特集 2024年8月13日

一本だけしか流れてこない流しそうめん

ある日、「一本だけしか流れてこない流しそうめんがあったら面白いんじゃないか?」と思い浮かんだ。思い浮かんでしまった以上、実際に作ってみなければ気が済まない。「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」 。ジュール・ヴェルヌが語ったとされる言葉だ。

1980年、東京生まれ。片手袋研究家。町中で見かける片方だけの手袋を研究し続けた結果、この世の中のことがすべて分からなくなってしまった。著書に『片手袋研究入門』(実業之日本社)。

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具現化されたイメージ

思い浮かんだもの、実現できた。

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今、人類は初めて目にする。これが一本だけしか流れてこない流しそうめんだ

記事を書くたびに妻に手伝って貰うのは気が引けるのだが、今回もそうめんを流す係をやってもらわねば。

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よろしく頼みますよ

それでは早速、やってみよう。

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特製の樋にそうめんを一本セットして…
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シュルルル
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ああ!あっという間に目の前を通り過ぎていった!

早い!これは反射神経と動体視力が試される。でも楽しい!もういっちょ来い!

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もう一回セットして…
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シュルルル
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キャッチ!
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ズズズッ
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「…」
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実現までの道のり

明らかに妻が不満げな表情を浮かべているので、ここに辿り着くまでの苦労を聞いてもらう。

専用の器具など勿論ないし、何が正解かも分からない。まず「ちょうどそうめん一本分しか流せない樋を、何で作るのがベストか?」という問題にぶち当たった。これは近所を歩いている時に偶然タピオカ屋が目に入って解決した。

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そうか、タピオカ用の太いストローを半分に切って樋にすれば良いんだ

しかし今度は「ストローの樋をどうやって支えるか?」という課題が生まれた。ホームセンターを二時間ほど歩き回って、棒と角材で橋脚のようなものを作ることにした。

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丸い穴を空けた角材に棒を突っ込みセメダインで固定する
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なんかシュルレアリスム絵画みたいで格好良いな

だが、せっかく作ったこの台にストローを乗せても全然安定しない。でも大丈夫。こういう時に使える奥の手があるのだ。

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セロハンテープで無理矢理なんとかする

この細い樋に水を流すのも苦労した。溢れないように色々と試行錯誤して辿り着いたのがこのやり方だった。

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マイクスタンドにペットボトルを固定してみた

ペットボトルの先端には、園芸用の給水器が取り付けられている。 

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本当は下の黄色い部分から水が出るのだが上手くいかず、土に挿す細長いノズルの先端を切って水が流れるようにした
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何日もかかってようやくシステムが完成した時、私の涙も樋を伝って流れていった

しかし本番を迎えてもまだ、予想していなかった問題が起こる。樋が細すぎて箸が入らないのだ。

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箸を開けないし、流れをせき止めて水が溢れる可能性がある

仕方がないので急遽近所の薬局に走って、先の尖ったピンセットを買ってきた。

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ピンセットで飯食うの初めてだよ
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なんでこんなことをやるのか?

「苦労したのは分かったけど、なんでこんなことやるの?」と妻が聞く。

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そういえばいつもそこを説明しないまま撮影を始めてしまうんだよな

企画の動機の部分か。確かにそれは記事を書く上でも大事なことだ。本当は最初、「そうめんを食べ過ぎて太ってしまったので、一本ずつしか食べられないようにしました!」と書くつもりだった。でも私は妻にもDPZ読者の皆様にも嘘をつきたくない。

本当の気持ちを正直に言うなら、冒頭書いたことに戻る。「思い浮かんでしまったから」。これに尽きるのだ。すまん。

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妻が技術革新を起こす!

色々と納得していない様子の妻だったが、「あれ?私、コツ掴んだかも!」と声を上げた。

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「こうやってゴチャッと雑な状態だと引っかかって上手く流れないんだよ」
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「でも流す前にこうやって綺麗に伸ばせばちゃんと流れるよ!」

いいぞ!技術革新が起きた。いつも見切り発車の企画に付き合わせてしまうのだが、彼女から改善点を提案され救われたことが何回あったか。

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さあ、流しておくれ!
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シュルルル
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ん?
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通り過ぎたことにすら気付いていない私
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いや、ちゃんとキャッチしてよ!
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照れ笑いを浮かべながらバットに入ったそうめんを摘まむ私
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ズズズッ
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その時、携帯が鳴った

なんとか四本目を食べ終わったあたりで、「ピンピロリン」と携帯が鳴った。私達が住んでいる地域に大雨警報が発令されたようだ。傘を持ってきていなかったので、早くしないと職場から家まで帰れなくなる。こんなことをしている場合ではない。

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ザザッ
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グルグル~
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ゾゾゾ
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帰ろう!

ところで、何故一般家庭にマイクスタンドがあったのか?若い頃、ミュージシャンになりたくて買い込んだ音楽機材が、処分出来ずに今でも納戸にしまってあったのだ。ペットボトルを固定したゴムバンドも、釣り竿を束ねる際に使う専門用具。

四十数年生きてきた中でのめり込んだ事や物が、今回久しぶりにまばゆい光を放った。

「人生、やっぱりなんでもやってみた方が良い。その経験は決して、無駄にならない」。私が今回の記事で言いたかったのは、そういうことである。

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でもこの道具はもう一度光を放つことはない気がする
ささやかなおまけ
記事に使わなかった写真

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