創業40年以上になる老舗のハンバーガー
福岡市中央区、地下鉄の大濠公園駅から北側へ歩いて15分ほどの場所に「西公園」という公園がある。その公園の見晴らしのいい展望スペースで営業しているのが「今屋のハンバーガー」という店だ。
かつては車で福岡市内を移動販売していたそうだが、今はその車を固定する形で営業している。福岡の知る人ぞ知る的なソウルフードでもあり、デイリーポータルZの記事にも登場してきた。
福岡では70歳のおじいちゃんが作るハンバーガーを食べるべし~地元の人頼りの旅 in 福岡市~
私も過去にふらっと立ち寄って取材させていただいたことがあり、車を店舗にするスタイルと、じっくり丁寧にお肉やパンを焼き上げて提供するハンバーガーの美味しさ、そして、この道ひとすじで長年やってきた店主の人柄と、どこをとっても魅力的な「今屋のハンバーガー」が一気に好きになってしまった。
その時、店主は71歳になるとおっしゃっていた。「あと20年は頑張りますよ!」と言っていたが、一人でやってきたお店で、後継者はいないようだった。
それが、最近福岡に行った友達が「今屋のハンバーガーに支店ができたみたいですよ」と言う。ちょっとびっくりした。公園内の車で営業するあの店がどのようにして、また、どんな風な支店を出したんだろう。まったく想像がつかなかったので、自分の目で確かめに行くことにしたのだった。
で、かなり久々に、まずは西公園にある「今屋のハンバーガー」を訪ねた。もともと地元の人に愛されてきた「今屋のハンバーガー」だが、特にここ数年、テレビにも取り上げられるようになって、人気度がグッと増しているようだった。
取材時も、営業開始時間ちょうどぐらいに店についたらすでに行列ができていた。
列に並びつつ、久々の「今屋のハンバーガー」の外観をじっくり眺める。
久々に会う店主はお元気そうだった
こういう営業スタイルゆえ、一見すると出来合いのものを少し温めてハイスピードに提供しそうだけど、「今屋のハンバーガー」のハンバーガーは違う。パンもお肉も注文を受けてからじっくり焼き上げていくため、注文を受けてからできあがるまで10分~15分ほどかかることもある。列の進み方もゆっくりである。
ついに自分の番が来た。「エッグバーガーチーズ」とホットコーヒーを注文する。
車の中には久々にお会いする店主と、もう一人の方がいて、二人で注文をさばいているようだ。
事前に取材についてはお伝えしてあったので、お仕事の邪魔にならないように手短にお話を聞く。それによると店主と一緒に働いている杉町さんは現在修行中の身で、ゆくゆくは自分でお店を持つ予定だという。
数年前から、店主の今崎さんが、自分が作り上げた「今屋のハンバーガー」の味を広く伝えたいと考え始め、杉町さんもその呼びかけに応じた一人なのだという。
――すごい行列ですね!
今崎さん「昼過ぎには売り切れようけんね。早く来てくれてよかった」
――店長の着ているのは、よく見たら白衣じゃなくてTシャツなんですね。
今崎さん「そうそう!Tシャツの白衣!しゃれとるでしょ!」
――お元気そうでよかったです!
今崎さん「元気ですよー!77歳です。あと10年頑張りますよー!」
――頑張ってください!また来ますので!
今崎さん「はい、できましたよー。こんがり焼いてますよー!熱いから気を付けてくださいよー!」
できあがった熱々の「エッグバーガーチーズ」を、公園のベンチで食べる。
頬張る。柔らかいお肉の旨味、シャキシャキでニンニクの効いたキャベツの風味、ツーンとくるマスタード。パンはこんがり焼かれていて表面にパリッとした食感があり、最高。美味しいな。
あの味を受け継ぐ「今屋のハンバーガー 六本松店」に行ってみる
さて、今度は、久々に食べて美味しかった「今屋のハンバーガー」の味を受け継ぐ新しいお店へ行ってみよう。やってきたのは2022年の9月にオープンしたばかりの「今屋のハンバーガー 六本松店」。
「今屋のハンバーガー」の本店があった西公園は地下鉄大濠公園駅の北側だったが、こっちは駅から南に20分ほど歩いた場所。六本松駅のすぐそばだ。
本店の方は遅くとも夕方には店を閉めてしまうが、こちらの「六本松店」はランチタイムの11時~15時に加え、夕方17時以降も23時まで営業している。
店長は、昔から「今屋のハンバーガー」を愛してきたという福岡育ちの若村さん。
この「今屋のハンバーガー 六本松店」はテイクアウトもできるし、店内で食べて行くこともできる。店内で食事させていただきつつ、若村さんにお話を伺うことに。
――いつから「今屋のハンバーガー」に通っているんですか?
