王道のクラシックなミステリー
櫻田:
今の若い作家のミステリーはテクニックが洗練されてきていてどんどん磨かれていっている。そんな中でね、いきなりこんな古めかしい刑事小説っていうのもちょっと面白いかなと思ってます。ミステリーを書いてる人たちの中で、謎解きが主眼で警察小説を書いてる人って、今あんまりいないと思うんです。
謎解き派みたいな人は、今って設定がSFチックだったりとか、飛び道具的な設定でミステリーを書くみたいなのが、かなり主流になってきてるんですけど。
その中で、あえて、いきなり刑事小説出してやろうかみたいな。
そこを面白がってくれる人もいるんじゃないかなと思って。
林:
警察が調べるんじゃなくて探偵が解くような作品ですね。
櫻田:
やっぱ謎解き派ってなると名探偵の物語みたいなイメージで。
林:
そこに逆行した
櫻田:
そうそう、みんながそっちへ行くなら、俺はこっち。
林:
デイリーポータルZらしさがある
櫻田:
普通だなって思うことをやってるだけなのに珍しがられたら、それはそんな楽な話はないので
物書きとしての出発点がデイリーポータルZなので
林:
今回の小説で一風変わった固有名詞が出てきますが、それが伏線じゃなくて面白いだけのとこだなってわかりますね。
櫻田:
伏線にしようがなかったってのはありますけど。
ただ、やっぱりほら、面白ライターとしての気質がありますから。
林:
ありがたいですね。
櫻田:
いや、やっぱり物書きとしての出発点がデイリーポータルZなので。
林:
ありがとうございます。この前、ひとり二人羽織をやって、これ誰かやってるはずだなと思ったら櫻田さんでした。
櫻田:
僕も本の出版前だったのかな、気になってエゴサーチしたときに見つけて。
林:
櫻田さん、デイリーポータル出身の小説家って書いても大丈夫ですか。
櫻田:
別に大丈夫。母体はデイリーだと思ってるので。
林:
書きますよ。
櫻田:
デイリーで文章を何年か書かせてもらってたので。その後、会社辞める時どうするっていうときにじゃあ文章、って言ったと思うんで。
林:
すごいリスクありますね。
櫻田:
もう大リスクなんですけど。当時はなんかちょっとふざけたことを書くのに少し自信があったんでしょうね。
林:
前回の「六色の蛹」の冒頭の作品は主人公が止まりきれずにダッシュで登場するじゃないですか。あそこ面白いですよね。
男は両腕をぴんと真横に伸ばして斜面をくだってくる。スピードに脚が追いつかず、いまにももつれて転びそうに思えるのだが、不思議ともちこたえて、必死の形相がみえる距離まで近づいてきた。(櫻田智也「六色の蛹」東京創元社 2024 p.8 )
櫻田:
デイリーっぽい。写真とキャプションで何コマか続きそう。
林:
そうそう。
櫻田:
ヘボとか特に魞沢シリーズで虫のこととか検索するじゃないですか。するとなにを検索しても大体デイリーの記事が出てくる。もうデイリーが手広くやりすぎてて。
注)魞沢シリーズ:昆虫好きの青年「魞沢泉」が登場する櫻田さんの作品。
ヘボ:クロスズメバチの幼虫。食用にする
林:
ヘボはね、平坂さん玉置さんがやってるから。
注)3本ありました。
・「ヘボ祭り」で蜂の子を食べてきた(平坂さん)
・へぼ(クロスズメバチ)を追う人に憧れて(玉置さん)
・「くしはらヘボまつり」でヘボ(クロスズメバチ)を食べ、ヘボに刺され、そしてヘボを抜く(こーだいさん)
櫻田:
出てきちゃったから、しょうがないんで、玉置さんの記事を参考文献に入れてます。
やっぱり現場に行ってるから強いですよね。ほかのちょっとした記事とは深みが違う。
デイリーがなかったら本名で作家やってない
櫻田:
デイリーで僕書いてなかったら、本名で推理作家やってないと思いますよ。
当時はなるべく本名、顔も出してくださいっていうのが基本方針だったじゃないですか。
それがあったから、今もあらゆる誘いにNGなしでやっている感じなんで。
あらゆる誘いにNGなしでやっている
林:
デイリーの影響だったんだ。
櫻田:
もうデイリーでやってたから、別にペンネームいらないな、みたいな気もありました。
あとは応募する段階でペンネーム考えるの恥ずかしいなっていう気も。賞もらえるかもわからないのに考えるのがちょっと恥ずかしい。
もうデイリー書いてるしな、みたいな、顔も出しちゃってるしなって。
林:
応募段階で綾小路みたいなかっこいい名前だと確かに、照れますね。
櫻田:
聞いてみたかったんですけど、本名顔出しっていう方針ってどういうとこから出てきたんですか。僕はそれに惹かれたんですよ。
林:
身近なことを書くから本名じゃないと当事者性がないと思ったんですよね。
大昔に僕の名前でスパム送られて警察に相談したら本名やめなさいって言われて、3日ぐらい変な名前にしたんですよ。「プップ木」っていう。そしたら全然やる気なくなって。そんな変な名前でアピールしたくない。
櫻田:
覚悟が違うってことですか。
林:
そうそう、これまで林で生きてきたのに、プップ木だと「おれおれ!」って言えないんですよね。
櫻田:
おれがやってると言えない。
林:
本名だとそこの真剣さが出ると思ったんですよね。ただ、今はリアルの場でも本名で呼ばなかったりするから、そこは若いライターに強要しても悪いかなと思って。
櫻田:
そうですよね。今はハンドルネーム的なものをみんな持っていて、一般化してますもんね。
林:
そうなんですよね。僕はネットワークゲームやるときも林雄司って本名で入れてます。
櫻田:
それはちょっと夢がない。でもそこに僕は惹かれたってとこあった。
林:
今も本名じゃない人に言おうかな。本名にしろって。
櫻田:
そうですそうです。こんな匿名時代にこんなストロングスタイルある?みたいな。
林:
名前どころか自分の親兄弟を出したりとかね。
櫻田:
僕もそうでした。売れるものなら全部売ってしまうみたいな。
林:
確かにおかしかったな、昔。
櫻田:
なんかやっぱり僕も出身って隠してもらっていいですか。どれどれ?って見られますからね。
デイリーポータルZ出身の櫻田さん
このインタビューは秋にしたのだが、私がのろのろまとめているあいだに『失われた貌』は「このミステリーがすごい!2026年版」での国内編で1位をとっていた。「ミステリが読みたい! 2026年版(ハヤカワミステリマガジン)」「週刊文春ミステリーベスト10 2025 国内部門」も1位なので3冠だ。
そんな櫻田さんに「ミステリーってどうやって書くんですか」と聞けるのはとても助かる。おまけに「デイリーポータルZ出身の」と枕詞をつけていいとのお墨付きももらった。デイリーポータルZ出身の櫻田智也さんの新作は唸るおもしろさなので読んでほしい。
そしてデイリーポータルZ出身の櫻田智也さんがもっと売れると、その波及効果でサイトの評判もあがる。これからも応援するよ!デイリーポータルZ出身の櫻田智也さんを!(打算的に)
デイリーポータルZ出身の櫻田智也さん
※このリンクからお買い物していただくとアフィリエイト収益が運営費の支えになります!