下まで建物を巡って、なんかゆるゆるになっていた。
家に帰るまでが遠足とはいうが、ミャンマーには日本の中古の列車が走っている。だから山手線に乗ってもミャンマー気分のままだろうと思い込んで乗ったが、山手線の中は日本だった。
やはりタックイレブンの空気感は商品だけでなく、人が作り出す空気感がいいのだ。
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