若村さん「それが小学生の頃からで(笑)おじいちゃんに連れられて行って、そこで初めてホットドッグを食べたんです。まだおいちゃん(今崎さんのこと)も若くて」
――そんなに長く通っていらっしゃるんですね。
若村さん「幼少の頃は“よく遊んでくれるおいちゃん”っていう感じで、色々、遊び道具とか作ってくれたりとか。その当時の今屋って今みたいに売れてなかったんで」
――そんな時代もあったんですね。
若村さん「人気が出てきたのはここ20年くらいですよ。昔はおいちゃん、暇やけん、俺らと遊んで最後は『パン余っとうけん食べえ』てくれたりして(笑)子どもの頃はそんな感じで、中学生ぐらいになって自分で買って食べるようになって、高校はアルバイトしたお金で食べて、大学の時も、彼女とかできたら必ず連れてきて『うまかろう、うちのソウルフードよ』って」
――今屋と共に大きくなって。そして今屋の味を受け継ぐことになったわけですね。
若村さん「まさかこうなるとは思ってなかったですね。前から心配はしてたんですよ。跡継ぎもいないんで、どうするんだろうと。でも5年くらい前はそんな話をしても『いや、自分の代で終わりでいい』みたいな感じだったんですけど、それから少ししてふらっと食べに行ったら『やらんね?』って言われて、その一言で決めましたね。即決です。なんも考えてなかったけど。そこから話が進んでいって」
今屋のハンバーガーで修行をした日々
――今日も本店で修行されている方がいたり、今崎さんは誰にもであの味を伝えるよっていう姿勢なんですよね?
若村さん「そうです。年齢もあって、そう思ったんでしょうね。おいちゃんは誰にでも作り方を教えるって言うので、そこからはそれぞれなんですよ。他にやる人もいるし、それぞれ別々ですね」
――なるほど、そういうスタイルなんですね。でもそれこそ、この六本松店は食べてきた歴がスバ抜けて長いわけですね。
若村さん「誰よりも味を知ってる自信はあるんです。だから、おいちゃんの店のそのままを忠実に出したいっていうのがあるんです。本店があって支店があって『あそこの支店は本店に近いよ』って言われる位置にいきたいなって」
――実際に若村さんも本店で修行したんですか?
若村さん「そうです。他の仕事しながら、その合間合間の週末とかに入らせてもらって、半年くらいですね」
――どんなことを教わるんですか?
若村さん「最初は何を教わったらいいかがわからんから、とりあえず後ろからやってることを見て、一日目は世間話で終わりで(笑)それからちょこちょこ、パンを渡したりとか、なんか手伝いをしながら、それからだんだん覚えていって」
――あのニンニクの効いた刻みキャベツの加減とか、難しそうです。
若村さん「そうですね。作り方でちょっとのニュアンスが変わってきますからね。なのでこの店にもチェックしに来てもらっています。自分としては受け継いでいるつもりではいるけど、自信はまだないですね、ただ、おいちゃんと違うものは使わない。パンも材料も同じものを仕入れています。『たけぇな』とか思いながらも(笑)」
――どこが一番大変なところですか?
若村さん「なんだろう。あんまり時間を縮められないんですよ。必要な工程は縮められない。そこが大変ですね。この店をやる前に、イベントに出店したこともあったんですよ。でも、イベントになると、省かないといけない工程が結構出てくるんですよ。それで、5,6回やって『これは無理だな』と。このままやったらおいちゃんに悪いなって思って、うちで食べた人が『たいしたことないな、普通やな』って思ったら本店の方にも迷惑がかかるんで」
――ひとつひとつ作りのに手間がかかってそうですもんね。お客さんがたくさん待ってる時とか大変になりそう。
若村さん「ここでお客さんにぐーっと見られるんでね(笑)何度も焼き直すから、15分ぐらいかかるんですよ」
「今屋のハンバーガー 六本松店」にしかないものはテレビ
――この場所にお店を開いた理由はありますか?
若村さん「もともとこの辺が好きだったのもあるんですけど、ここも本店と同じ中央区なんですけど、本店は大濠公園っていう大きな公園の北で、こっちは南なんですよ。で、この南の方に来るとあんまり『今屋のハンバーガー』が知られてないんですよ。ここ、真っすぐ行ったらすぐ天神なんで、みんな何か食べるっていうと天神の方に行っちゃうんですよ。それもあって、こっち側でもっと今屋の味を広めたいと」
――そういうことだったんですね。ちなみに、本店にはなくて、この六本松店ならではの魅力というとなんでしょうか。
若村さん「本店に無いものか、まあ、色々あるんですよ。テレビがあります(笑)あとはこういった飲み物ですね。ビールを飲みながら食べられるのは結構喜んでいただけるんですよ。自分自身、『今屋のハンバーガー食べながらビール飲みたいなぁ』っていう思いがずっとあったんでね」
――たしかに!今屋のハンバーガーとビールを手軽に合わせられるのはここならではですね。
若村さん「あと『学生セット』とか、『マンスリーバーガー』っていう期間限定メニューもやってるんですよ。(取材時に提供していた)『昔バーガー』っていうのは今屋の古い食品サンプルの看板の通りに再現したハンバーガーで」
――あと、営業時間が長いのも六本松店ならではですよね。こうして夜でも食べに来られる。
若村さん「それもあります。おいちゃんの方は、最近、月火休みで、水曜日はやるかやらないか、フィフティフィフティ。で、週末はやることが多いんですけど、雨予報になると準備しない。で、準備しなかった時は晴れても釣りに行きよるから(笑)」
今屋のハンバーガーの店主・今崎さんが「宇宙人」と呼ばれる理由
――はは。釣り好きだと聞いたことがあります。そうだ、公式サイトを見たら店主のことを「宇宙人」と表現されていましたが、あれは若村さんが考案して?
