特集 2020年12月22日

おいしさだけでは売らない〜「富士そば」にインタビューしました

今年の夏、DPZで「富士そばは街ごとに味が違うのか」という連載企画をやった。

関東のそばチェーン「富士そば」の味が街ごとによって違う、と聞いた私が、いろいろな店舗のそばを食べまくった連載だ。

結果、私の中では「富士そばは街ごとに味が違う」という結論にいたった。

では、実際のところはどうなのか。ほんとうなのか。富士そばは街ごとに味が違うのか。聞いてきた。

1997年生まれ。大学院で教育学を勉強しつつ、チェーン店やテーマパーク、街の噂について書いてます。教育関係の記事についても書きたいと思っているが今まで書いてきた記事との接点が見つからなくて途方に暮れている。

前の記事:日本一低い駅から日本一高い駅まで何歩で行けるか

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インタビューに訪れたのは富士そば神谷町店
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その日は、「富士そば感謝祭」をやっており、私も特別な「バクテーそば」をいただいた。バクテーはシンガポールのスープ料理。感謝祭にはバクテーの故郷、シンガポールからシンガポール大使もやってきたという
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インタビューに応じてくれるのは、富士そばの工藤寛顕さん。富士そばの開発・企画・広報を一手に担う人だ。

ーー今日は連載の答え合わせをしたくて、実際に来てしまいました。

工藤:どんな質問でもどうぞ。全部答えます(笑)

街ごとに味は違うのか

ーー心強いです(笑)さっそくなのですが、「店ごとに味が違う」というのは本当なんでしょうか?

工藤:はい、違います。そもそも使っている食材も違いますから。

ーー食材から違うんですね。

工藤:はい。そばと出汁をそれぞれ二社ずつから仕入れています。それと、そばを切らずに押し出して麺を作る、「乱切り」麺を導入している店舗もありますから、それだけでも味の違いがあります。

ーーその種類は各店舗が選ぶんですか?

工藤:エリアの特徴やお客さんの来店数の見込みで選んでいますね。立地が良くて来客数が多く見込めるお店は乱切りを導入できないんですよ。乱切りは、茹でたてのお蕎麦を早く出せるメリットがあるんですが、たくさんは出せない。

ーーなるほど。やっぱり街の特徴を反映することもあると。連載で書いていたことが妄想じゃなくて安心しました。

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街ごとに味は違った

工藤:あと、味が変わるのには、人為的ミスもあります(笑)

ーー(笑)

出汁の味も違う

工藤:まあ、今はほとんど機械で作っているので、基本的に前よりも安定してきたとは思うんですけどね。出汁なんかは濃すぎる店もありました。

ーー出汁といえば、出汁の濃さも店ごとに違うのではないかと思っていたんですが、それはいかがでしょう。

工藤:違います。実は、富士そばの出汁は、「濃い目」と「普通」の2種類があって、その2つが選べる。それから、お客さんの層と時間でも変えたりします。

ーー時間帯によっても……!

工藤:例えば、大森のエリアだと、朝は肉体労働をするお客さんが多い。そうした方におそばを提供して出汁が薄いとけっこう怒られるんですよ。濃い目が好きな人ってそばが薄いとすごく怒る(笑)それでお店が怒られていった結果、朝の時間帯は濃い目の出汁になっています。

ーー怒られた結果(笑)じゃあ、一応基準はあるけれど、その中で時間帯などによって変えてるっていうことなんですね。

工藤:そうですね。

メニューがゆるい

ーー今の味の話でもそうなんですが、富士そばってチェーンであっても、各店に任せられている部分が大きいのかな、と思いました。ある意味ゆるい、というか。

工藤:ゆるいゆるい、ゆるいですね。メニューにしてもゆるい。富士そばのホームページに商品メニューが書かれています。実は、それだけが、本社が売りなさいと言っているメニュー。このメニューは富士そば全店で売っています。
でも、逆にそれ以外は全部自由なんですよね。天ぷらでも、イカ天や海老天は公式メニューに入ってない。

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このメニューに載っているものだけが公式メニューなのだ(富士そばホームページより。笹塚店のみ設備上の問題でカツ丼は販売していない)

ーーそうなんだ!

