特集 2024年1月31日

好きな石を見せ合って勝敗を決める「石すもう」が盛り上がりつつある

変わった形の石、表面の感触が面白い石、いい色の石など、様々な石がある。価値が高いものは売買されたり、それこそ宝石として扱われるけど、そういう価値とは無縁の、路傍に落ちている石のような、そっと存在する石もある。

どこかで、なんとなく拾って大事にとってある石が、誰しもいくつかあるのではないだろうか。

参加者がそういった石を交互に披露し合い、ギャラリーの拍手によって勝敗を決める「石すもう」という遊びがあり、じわじわと人気を集めているという。その楽しみに迫りたい。

大阪在住のフリーライター。酒場めぐりと平日昼間の散歩が趣味。1,000円以内で楽しめることはだいたい大好きです。テクノラップバンド「チミドロ」のリーダーとしても活動しています。(動画インタビュー)

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謎の人だかりができていると思ったら「石すもう」だった

2023年10月末、大阪で開催された「キタカガヤフリー 2023 オータム & アジアブックマーケット」というイベントに足を運んだ。造船所跡の大きな建物が会場になっていて、そこに小規模な出版社や面白い雑貨を売るブースなどがたくさん並んでいてすごく楽しかった。

うろうろ歩いていると、多くの人で賑わっている会場内の一画に人だかりができていて気になった。近づいて覗いてみると、「石すもう」という競技が行われているらしい。

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人だかりの中心で、どうやら「石すもう」というものが行われているらしい

石ですもう……どういうことだろうかと不思議に思いつつ眺める。どうやら二人の人が対戦していて、互いに一つずつ出した石の良さを競っているようだ。立って見ていると、木のトレイに乗った二つの石が観客の手から手へと順に渡されていき、私のところにも来た。

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どちらの石もいい雰囲気だな

トレイに乗せられた二つの石を観客がじっと見て、触ったり裏返したりして、どっちが好きかをジャッジするようだ。その場にいる観客がみんな石を見終えたところで行司が「〇〇関(出場者の名前)の石がいいと思った方は拍手をお願いします」と言い、拍手した人の多い方が勝ちとなる。そしてそれを繰り返すらしいと、おおよそのルールはすぐに理解できた。

分かりやすい遊びだし、「どっちの石がより良いか」なんて、普段考えたこともないことをじっくり考えさせられるのも面白く、だいぶ長いことその様子を見ていた。私同様、ふらっと近づいてきてそのまま観戦していく人も多く、気づけばオーディエンスはかなりの数になっている。そうなると一試合ごとの熱気もさらに増して盛り上がり、イベントが終わって数日経った後も「石すもう、面白かったな」と、その時のことを思い出したりしていた。

改めてちゃんと石すもうに向き合う機会が訪れた

それから数か月後のこと。私がたまにスタッフとして手伝いをしている大阪のミニコミ専門書店「シカク」で、「新春 石すもう大会」が開催されることになった。

シカクの店主・たけしげさんと石すもうの大会関係者が知り合いで、その縁で実現したらしい。気になっていた石すもうが、向こうの方から私の近くにやってきたような、そんな不思議な感覚である。このありがたい機会に、改めて石すもうというものをしっかり見て、その面白さを知りたい。

で、これからその大会の模様をレポートするのだが、先にお伝えしておきたいのが、石を手に入れる際のルールについてである。たとえば私は石を拾おうと思ったら川とか海が思い浮かぶのだが、どこの石でも勝手に持って帰っていいわけではない。河川も海岸も国や県が管理していて、河川法、海岸法といった法律が定められている。石や砂の採取は原則的には禁止だが、「個人が少量程度」という程度なら“自由使用”の範囲となり、問題ないというのが通例の見解のようである。

※たとえば国土交通省の子ども向けサイトには「量が少しであれば、持って帰っても大丈夫です」という記載がある。

ただ、私有地や国立公園、海岸保全区域など、石や砂の採取が禁じられている場所もあるので注意が必要である。厳密に言えば、その都度確認を取るのが一番であることをお断りしておきたい。

それを踏まえていただいた上で、さあ、会場の「シカク」にやってきました。

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大阪市此花区にあるミニコミ専門書店「シカク」が今日の大会の舞台
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扉の向こうですでに「石すもう大会」が始まっているようだ

到着した時点ですでに石すもう大会がスタートしており、シカクの店内が出場者と観客とで賑わっていた。この日は9人の出場者が事前にエントリーをしていたそうで、1対1で競い合いつつ、1回戦から決勝戦までをトーナメント方式で勝ち抜いて優勝を目指すことになる。

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この日のトーナメント表。手作り感がいい

石すもうのシンプルなルールを改めて学ぶ

ここで石すもうのルールを改めておさらいしておきたい。

1.出場者が1対1で場に向き合い、ジャンケンで先攻後攻を決める

2.先攻側から好きな石を1つずつ場に出す。またその際、出場者が石についての思い入れを語ったり、石を水で濡らす、ライトで照らすなどの見せ方を指示してもいい

3.出された石をトレイに乗せ、観客たちがじっくりそれを見る(出場者からのNGがないかぎり、観客は石に触れたり裏返したりしてみてもいい)