若村さん「いや、おいちゃんが自分で言ったんですよ。実話があって、これ読んでみてください」
今屋のハンバーガー 六本松店の公式インスタグラムに投稿された文章を読ませてもらう
“ちょっと長くなりますが、西公園の今屋のハンバーガーの大将は、私の地元(西公園近辺)では、「宇宙人」と呼ばれています。
地元では、「あー、宇宙人のハンバーガーねー。」と言われるぐらい「宇宙人」というあだ名が浸透しています。
なぜ、「宇宙人」と呼ばれるようになったのか。。。。
それは、筋肉少女帯の大槻ケンヂが自分の事を「カリスマ」と言ったように、今屋のハンバーガーの大将も自分の事を「宇宙人」と言っていたからなのですw
私が小学1年生くらいの時に初めて今屋のハンバーガーを祖父と訪れた時、移動販売車を見るのが初めてで、車内のギンギラギンの内装と調理器具を見ていたところ、大将が、「この車、宇宙船よ。」と自慢気に言った後、そして、「おじさんは宇宙人とよ!」と。。
そして、「夜になったら、この宇宙船で違う星に帰りよーとばい。」とも。。。。
それから友達同士でよく「宇宙人」のところに遊びに行くようになり、「宇宙人」にはターザンごっこや秘密基地作り等で遊んでもらうようになりました。
そして小学2年生の時に、子供心に「宇宙船」と「宇宙人」を信じていた私は、ある夜、友達を連れて宇宙に飛び立った「宇宙船の基地」を見に行くことに。
懐中電灯を持ってドキドキしながら西公園を登って、「宇宙船の基地」に着くと、、、そこには普通に「宇宙船」が。。。。ww
次の日、また西公園を登って、「宇宙人」に「昨日、宇宙船あったやん!」と言うと「宇宙人」は普通に「昨日は疲れたけん、地球に泊まっとったと!」と言われて、「疑惑が確信に変わる」という言葉を初めて憶えましたww
あれから40年が経ち、今では「宇宙人」の事を地球人用の名前である「今崎さん」と呼ぶようになり、そして今屋のハンバーガーの味を引き継ぎ、お店をやらせてもらっています。というお話でした。
ちなみに、「小型宇宙船」であるスーパーカブも私が引き継ぐことになりましたw
「宇宙人」いつまでもお元気でいて下さいね!!“
――これは、今崎さんの優しさが伝わってくる話ですねー!カブも引き継いだんですね。
若村さん「そうそう。買い取ったっす(笑)これも継承みたいな」
――この壁のポスターの写真、どれもすごくいいですね。
若村さん「2年前の写真ですね。上に猫がおるのがベストでしょう、これ」
――本当ですね。今崎さんのたたずまいもいいなー。あ、そういえばあの犬のモモって飼い犬なんですか?
若村さん「いや、公園の犬をおいちゃんが世話してるんですけど、台風が来るとかいう時は近くで預かってもらったりしてます。僕が散歩させることも結構あります(笑)」
――犬の散歩まで!もうほとんど家族ですね。
若村さん「ですよね。おいちゃん独り身やけん、なんかあったら葬式もこっちでやるかもわからん。その時はこの写真を遺影にしようと思って(笑)」
――いやーでも、今日もお元気そうでしたよ!
若村さん「元気ですよねー。この店を始めておいちゃんの偉大さがわかるっていうか。あの車の中でやってるじゃないですか。あれも、こっちはもっとキッチンが広く取れるし、いいだろうと思ってたんですけど、あの狭さがベストなんですよ。色々あって行きついてあのセッティングになってるっていうのがわかって。それで今、こっちも逆にキッチンをギューッと狭くして(笑)」
――今崎さんは偉大なんですね。
若村さん「もうね、それこそ宇宙人ですよ。レベルが違うっすね(笑)」
「今屋のハンバーガー」のような、ちょっと変わったスタイルで営業を続けてきて、他にない独特の味わいが生まれたような店が私は大好きだ。生きてきた過程がそのまま形になったような店。
そういう店に魅力を感じ、それを受け継いでいこうという人が現れるのは、(私がそんな風に感じるのは「何様だよ」という感じもあるけど)なんだかうれしい。しかも今回は、そういうことが実現した経緯について当事者のお話を聞くことができた。ありがたいことである。
なるほど、こんな風に人の熱量というものは引き継がれていくのだなと思った。本店にも六本松店にもまた行きたい。福岡には美味しいものがたくさんあるから、困るけど嬉しい。
今屋のハンバーガー公式サイト
https://imayahamburger.com/