特集 2020年9月18日

いろんな果汁でポン酢を作ってみた

肉、魚、野菜、だいたい何にかけても美味しい万能調味料、ポン酢。

ポン酢といえばスダチやカボスや柚子で作るのが普通だ。が、いろいろな果物が手軽に手に入る現代、ひょっとすると他にもポン酢にふさわしい果物があるんではなかろうか?

検証したので報告する。

変わった生き物や珍妙な風習など、気がついたら絶えてなくなってしまっていそうなものたちを愛す。アルコールより糖分が好き。

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鍋のフライング

ほとんど条件反射で生活しているので、少しでも寒いと「お、そろそろ鍋だな?」と思う。

つい先日も、朝目が覚めると肌寒かったのでこの「鍋だな?」の思いつきに従って夕飯を用意した。

鍋は美味かったが汗だくになった。まだ早かったのだ。

熱い鍋をつつきながらふと考えた。

鍋につきもののポン酢は柑橘類の果汁で作られるけれど、柑橘の旬は多くが寒い季節だ(あとで調べたらスダチやカボスの旬は8~9月頃だった。でもこの時は知らなかった)これは鍋のシーズンと一致していて都合がいい。

しかし、だ。いろいろな果物が通年で手に入る現代では必ずしも柑橘にこだわる必要はないんじゃないだろうか?

というわけで、他にも美味しいポン酢になれる果物がないか調べてみることにしたわけである。

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この時はアンコウ鍋を食べました。

 

ポン酢作りは基本、混ぜて寝かせるだけ

ポン酢の作り方はとても簡単で、一番シンプルなものだと果物を搾った汁に醤油を入れるだけで完成だ。そこへ、必要に応じて食酢やみりん、さらに鰹節や昆布のうまみを足して口当たりをよくしてやる。

なるほど、あっという間に「ポンッ」とできるから「ポン酢」というのか!

なんてわけはなく、この「ポン」はもとをたどると酒に柑橘果汁を混ぜたポンチ・パンチというカクテルの「ポン」に由来するらしい。

さらに冷蔵庫で寝かせる時間が長いほど味に深みが出るから、美味しく作ろうとすると手間はともかく時間はかかる。

本来はポン酢といえば「柑橘類の果汁に酢酸(酢)をくわえたもの」のことを指す言葉で、醤油の入ったポン酢はポン酢醤油と呼ばれていた。が、今日の世間でポン酢といえば醤油味のあれを指すことはご存じの通りである。

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リンゴ、バナナ、オレンジ、ぶどう、グレープフルーツ、キウイ、パイナップル、ナシ

さて、まずは果物の選定だ。

あらためて見ると、近所の中規模のスーパーにさえ驚くほどいろいろな果物が並んでいる。日本で何種類の果物が流通しているのか調べたら、面白いことになりそうだが、それはまた別の機会に。

全部を試すのは無理なので、味に適度なバラツキ(苦いとか酢っぱいとか)が出るように8種類の果物を選んで買ってきてみた。ひそかに有力候補だったパイナップルが欠品、さらにリンゴは自分で絞るよりも美味しそうだからという理由でジュースを使うことに。果汁だけが目当てなのだからこれでいいのだ。

黄色っぽいものが多くなったな......と思っていたけれど、キウイを切ったらゴールデンキウイだったので笑ってしまった。キウイよお前もか。

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最小限のメンバーでいきます。

おおまかなポン酢適性を把握したいので、果汁以外の材料は醤油、鰹節、昆布のみ。それも全て同じ分量で作る。

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果汁を搾って、

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果汁 : 醤油 = 1 : 1になるように混ぜる。

なんとなくオレンジから出てきた果汁の量に合わせちゃったけど、別に全部使い切る必要はなかったな......。美味しくなかったときのことも考えて次からは量をセーブしよう。

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鰹節と昆布を投入。こんな塩分濃度の高い液のなかでもちゃんと出汁が出るというから驚きだ。
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茶色い液体は区別がつかないのでコップに果物の名前を書いた。
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完成したら一晩寝かせます。

今回、記事の作製にあたっていろいろなポン酢レシピを見たが、ほぼ全てのレシピに「最低一晩寝かせることで味がなじんで美味しくなります」と書かれていた。ちゃんとした料理屋などでは、1か月くらい寝かせてから使うという。なんとなく搾りたての作りたての方が美味しいような気がしていたが、実はスローフードだったのだな、ポン酢。

ポン酢っぽくないので少し酢を足す

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色の違いがあって面白い。
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軽く味見を。

詳しい味見は次でするとして、なんとなく物足りなさを感じた。

理由は明白だ。全体的に酸っぱさが足りないのだ。そしてそのせいで醤油のしょっぱさが勝ちすぎている。

ポン酢たるもの、さすがに酸味が足りないというのは寂しい。そこで、米酢を少しだけ足すことにした。

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ピンチヒッター、酢。

 

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では、できあがったポン酢を論評していきましょう

1. オレンジでポン酢

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はい、早速味を見ていきましょうね

 

まずはオレンジ・ポン酢。

「柑橘類以外でポン酢を作れないのか?」というのがこの記事のテーマだったはず。でもその前に「普通のポン酢では使われない柑橘だとどうなのだろう?」というのを試してみたかったんですな。

色も香りも味もハッ目が覚めるようなオレンジだけれど、ポン酢にしてみると......ん?これ、果汁入ってます?

