特集 2018年8月13日

へぼ(クロスズメバチ)を追う人に憧れて

ハチに目印の付いたエサを持たせて、その巣をみつけるという憧れの遊びを教えてもらった。
ハチに目印の付いたエサを持たせて、その巣をみつけるという憧れの遊びを教えてもらった。
「先輩がへぼっていうハチ捕りをやっているらしいんだけど、取材しにいく? そういうの好きでしょ」

とある飲み会で、友人が嬉しい誘いをしてくれた。ハチ捕りといえば、その存在を知って以来、憧れ続けている民間猟法である。いくいく、絶対いく。

こうして体験させてもらったハチとの追いかけっこは、興奮と感動の連続だった。ぼんやりと想像していた単純な体力勝負ではなく、ゲーム性の高いチーム戦の探偵ごっこであり、これぞ夏休みという最高の一日となったのだ。
趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。

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ハチを追いに猛暑の岐阜県へ行く

ハチを捕りに行く場所は、岐阜県加茂郡八百津町。その場所がどこにあるのか全く知らないまま「喜んで行きます」と答え、取材日である7月下旬が近づいて、ようやくその場所を確認したところ、連日のニュースで猛暑が伝えられている多治見市の少し北に位置していることが分かった。埼玉県の熊谷市あたりと猛暑日本一の称号を争っている近辺でハチを追うのか。

あまりに暑いとハチがエサを追わないらしい。そんな日は人だって動けない。少しは涼しい日に当たらないかなと淡い期待をしていたが、天気予報によると当日は今年最高レベルの猛暑日のようだ。
八百津町の美しい棚田。
八百津町の美しい棚田。
そして予報は残念ながら的中、現地へと向かう途中のコンビニで、飲み物を2リットル買ってもまだ熱中症が不安になるほどの暑さとなった。まだ早朝なのにだ。同行いただいた友人の顔をみると、早くもうっすら死相が出ている。鏡を見れば私も同じような表情なのだろう。

暑さ以外にも不安要素はいくらでもあって、なんでもすごい山の中でハチを追うから、ダニがたかるので肌を出すなとか、ヒルがいるから足元を気をつけろとか、ハチに刺されることは当然あるとか、友人経由で伝わってくる事前情報がいちいちおっかない。クマがいないこともないらしいし。
持参したダニをとる道具、ハチの毒を吸い出すリムーバー。さらにゴム手袋や帽子の上から被る虫よけネットも用意した。
持参したダニをとる道具、ハチの毒を吸い出すリムーバー。さらにゴム手袋や帽子の上から被る虫よけネットも用意した。
もちろんこれらの情報は、我々を怖がらせて追い返そうとしているのではなく、しっかり対策をしてきなさいと言う助言である。なにも知らされないよりは、ちゃんといってもらったほうがありがたいのだ。

ということで、今回の目標は、『(あまり)刺されない、(なるべく)喰われない、(できるかぎり)倒れない』とする。すごく楽しみなんだけど、同じくらい不安がいっぱいだ。

78歳の同級生三人組が待っていた

友人の運転する車で山道をグイグイと登り、朝8時に待ち合わせ場所である『先輩』の家へと着くと、そこは拍子抜けするほど過ごしやすい気候だった。すっかり忘れていたけれど、山の上は涼しいのだ。といっても例年に比べると、やっぱり相当暑いらしいけど。

現地で我々を待っていたのは、友人にとって人生すべてにおいての師匠だという岩井さんと、その小学校の同級生である小川さん、岩井藤夫さん(この辺は岩井姓ばかりだそうで以下藤夫さんで呼ばせていただく)。

三人は幼なじみなので、今でもお互いを君付けで呼び合っている間柄だ。なんか良い。
ここの家主である岩井さん。エサは国産の地鶏じゃないとハチが齧ろうとしないそうで、「人間も食べるものを気をつけんといかんよ」と忠告された。
ここの家主である岩井さん。エサは国産の地鶏じゃないとハチが齧ろうとしないそうで、「人間も食べるものを気をつけんといかんよ」と忠告された。
失礼ながら年齢を聞けば、なんと御年78~79歳。ちょっと前の流行り言葉でいえばアラフォーならぬアラエイティ。そして来年はリア充ならぬハチ充(80)だ。ハチ捕りはみんな小さい頃からやっているので、ハチ追い歴約70年の大ベテランである。

狙うハチはクロスズメバチという種類で、この地域ではなぜか昔から『へぼ』と呼ばれており、このハチを捕りに行くときは「へぼつけにいこうか~」と誘うそうだ。

なぜ『へぼつけ』なのかは、実際にやってみるとよくわかる。
寡黙な狩人、エサつけ名人の小川さん。全国どこにいってもへぼがいるかをチェックしてしまう根っからのへぼハンター。
寡黙な狩人、エサつけ名人の小川さん。全国どこにいってもへぼがいるかをチェックしてしまう根っからのへぼハンター。
へぼを捕るのは、巣にいる幼虫を食べるためなのだが、ちょっと変わっているのが、捕ってすぐ食べるのではないこと。

6月後半から7月末の間にとった巣を、用意した巣箱に入れて自宅に置いて大切に育てるのだ。これを『飼う』ではなく、『囲う』と呼ぶ。

※秋に巣を捕って、すぐに幼虫を食べる場合もあるそうです。
へぼの巣コンテストの優勝経験者である藤夫さん。
へぼの巣コンテストの優勝経験者である藤夫さん。
お楽しみはそれでだけではない。ここ八百津町では晩秋になると、育てた巣の大きさを競うコンテストが開催される『へぼ祭り』が行われているのだ。

へぼを捕って、巣箱で囲って、コンテストで競って、最後に幼虫を食う。

この一連の流れがあってこそ、ここ八百津町でへぼ食文化が脈々と続いているのである。うーん、日本も広いなー。
みんなハチが嫌がるからと虫よけを使わない。リスクよりもリターンを選ぶ男達なのだ。
みんなハチが嫌がるからと虫よけを使わない。リスクよりもリターンを選ぶ男達なのだ。
ここに来るまでは不安もあったが、ちょっと話しをさせていただけで、この三人の人柄に早くも惚れてしまった。もう心にはワクワク感だけが充満して、心配事はすべて忘れた。

こうして新しい巣箱を積んだ軽トラに乗せていただき、小学生の夏休み気分にどっぷりと浸りながら、すぐ近くだというへぼつけの場所へと向かった。
お手製の巣箱を積んで、地下足袋を履いて出発!
お手製の巣箱を積んで、地下足袋を履いて出発!
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