惜しくも敗戦したたけしげさんにインタビュー
健闘したものの、後攻の石ころ文庫さんに惜しくも敗れたたけしげさんに試合後の感想を聞いた。
――残念ながら負けてしまいましたが、どうでしたか?
たけしげさん「石ころ文庫さんが私の出した石に合わせた石選びをしてきて、憎い戦い方というか、かなわかったです……」
――でも、いい試合でした。持ってくる途中に石が割れたというのが面白かったです。石すもう、やってみて面白かったですか?
たけしげさん「面白かったです。ルールに自由度があるというか、石好きたちが集まって石を自慢してるうちに自然発生的に生まれたストリートファイトみたいな感じがあって。あえてルールをざっくりしたものにしてあるからこそ楽しいのかもと思いました」
――また出場したいですか?
たけしげさん「でも、観客として見るのでも十分楽しいですよね。図鑑に載ってるような綺麗な鉱石じゃなく、いろんな素材が混ざったり削れて変わった形になったりしている石をあんなにたくさん見る機会はそうそうないし、特に私は石を眺めるのが好きなだけのライト層なので」
――でも、観客として石すもうを研究して、また出て欲しいです!
たけしげさん「そうですね。強い出場者の人たちは石をたくさん持っていたり、石への愛も強いから、一つ一つの石に対するエピソードもあるし、ああいうのがすごいですね。石をいくつも並べたところでその人の好みが出て、筋が通ってるのがわかったり。私も石への愛をもっと高めないと」
――ありがとうございます!
なるほど、たしかに、石すもうは、観客として見ているだけでかなり楽しいのである。場に出された石を比べて「もしこの二つが売られていたとして、自分ならどっちを買うかな」と考えたり、出場者ごとの石の好みを俯瞰して楽しめたりする。なんせ、その場にいるだけで次々と変わった石を見ることができるのだ。
石すもうの発案者の二人にインタビュー
さて、この「石すもう」だが、誰がどのようにして始めたものなのだろうか。この競技の発案者だというお二人にお話を聞いた。
大宜見由布(おおぎみ ゆう)さんと江崎將史(えざきまさふみ)さんである。
聞くところによると石すもうの始まりは2010年、江崎さんがとあるイベントで石を並べて売っていて、そこに大宜見さんが通りかかったのがきっかけだったという。
――そこで石すもうが生まれたんですか?
江崎さん「僕が石を並べてたら、『こんなの私だって集めれるよ』って言われて」
大宜見さん「そんな言い方してないですよ(笑)」
江崎さん「そこまで言うならじゃあ今度勝負しようってなって」
大宜見さん「そんな感じじゃなかったですよ。そんな生意気なこと言ってないです」
江崎さん「まあ、自分の記憶の中ではそうなってるんだよね」
※後ほど大宜見さんに改めて伺ったお話によると、江崎さんが並べて売っている石を大宜見さんが見て「私も石を集めているので、私の石と江崎さんの石を戦わせてみませんか?」と対決を申し込んだのが発端だったそうだ。「江崎さんの石もとてもよいと思ったので、私がいいと思って集めた石と比べるとどうなるんだろうと思ったんです」と大宜見さんは語ってくれた。
江崎さん「それでいつかなんかの形で(お互いの石を比べる勝負を)やりたいなって思ってて、『アキビンオオケストラ(江崎さんが主宰する空き瓶吹奏集団)』のフェスがあったからその中でやってみようと。それが2010年だったかな。それは二人だけだったんです。二人で勝負して」
――なるほど。本当に最初はこのお二人の対戦があっただけだったんですね。
江崎さん「それからだいぶ間があって、『面白かったね』とは言ってたけど次にやったのは6年ぐらい経ってからだよね。今回が9回目で」
大宜見さん「9回目かな。1回抜けてる気がするんですけど」
江崎さん「えー。そうかな」
――やっていくうちに出場者も増えていったんですか?
大宜見さん「でも出てくれるのは割と内輪の人たちで」
江崎さん「やってるうちに噂を聞いて『うちでもやってよ』って言われたり。でも(出場者は)だいたい10人ぐらいかな。今回が最大ぐらい。一日ずっとやってると大変なんですよ、行司も声が出なくなったり(笑)」
大宜見さん「ネットとかで、『僕も参加したい!』みたいな声も多いみたいなんですけど、私たちだけの規模だと収集がつかないので、自由にあちこちでやって欲しいですね」
江崎さん「こんなにしっかりやることになるとは思ってなかったよね(笑)」
今後も楽しみな石すもう
――でも本当にルールもすぐわかるし、見てるだけで楽しいし、参加したくなるのもわかります。
大宜見さん「そうなんですよ。石に興味がなかった人も入りやすいみたいで、どこかで見て『やりたい』って言ってくれたり」
――ギャラリーの拍手で勝敗が決まるというのがいいですよね
大宜見さん「ギャラリーがいないと成り立たないですね」
――希少な石だからいいとか、そういうことではないですもんね
江崎さん「取り合わせがあって、ある人には勝つけど、こっちでは違うというようなこともあったり。戦い方が綺麗な人もいて、負けててもかっこよかったり。それぞれに手が違うんですよね」
――その人らしさみたいなものが石に出るんでしょうね
大宜見さん「『この人の出す石が好き』というファンが現れたりしてるんですよ(笑)」
――ははは。本当の相撲みたいに、力士それぞれの個性があるというか。
江崎さん「石すもうには横綱がいるんですよ。高校生なんですけど、一回も負けたことないんですよ。本当に横綱相撲というか、石のバリエーションもすごくて」
――前に北加賀屋で見た人かもしれないです。たしかにあれはすごかった
――今後も大会は開催される予定ですか?
大宜見さん「また声をかけてもらっているので、やる予定です。チーム戦とかやっても楽しそうだし」
江崎さん「いいね。一人が一個だけ出してね」
――先鋒、次鋒みたいな。それも面白そう。これからも楽しみにしています!
と、シカクではこの後も石すもうの試合が続いた。あまりに試合が盛り上がったために最終的には予定時間を大幅にオーバーし、決勝戦の出場者が帰らなければいけない時間となったために優勝者が決まらないという事態に。
そんな展開も含め、関係者と出場者とギャラリーによって毎回その場の雰囲気がゼロから作り出されていく感じが楽しい。
一見すれば“そこらへんの石”にしか見えないかもしれない石に一人一人が良さを見出し、そしてその石をその場にいる人が積極的に面白がる。その姿勢が場の全体に共有されることで、なんとも言えずのどかで平和な空気が生まれるのだと思った。
いきなり大会に出るのは少し緊張しそうなので、まずは友達を誘って練習試合をしてみようかと、私は今そう思っている。