特集 2021年7月21日

手すりの虫観察にハマる

手すりは森だ!森は手すりだ!

昆虫を観察したい!生き物ったら大自然だろ!と森林に飛び込んでいったら思いのほか何も見つからなかったというのは初心者あるあるである(私)

まず見るべきは公園や緑地で我々の腰から胸にかけての高さに用意された彼らのライフステージ、手すりだったのだ。手すりの虫観察にハマり、本まで出してしまった手すり虫観察家にその愉しみを教えてもらった。

 

1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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手すりの虫観察家は元ヤン

神奈川県は川崎市の森林公園。シラカシの木が台地の斜面に生い茂り、低地は湿地帯となっている自然豊かな公園で、散策や犬の散歩など憩いの場としてだけでなく、バードウォッチングや自然観察でも人気のスポットである。

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マムシも出る。マムシの横にランプの魔神を貼るんじゃない。

今日一緒に歩いて回るこの人もこの公園をものすごく評価している。
「ここの手すりの虫の豊かさは都内近郊では随一といっていいですね」

褒められた公園も戸惑うしかないだろう。手すりとは言うまでもなく遊歩道の脇に立って滑落や侵入を防いでいるあれである。ここの手すりがいい虫持ってるんすよ、という事だ。

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この距離感で手すりと向き合う。
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手すりを前にツーショット。
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腕に背に、謎の会のしるしが。

広々とした森林公園で手すりに執着する長身痩躯のナイスガイの正体はとよさきかんじさん。フリーで玩具のデザインやゲームの専門学校で講師をするかたわら、虫の写真を撮って発表したり観察会を行ったり、「日本野虫の会」の屋号で虫グッズを制作・販売している。

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とよさきさん制作のステッカーやバッジ。犬の門標パロディやあの黒い看板っぽいやつなど、かわいくてストレンジなアイテムがずらり。
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最近のヒット作「ハリガネムシメジャー」、カマキリのおしりから出てくる長い線状の寄生虫「ハリガネムシ」がついにメジャー化(なんでよ)。キモかわいさの極北。

初心者でも楽しめる昆虫観察のフィールドとしての手すりに注目、2年間にわたって都内近郊の公園や緑地の手すりを観察した本「手すりの虫観察ガイド」を上梓。

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文一総合出版より。私が取材する人の文一から本出してる率の高さよ。
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手すりにあらわれる虫の紹介から手すり観察術まで、縦横無尽に談じられた手すりの虫観察のバイブル。

見所いっぱいでふせんだらけになっているが、読み始めていきなり渾身の力でふせんを叩き込んだのがここだ。

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元ヤンて。

「子供の頃から虫好きだったんですけど中二の頃、いったんヤンキーになりまして...」

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マジもんじゃないですか。(とよさきかんじ「昆虫ヤンキー論」より)

高校で更生し美大を出て今に至るまでのアフター・ヤンキーの展開もすごいのだがここでは詳細は置いておく。

「で、イベントでそのエピソードを紹介したらかなんかウケたのでついこんなのを作ってしまいました......」

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む、虫の特攻服!これが昆虫ヤンキー論か!

中学生の頃、こんなのをはおって座っていた先輩に頭を下げながら登校していたのを思い出す。挨拶される側とする側が今ここに手すりの虫という共通の目的で集い、歩き出すのだ。虫よありがとう。

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スターウォーズのオープニングみたいに撮ってしまった。

と、いろいろ情報量の多いスペシャリストと手すりを闊歩する虫たちを観察しに来たのである。

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ロープ柵やスチール手すりに......
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水辺、山道の手すりなど、いろんな手すりをじっくり見つめて......
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7mmぐらいのハエを見つけて「戦闘機みたいでかっこいいですねー」「ムラクモハマダラミバエですね。目も派手でいいですよね」とか言ったりする遊びです。

地味で愛らしい手すりの住人たち

「手すり観察の一番のメリットは初心者でも探しやすいという事です。いざ虫を探そうとすると木の上から地面までどこを見ていいかわからない。そういう時にまずここを見る、というポイントがあると探しやすいですよね」

--なるほど、そのツールが手すりだと。

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確かにとっかかりやすい。

「もともと冬場の虫の観察法として手すりを見るというのは確立されていました。虫がいない時期でも手すりにはいるよねっていう共通認識があって」

--ああ、そうですね、フユシャクとか。

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冬に活動する蛾、くわしくはこの記事に。

「ただ、そういうスポット的な活用だったり、初心者の人も最初は手すりを見るけどすぐに卒業していっちゃうので、逆にそれをやり続けたらどうなるんだろうと思って手すりを見続けたんです」