工藤:紅生姜天は、カップ麺になるぐらいすごく売れてるんですけど、正式なメニューには入っていません。

ーー本当だ。驚きです。

工藤:今、国内には富士そばが約120店舗あるんですが、その128店舗がいろいろなメニューを作って出しています。
僕も昔はメニュー開発をしていましたが、カツ丼とカレーと豚肉を合わせた「よくばりコンボ」やシンガポール名物肉茶骨(バクテー)をそばにした「バクテーそば」のような「いたずらメニュー」はだいたい僕が開発しました。

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工藤さん一押しの「バクテーそば」

ーーいたずらメニューっていうんですね(笑)

工藤:通常の3倍麺が入った「富士山盛り」も僕が開発しました。

いたずらメニューが楽しい

ーーそういうメニューは、工藤さんが各店舗に働きかけて商品化するんですか?

工藤:そうです、プレゼンなんかをして働きかける。とはいえ、富士そばのメニューの出来かたはいろいろあって、例えばバクテーそばは社長から降りてきたメニューで、これは絶対に売ってください、といわれていた。

ーー期間限定だけれども、全店舗で売られると。

工藤:そうです。限定で言うと、1月にたこ焼き屋さんの「銀だこ」とコラボしたメニューも全店で売られます。ただし、そうした限定の中で「いたずらメニュー」を売る店舗もあります。
普通に売り出すのは通常のかけそばにたこ焼きが乗った「たこ焼きそば」です。

ーーそれも普通ではない気がします。

工藤:それとは別に「ほぼ銀だこ富士そば そば/うどん」も売ります。

ーーメニュー名が長い……。

工藤:これは、たこ焼きを作ろうとしたそばなんですよ

ーーほう……。

工藤:「ほぼ銀だこ」というのは、うちの材料以外は、ソースなどほぼ銀だこの材料しか使わないという意味です。あたためたそばにソースを絡め、その上にたこ焼きを乗せてマヨネーズとソースをかけ直して、銀だこの青のりと鰹節をかけるというものです。
これが、一部の店舗でしか売らない、いたずら商品(笑)

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「ほぼ銀だこ富士そば そば/うどん」(写真提供=工藤寛顕)

ーーいたずらがすごすぎて、楽しくなってきました。

メニューの試行錯誤

ーーそうした新開発メニューって、「これはダメ」というような基準はあるんですか?今のお話を聞いていると、無いように感じるのですが。

工藤:あんまりないですね。でも刺身はダメです。暗黙の了解ですが。

ーー結構最低ラインのルールですよ、それ(笑)じゃあ、失敗してしまったメニューとかもたくさんあったり……。

工藤:たくさんありますよ、「風邪に効くそば」とか

ーーなんでしょう、それは……。

工藤:本厚木店で、あるおじいちゃんとおばあちゃんが「冬は寒くて風邪を引いちゃうから外出できない」って言ったのを聞いて、「風邪に効くそばを作ったら来るかな」と思って(笑)でも、全然売れなくて、2週間ぐらいでやめた(笑)

ーーたった1ユーザーのために……。チェーンだとは思えません。新メニューを開発して売れなくてもキャリア上はマイナスにはならないんですか?

工藤:なりませんね。北千住東口店は、2週間おきぐらいに、よく分からないメニューをどんどん作って売るんですよ。マニアには定評があって、店長もそれがやりがいになっている。それで2週間に1回、立ち食いそばなのに、全国から何十人かはお客さんを集めています。

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いま、北千住東口店で売っている「ミニ ヤンニョムチキン丼セット」(現在は販売終了)

ーーすごいです。

工藤:500円のそばに往復の電車代を払って食べに来る人を生み出しているので、すごいと思いますね。

ーーメニュー開発の繰り返しでたとえ失敗しても、続けていれば富士そば全体にとってはいいことがあるかもしれない、と。

店員発のメニュー、お客さん発のメニュー

ーーその北千住東口店の店長しかり、富士そばは現場の方が考案されたメニューも多いですよね。

工藤:はい。いま、チェッターヒンというミャンマー料理を恵比寿駅前店の一店舗だけで売っているんですが、それはそこで働いているミャンマーの方が考案しました。

ーーミャンマー料理までカバーしている。

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チェッターヒン(写真提供=工藤寛顕。現在は販売終了)

工藤:いろんなメニューが考案されています。店員だけじゃなくて、お客さんからの要望でメニューが変わったり産まれたりもします。

ーーお客さんからの要望も!