不味くはないんだけど、これではちょっと甘い酢醤油......。オレンジの香りが完全に醤油に負けてしまっています。買ってきたポン酢を開栓して常温で一か月放置したらこんな味になるんじゃないでしょうか。さすがに言い過ぎでしょうか。なんとも気の抜けた味です。

初っ端からこれでは先行きが不安だなあ。

・気の抜けた味

・オレンジが見当たらない

完成度 ★★

あ、言い忘れましたが★5つが満点です。

 

2. グレープフルーツでポン酢

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同じく柑橘のグレープフルーツ。数少ない苦味のある果物ということでチョイス。

オレンジが不発に終わったので不安でしたが、予想に反して醤油に負けず存在感を示してくれました。あんまり意識したことがなかったけど、グレープフルーツの香りや酸味はオレンジより強かったんですな。

どっしりとした苦味があって大人な味!ビールの味は子供にはわからない、そういうことです。ただ、その独特の苦さは合わせる食材を選びそうだと思いました。

・存在感あり

・苦味があって大人の味

・調味料として食べ物に欠けた時の効果は未知数

完成度 ★★★

 

3. リンゴでポン酢

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まず、瓶に入ったリンゴジュースの香り高さと言ったらどうでしょう!開けた途端かぐわしい香りが立ちのぼりました。

で、気になるポン酢ですが、コップを口元に引き寄せるとやっぱりいい匂い。そして味の方も、リンゴの甘味が醤油の塩辛さをいい感じに抑えてくれて飲みやすい!(ポン酢は飲み物とちゃうけど)食材とあわせた時にどう味が膨らむのかワクワクします。

・とにかく香りがいい

・味は甘め

完成度 ★★★★★

 

4. ブドウでポン酢

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旬の果物ということで入れてみました。ブドウの持ち味を出し尽くしてもらいたいということで、皮ごとミキサーですり潰して使っています。

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皮ごとミキサーですりつぶしたからドロッとしてる。

 結果的にこれが大当たり!皮から出た渋みが味を複雑にする、とても良い仕事をしてくれています。ただ、リンゴの後だとちょっと弱いかなあ......ブドウの良い香りが醤油で書き消されているようです。

・皮から出た渋みが良い

・香りは弱め

完成度 ★★★

5. ナシでポン酢

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とても個人的なお話で申し訳ないのですが、小さいころに大嫌いだった粉薬の味にそっくりで無理でした。ナシを単体で食べるとあんなに美味しいのに、醤油と合わせるとなぜか10%くらいカメムシがいる。

・入れた覚えのないカメムシがいる

・もう食べたくない

完成度 -

 

 6. パイナップルでポン酢

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うは!これはいい!

パイナップル果汁のトロピカルな味と醤油の味がいい感じに引き立てあっています。

ところで賛否両論ありつついまだにパイナップルの入った酢豚を見かけますが、やっぱりパイナップルと醤油って相性がいいんじゃないでしょうか?

リンゴも良かったけど、こっちの方が甘さが控えめな分好き。

・とくに悪いところが見つからない

・果汁の味が一番生きている

完成度 ★★★★★+

 

7. キウイでポン酢 

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うーん、惜しい。

ポン酢は酸っぱいんだから酸っぱい果物であるキウイなら良いポン酢になれるはず、という目論見がありましたが、見事に外れました。舌がピリッとするタイプの酸っぱさがどうも落ち着いて食べられません。

あと、微妙に青臭いんですね。

火を通してキウイの酵素を失活させてしまえば良いのかもしれませんが、そこまでするともうポン酢とはあまりにかけ離れてしまいますね。

・青臭い

・酸っぱさの質がポン酢向きではない

完成度 ★★

 

8. バナナでポン酢 

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ポン酢というよりは醤油を入れたバナナシェイクという感じの見た目です。

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水分が少ないせいでめちゃくちゃ粘っこい。

これも微妙......。バナナの芳香と醤油が絶望的に合わないんですな。

しかもドロッとしてるせいで舌から喉へ、喉から食道へと通り過ぎるのに時間がかかります。「いやがらせか?そんなに俺のことが嫌いなのか?ん?」と問い詰めたくなるような気持ちです。

ナシのときみたいに体が受けつけないというほどではないけれど、もういいかな。

・ドロッとしすぎ

・バナナの匂いが合わない

完成度 ★

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カツオのたたきと合わせてみる

答えはでた。

試した果物の中で魅力的なポン酢になれるのはリンゴとパイナップルという結果だ。逆に、どうやってもダメそうなのはナシとバナナ。

ここで終わってもいいのだけれど、ポン酢はやはり調味料。他の食材と一緒に食べられてこそ本望というものだろう。

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そこでカツオのたたきを用意。
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整然と並べてみた。ようこそ、利きポン酢会場へ。
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ポン酢メーカーの人もきっとこんな感じで商品開発してるはずなのだ。

さて、いろいろ悩んだがこのような結果になった。

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ナシとバナナがどうしようもないのはさておき、おや?上半分には結構な下剋上があったようだぞ!? 

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パイナップルが大きく順位を下げている。トロピカルな味が魚と合わなかったのだ。

逆に、大きく株を上げたのがオレンジだ。没個性的な分、何と並べても大きな齟齬が生まれないということなのだろうか。

ポン酢単独での出来が、必ずしも食材との相性に反映されないことがわかった。しかし困った。肉と合わせたらどうなの?生魚ではなくて鍋の魚だったら?薬味を入れたら?などなど組み合わせは無限にあるのだ。

とりあえず、今のところリンゴポン酢はオススメです。


この冬、(ポン酢は)一人じゃない

思いがけず、食べ合わせを検証することの難しさにぶち当たった。組み合わせがとにかく多いのだ。「新しいご馳走の発見は新しい星の発見よりも人間を幸福にする」と誰かが言ったそうだけれど、星もご馳走も見つけるのは容易ではない。一人で試せる数にも限りがある。

ここまで読んで興味が向いた人は、試して結果を教えてもらえると嬉しいです。

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