-- 戦略的留年ですね。で、こんなデータまでできてしまうと。

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観察した557種類の内訳。さらっと載っているが膨大なフィールドワークの賜物。

「手すりに来る虫は小さいのが多くて、カブトムシやクワガタなどわかりやすい人気種は少ないですが、逆にふだん気にしてなかったけどきれいだったり面白い虫が観察できます」

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ケブカサルハムシの一種か。ちっさいのに起毛感のある精巧な造り。
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擬木柵にいたツツゾウムシ。これも1cm程度の小さい虫だがペストマスクのような顔が不気味な迫力をまとっている。

「手すりの下ではクモがよく巣を張っていますね」

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施工しやすそうだもんなー。写真はオナガグモ。

-- たしかに、ふだん見ない虫を見るきっかけになるし、観察しやすいのがいいですね。

「こんな小さいのが木の枝や葉の裏側にいたらかなり見つけにくいですよね。その点手すりは見やすいだけでなく、手持ちで写真も撮りやすいので.....」

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「手すりに肘を乗せて固定するといいです」あとは老眼と戦うのみ。

--大きい虫だとどういったのがよく見られるんですか?

「やはりカマキリやバッタ、ナナフシとかですかね。今の季節カマキリはまだ幼虫ですが」

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木の枝などに巧みに姿を隠す森の忍者も手すりにかかれば目立ちまくり。
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オオカマキリの幼虫。これも草にいたら見つけにくい。

--将来お尻からメジャーが出てこないように健やかに育ってほしいですね......。

「ははは、そうですね」

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体長5cmほどの立派なヤブキリも出現。このクラスになると通りがかりの人もスマホで撮影したりする。

 

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これが神手すり

緩やかな坂道の前でとよさきさんが立ち止まり、一見なんの変哲もない鉄製の手すりを指差した。

「特に昆虫が多くて僕が『神てすり』と呼んでいるのがここです」

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これが、神!神々しさの無さよ!

「さっそくいいのがいました」

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7mm程と、かなり小さいがよく見ると鋭いアゴを持っている。

「ヨツボシアカマダラクサカゲロウの幼虫です。ゴミを乗せて徘徊し、小さな虫を襲って体液を吸います」

--本体のほうはどこかで見た事がある気がしますが、クサカゲロウという事は......。

「そう、アリジゴクと近い仲間ですがこっちはかなりアクティブに動き回ります」

あんな出不精のメダリストみたいなのと同じ仲間だとは......。

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マイ地獄に引きこもるアリジゴクのみなさん。

「もっと速く動くやつもいますよ。スズキクサカゲロウの幼虫はもはやゴミも背負わずがんがん動き回ります」

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体長5mm程、悪そうなやつはだいたい友達って顔してるなー。

-- またなんかゴミが意思を持ったみたいなやつが歩いてますが......。

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職務質問だ。おいちょっと止まれ、そこの綿ゴミ。

「アミガサハゴロモの幼虫ですね。おしりからファイバー状のワックスを広げて傘みたいにして自分の姿を隠しています。珍しい種ではないですがよく見るとかわいいですよ」

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拡大。プリシラみたいなやつだな。

--こんどはやたらモンスター感あるのが歩いてます!

「キマダラカメムシの幼虫ですね。外来のカメムシで成虫になるとかなり大きくなります。思わずでかっ!と口に出すくらいに」

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外来って宇宙から来たのかよと言いたくなるたたずまい。
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神手すり、さすがのいそがしさ。
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ハラビロカマキリの幼虫もあらわれた。小さい頃から捕食者の風格を備えている。

--確かに多いですね。感覚的にでなく観察を重ねて統計的にここが神になっているわけですもんね。

「はい。それだけではなく、ここで有名なハエトリグモ研究者の方とばったり会ったりしてこの手すりの神具合を確信しました」

--あーやっぱりアンテナ持ってるんですねえ、手すりストは。

手すりのアイドル、クモ

「この手すりではクモもたくさん見られます。厳密には虫ではないですが、僕はクモも大好きで本にもかなりの数を載せています」

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ぴょこぴょこやってきたのが足の付け根のブルーが映えるきれいなクモ。

「メスジロハエトリのオスですね。”性的二型”といってオスとメスで色や体形が大きく違うんですがどちらもとにかく綺麗で、クモが苦手という人にこのクモの写真を見せたら『こんな美しいクモがいるのか』と驚かれました」

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こっちがメス。真っ白な体にシャープな黒い斑紋、「コスプレじゃないのか」とわけがわからない感想が口をついて出るくらい美しい。

「ハエトリグモの仲間が面白いのは幼体の頃はオスメスどちらもメスのような色と模様で区別がつかないけど、成体になったとたんに見た目がはっきり分かれるんです」

--へぇー!