工藤:紅生姜天の復活がそうです。もともと富士そばの揚げ物は工場で揚げたものを持ってきていたんですが、お店で揚げる方式に変えたとき、紅生姜天は作りませんでした。そのときに「紅生姜天を復活させて欲しい」という声が上がって、今ではカップ麺を売るまでになりましたね。

ーーじゃあ、富士そばに提案したらメニューになるかもしれない。

工藤:ああ、もう全然ありますよ。そういえば、今度、火鍋も代々木八幡店で始まりますね。

ーー火鍋!?何屋さんなのかわからなくなりませんか!?

工藤:ファンの方が作ってくれと提案してきたんで、思い切ってやっちゃいました(笑)

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思い切ってやっちゃった海鮮火鍋そば(写真提供=工藤寛顕)

ーー思い切りがよすぎますよ(笑)お客さんを楽しませてくれるというか、かなり要望を聞き入れてくれるお店ですよね。

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BGMも違うのか

工藤:そうですね。それで思い出しましたが、今は無くなってしまった後楽園店では、お客さんに怒られてしまうので、日曜日は競馬中継を店内でかけていたみたいです(笑)テレビまで入れて。

ーー富士そばといえば、会長が作詞された演歌が流れているイメージですが、そうでもない店舗もあったと。

工藤:そうです。

ーーそういえば噂で、富士そばはBGMも各店舗によって少し違うという話を聞きました。

工藤:それは”やっちゃってる”ですね、正解は(笑)

ーーやっちゃってる(笑)今お話があった後楽園店みたいに、競馬中継をかける店があったぐらいですもんね。

工藤:演歌に定着させるまでに5年以上かかりましたよ。17〜8年前に、会長が発案したんですが、言っても全然変えてくれない。

ーーお店は上層部の言うことをあまり聞かないんですね。

工藤:聞かないです、聞かないです(笑)

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いろいろぶっちゃける工藤さん

ーー(笑)会長が元々演歌に統一しようといった理由はなんだったんですか?

工藤:誰かに言われたっていってましたよ。会長は演歌の作詞学校に通っていたんですが、そこの知り合いの誰かに言われたとか。

ーー(笑)それで本部から指令が来たりすることもあるわけか。

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富士そば会長・丹道夫の著書『「富士そば」はなぜアルバイトにボーナスを出すのか』(集英社新書)。演歌のエピソードも書かれている

看板もすごかった

工藤:実は一時期看板をデコトラのようなものにしていたときがあって、それも会長の発案でした。でも、あの看板、一個で4〜500万円かかるんですよ(笑)

ーーええ、そんなに!一部の店舗ではまだ残っていますよね

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現存するデコトラ看板(富士そば神田駅前店)

工藤:古くなっちゃってますけど残ってますね。しかもその看板を照らす電球がオランダ製で、一個25000円する(笑)欠品するとなかなか仕入れられない。交換する時もグローブをしないと割れちゃう。

ーー不便すぎますね(笑)だんだんそば屋じゃない感じがしてきました

海外の富士そばはどうなのか

ーー富士そばは味だけでなく、いろんな面でバリエーションがあることがわかってきました。そこで気になるのは海外にある富士そばです。
工藤さんは海外の富士そばでも働かれていましたが、海外の富士そばはどんな感じなんでしょうか?

工藤:海外はフィリピンと中国に1店舗ずつ2店舗を展開しています。フィリピンはフードコートにある店舗です。中国はちょっとぶれてきていて、高級蕎麦屋のようになっています。店内が薄暗いんですよ(笑)

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フィリピンの富士そば(写真提供=工藤寛顕)
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中国の富士そば(写真提供=工藤寛顕)

ーーフィリピンの方は日本の富士そばのような感じですか?

工藤:そうですね。最初に出店した時は、「おいしい」と言われて、和食店としてマニラの和食店ランキングの9位まで入ったんですよ。普通の富士そばを出していただけだったんですけど、評判が良かった。でも、そのあとに現地の人だけで店舗運営をしてもらうと、やはり品質の維持がどうしても難しかったんですよ。

ーーやっぱり難しいんですね

工藤:それで出店を始めてから2年で7店舗まで増やしたレストラン業態をやめて、フードコート店舗一店舗の経営に変えました。

ーーフランチャイズだと品質管理は難しいですね。

工藤:そうですね。基本的にはフランチャイズで向こうにやらせればいいのですが、やっぱり自分たちのブランドもあるので。
それと、フランチャイズの契約ってふつう、出店目標が大変なんですよね。でも、あんまり無理させて出店してもこういう良くないことが起きると分かったので、出店目標をめちゃめちゃゆるくしました。やりたくなったら呼んでねっていう(笑)

ーーめちゃめちゃ自由ですね(笑)

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広がる事業

工藤:ただ、海外事業が国内での事業に役立つ場合もあります。今度、コレド室町に天丼屋さんを開けるんですが、それはシンガポールで僕たちがやってた天丼屋さんを逆輸入で日本に持ってきたものです。

ーー天丼屋さんを始められるのですね!とうとう、そばではなくなりました!