4.観客は石を見終えた後、行司の指示に従って先攻後攻どちらか好きな石の方にだけ拍手をする

5.拍手した人の数を行司が判断し、より多かった方が勝ちとなる。どちらも同じ程度の拍手の数であればドローになることもある

6.それを繰り返し、先に3勝した方がその対戦の勝者となる

と、こんなところだろうか。ちなみに石すもうが行われている間、「石DJ」と呼ばれるDJが音楽をかけて場を盛り上げるのが重要だという。

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この日、カセットテープで「石DJ」をしていたobocoさん

2勝2敗状態でさらにドローが何度も続いて……というような試合もあり得るし、それを決勝戦まで数回繰り返すかもしれないわけで、出場者はある程度の数の石を用意することになる。

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場にいくつも石が並ぶことになる

ちなみに持ち石はプラスチックのケースや木箱やきんちゃく袋など、みな思い思いの方法で持ってきているようだった。

と、以上のようなルールさえ共有できれば、世界中どこででも石すもうはできる。後述するが、主催者も石すもうがあちこちに広がっていくことを望んでいるそうなので、ぜひみなさんも試してみてください!

シカク店主・たけしげさんが参加した試合を見てみる

さて、実際に試合の様子を見ていこう。1回戦の第3試合、シカクの代表・たけしげみゆきさんと、「石ころZINE」という自費出版本を作っている方でもある石ころ文庫さんの対戦がちょうど始まるところだった。ともに初出場とのこと。

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テーブルに向かって奥側にいるのがたけしげさん、手前側が石ころ文庫さん。行司は貝つぶさんが務めている

ジャンケンの結果、先攻側に決まったたけしげさん(石すもう対戦中は「たけしげ関」と呼ばれる)が1石目を場に出す。

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石が場に出るごとに観客から「おお」と歓声があがる

たけしげさんが人からもらったという、ちょっとゴツッとしてかっこいい石である。対する後攻の石ころ文庫関は同じ色合いの、少し小さめの石を出した。

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こんな風に一つずつ石を出し合い、勝負するのである

石ころ文庫さんが出したこの石、ライトで下から照らすといい色合いに変化するのだという。場内の電気が消され、場にあったペンライトで下から石を照らすと……

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ここでまた歓声があがった

おお!光が当たった石の底部だけが透けて、すごくきれい!二つの石はペンライトとともにトレイ(石すもうには「我谷盆」という石川県産のお盆が最適なのだとか)に乗せられ、観客のもとを一周する。みんな実際にライトで照らしてその美しさを確かめている。

行司の指示で、観客が好きな方の石に拍手をする。僅差だが、石ころ文庫さんの石の方に多くの拍手が集まった。

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ライトで照らすことで本領を発揮するという仕掛けも功を奏し、1石目は後攻・石ころ文庫さんが勝利
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続いて2石目は、たけしげ関が幕の内弁当に入っているような「バラン」のような形に見えなくもない石を、石ころ文庫関は、「それなら私は」と、「名菓ひよ子」のような形に見える石を出した。どちらもなんというか、存在感が可愛らしい石である。

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こうしてそれぞれの出した石をどんどん見ていくのである

後攻側は先攻側が出した石を見て、そこに対応した石選びができる点で若干有利と言えるかもしれない。しかし、2石目は観客の拍手がちょうど半々ぐらいに割れ、ドローとなった。

続く3石目はこうだ。

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これまた個性的な二つの石

たけしげ関は焼いたよもぎ餅に見えるという石を、対する石ころ文庫関は脂ののった肉っぽい石を出し、歓声があがる。

結果、肉っぽい石の肉っぽさのインパクトもあって、後攻の石ころ文庫関が勝利。2勝して勝ち抜きに王手をかけた。

しかし、たけしげ関もただでは負けない。4石目で出したのはなんと、持ってくる途中で割れてしまったという石であった。

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たけしげ関が出した右の石、真ん中あたりで割れてしまっている

「砕けた断面も見て欲しい」という、割れたことをむしろ逆手にとるプレゼンテーションで観客の心を掴み、ここで勝利する。

続いて、ここからの巻き返しもあるかと思われた5石目だったが、「ハートっぽい形の石」を出したたけしげ関に対し、石ころ文庫関は「綺麗な穴の開いた石」を出す。

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石ころ文庫関が出した左側の石にぽっかり空いた穴がすごくきれいだった

その穴の開き方がなんとも見事で、ここでまた石ころ文庫関が勝利。この試合での勝者となったのだった。

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3勝を上げ、たけしげ関に勝利した石ころ文庫関

対戦に使われた石は試合終了まで場にそのまま置かれ、試合終了後に「棋譜」として提示される。それを写真に収めていく人もいる。

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勝った方の石が中央に近い位置に置かれ(ドローは両方とも中央に置く)、どちらが何手目にどの石で勝ったかがわかるようになっている

⏩ どうして生まれたのか、発案者にインタビュー

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