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ウデブトハエトリ。やたら太い腕から長い毛が垂れてメキシコのプロレスラーの入場かと思った。
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デーニッツハエトリ。でかい、なにより動きが緩慢で写真が撮りやすいのがいい。デーニッツお前よくわかってんじゃねえか。

「これはアリグモといって、アリそっくりに擬態して敵から身を守っているクモです。ハエトリグモはふつうぴょんぴょん飛ぶように動きますが、アリグモはアリっぽくうろうろ歩きます」

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徹底してアリのフリ。

--アリに擬態か、そんなにいい事があるんですかね。

「アリを嫌う捕食者は多いですからね。植物にも蜜を出してアリを寄せて葉を守ったりする種がありますね」

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こいつはアリも容赦しない。

「このクモも僕の推しグモなんですが、アズチグモといってカニグモの仲間です。顔がね、いいんですよ」

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とよさきさんの推しポイント「サングラスっぽい目がいいでしょう」
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ほんとだ!っていうかヤンキーじゃないですか!

 

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手すりはハイウェイ

-- しかし神手すり自体はわりと普通のスチール製の手すりなんですね。木製とか擬木とか、もっと雰囲気のあるやつかと思っていたんですが......。

「それはよく聞かれるんですが、僕が観察してきた中では材質などによる違いはそんなになくて、むしろ周りの環境や気温、湿度などがポイントになってきます」

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たしかに擬木だからたくさんいるというわけでもなかった。

「やはり周りに草木があって、特に真上に枝がかぶさっていたり、適度に風や日差しが入るところでは多く見られますね。あまりうっそうとして暗いと虫にも不人気なようです」

「あとは水平で安定していて虫が歩きやすい手すりですね。ロープ柵なんかだとトンボなどは好んで止まりますが、歩いている虫は少なかったりします」

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たしかにみんなテクテク歩いてるよな(クサギカメムシの幼虫)

--なるほど、こういう遊歩道ってぼこぼこの山道は人がスムーズに歩けないからまっすぐにしているわけで、それに沿って手すりもまっすぐになるんだけど、そこを虫も道として使ってるのっておもしろいですね。スケール感的には高速道路ですかね。

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関越乗っていこうぜ(巣を持たずに野営しながら移動するアミメアリ)

「おお、なるほど。僕も手すり観察本の前に作った冊子でサービスエリアって言ってました」

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手すりハイウェイ論!それにしてもデザインが凝ってるな。

手すり概念拡張のすすめ

--やっぱりロープ柵なんかだと虫はそんなにいないですね。

「そんな時は柵にかかっている葉っぱとか、周囲の草木を見てみるといいです。手すりを起点にその周りを見ていく感じです」

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とよさきさんがアジサイでなにかを発見。
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ヨツスジハナカミキリがいたしていた。

「手すりを集中して探して、その流れですぐ近くの草木に目を移して行くとだんだん手すりが拡張していくような感覚にとらわれます。」

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もういっちょカミキリいた。ダニだらけのナガゴマフカミキリ。

「つまり、もうこの周りの草木も手すりみたいなものなんですよ」

--え?そこまで?

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もうこれぜんぶ手すりです。

たしかに手すりからこっち側と向こう側は明確にパキッと別れていなくて、その境界には手すりと地続きのぼわんとした世界が存在しているのかもしれない。

すぐ向こうの葉にいるマミジロハエトリがこちらを見ていた。

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「逆にさ、なんでこれが手すりじゃないの?」と問われている気がした。

「あの葉っぱも手すりなのでは」
ひたすら見続けているうちにその定義や境界が揺らいでくるのはいい散歩の証だ。じりじりと観察して、行こうぜ、手すりの向こう側へ(ほんとうに行かないでね)。

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手すりもまた、こちらを見ているのだ。


◾︎取材協力:とよさきかんじ(日本野虫の会)
とよさきさんの活動の最新情報はTwitterで!
https://twitter.com/panchichi3


 

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