工藤:そうなんですよ。天丼「琥珀」というお店なんですけど。

ーーそこの一押しポイントはなんでしょう?

工藤:元は海外の天丼屋なので、外国の日本食が食べられるところですかね。そこでは、バクテーそばや、東南アジアの麺料理のラクサとそばを合わせた「ラクサそば」も提供されると思います。

ーー天丼「琥珀」もそうですが、最近の富士そばは、札幌出店をしたり、ガチャガチャを発売したり、カップそばを売り出したりと、いろいろな事業をやられてますよね。

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実は工藤さんがかぶっている帽子も、藤田ニコルのブランド「NIKORON」とのコラボ商品。守備範囲が広い

工藤:そうですね。ぼくが開発・企画・広報という役職で春から動いているので、それらの企画は全て僕が始めました。本当は海外事業の担当だったんですが、コロナで動けなくなってしまって。それでなんかしようと思っていろいろな事業を始めました。実はいま、パン屋さんもやりたいなと思っていて(笑)

ーーそれはパンを売るっていう……?

工藤:そうです、それも面白そうじゃないですか。

ーーたしかに面白いですけれども。

工藤:今まで麺ばっかり考えていましたからね。天丼だって蕎麦から派生したようなもので。でも一つ問題があって、パン屋を開いた場合、名前が「富士パン」になってしまうんですよ(笑)

ーーそれ、同じ名前の会社がありますね(笑)

工藤:これは名前を変えなきゃいけない。

おいしさだけでは売らない

ーーいろいろな事業を広げられていると思うんですが、その中でこれだけは守っていきたいというか、そこのこだわりだけは外せないというポイントはあるんでしょうか?

工藤:接客の基本的なところやメニューをちゃんと作るというような、そういうところは守っていきたいですね。立ち食い蕎麦屋としてのベースの部分はしっかり守っていきたい。

ーーそこは外せないですよね、たしかに。

工藤:ただ、それは言うとつまらなくなるので、じゃあ、味はゆで太郎さんかしぶそばさんに任せよう、という感じで(笑)

ーー衝撃的な発言(笑)

工藤:これは実は社長と話していたんですが、これからは「おいしいだけではなく、楽しい」で売ろうと(笑)

ーー名言……!

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「おいしいだけではなく、楽しい」

工藤:「おいしい」だと「ゆで太郎」さんだって「しぶそば」さんもおいしいし、それは他店にお任せしちゃう。だとしたら、うちでできるのは「楽しい」ことなんじゃないかと考えたわけです。まあ、ある程度、味は保証した上で、なんですけどね(笑)

ーーたしかに「楽しい」ということで見ていくと、富士そばの軸が見えてくる気がします。
店ごとにメニューが味が違うのも、ファンから見えば「面白いメニューを探す楽しみ」が出ますしね。「おいしいだけではなく、楽しい」、心に刻んでいきたいと思います(笑)
今日は長い間どうもありがとうございました!


富士そばで遊ぼう

富士そばは街ごとに味が違った。よかった。それ以上に富士そばのいろいろな話を聞けた。

「富士そばで遊ぼう」
そう、工藤さんはおっしゃった。富士そばで楽しんで、遊んで、いじってくれれば、ということらしい。
富士そばにはひっきりなしにメニューのコラボや事業のお誘いが来るらしいが、工藤さんは無理そうなものでも無理してひろっていくらしい。
それもこれもお客さんを楽しませるためなのだろう。結果、今では輪島市とコラボして「ふぐ唐揚げ丼」を提供したり、地方を盛り上げる活動にも力を入れているという。

今後も、富士そばがどんな手で私たちを楽しませてくれるのか、目が離せない。

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ふぐ唐揚げ丼(富士そばホームページより)。ちなみに、売り出すときに加工フグでも販売免許がいることを忘れて、販売免許を取らずに売り始めてしまったことは、ここだけの話である(今は販売免許を取得済みです)
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