特集 2019年8月7日

イカの筆を作って書道をしてみた

イカがスミで字を書くよ

イカと筆って似てる。

スーパーの鮮魚コーナーでイカを見ていて、そう思った。細長い頭と胴体の先に10本の足が束ねられている姿は筆そのものだ。それに、彼らは黒いイカスミを吐くではないか。

考えれば考えるほど、イカと筆は分かち難いもののような気がしてきた。

しかし、生身のイカを筆として使うのは気が引ける。だったら、筆のほうをイカの形にしてやろう。

変わった生き物や珍妙な風習など、気がついたら絶えてなくなってしまっていそうなものたちを愛す。アルコールより糖分が好き。

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筆向きのイカとそうでないイカ

一口にイカと言っても、いろいろな形のやつらがいる。スルメイカやヤリイカなんかは細長くて筆っぽい。対して、アオリイカやコウイカは、幅広で平べったいせいで筆には見えない。

モチーフを選ぶにあたっては、この「筆っぽい族」の中から、見栄えがよくて工作しやすい優良児を見つけねばならないのだ。

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「筆っぽくない族」代表、ヨーロッパコウイカ
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こちらは「筆っぽい族」、富山湾でつかまえたホタルイカ

で、チョイスしたのがホタルイカだ。

まず、目が大きくて可愛いところがいい。それに何年か前に富山湾で春のホタルイカ掬いをしたことがあるから、資料写真もたくさん手元にある。

あの時は初めて見る生きたホタルイカがあまりに綺麗なので、冷たい海水に腰まで使って震えながら夢中でシャッターを切ったのだが、まさかこんなところで役に立つとは!

ただの筆がイカの筆になるまで

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ダルマ筆 君は今日から イカの筆

材料になる筆を買ってきた。パッケージには、「ダルマ型 書道筆」と書かれている。

まったくダルマの形をしていないのに、「ダルマ型」とは?

不思議に思って調べてみたら、穂先の太さの割に持ち手が細い書道筆のことをダルマ筆と呼ぶそうだ。なるほど、勉強になった。しかし君がダルマ筆と呼ばれるのは今日で最後だ。

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持ち手に麻紐を巻いていく。

作業手順はいたって単純。石粉粘土で形を作って、アクリル絵の具で色を塗る。以上。

しかし、実際にやってみるとプラスチック製のつるつるした筆に石粉粘土がいまひとつ食いつかなかった。無理やり進めることもできなくはないのだが、完成してからボロボロと崩れてしまっては元も子もない。失敗した時にやり直す時間もない。

そこで、万全を期すために、筆に麻紐を巻きつけて粘土が着きやすい下地を作ってやることにした。

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ザラザラしていて、いかにも粘土が食いつきやすそうな下地の完成。左右に突き出た針金には、イカの耳が装着される。
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出来心で顔を描いてみた。かわいい......。
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足の芯になるパーツ。10本もあるので一苦労だ。
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無理やり組み付ける。
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写真を見ながら石粉粘土で形を作っていく。

足の形を一本ずつ整えていく。10本の足がせまい間隔で並んでいるから、これが結構大変なのだ。

「せめてタコと同じ8本足なら少しは楽なのに」

などと、イカたちに聞かれたらブーイングの嵐を食らいそうな考えが頭をよぎる。

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下半分ができたので一度乾燥させる。どこかで見た気がすると思ったら、ディズニー映画の『リトル・マーメイド』に出てくる海の魔女に似ているのだった。
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先っぽまで粘土で覆う。さようなら......。
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耳(ヒレ)のパーツは、薄っぺらいので紙で作って上から粘土を薄く塗ることに。
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んー、これは!

いい感じに形ができたんじゃない!?

泳いでいる姿に寄せたくて、耳の中に針金を仕込んでカールさせたのがよかったようだ。これでグッと立体感が増したように思う。


形ができたら、次は色塗りだ。

生きているイカの表皮は半透明なので、白い石粉粘土の上に完全に再現するのは難しい。「透明粘土」という童心をくすぐり倒してくる材料もあるらしいのだが、高くつきそうなのでやめてしまった。アクリル絵の具でなんとかするしかないのだ。

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いつだって、最後に頼りになるのはアクリル絵の具。

イカの皮膚の表面には色素胞という器官がびっしりと並んでいる。こいつのはたらきで、生きているイカはうねうねと動くプリズムのような光の帯を体にまとうことができるのだ。

ともすると草間彌生ワールドに吸い寄せられてしまいそうで少し不安なのだが、こいつを点描で再現してやることとする。

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ホタルイカの表皮を拡大したところ。赤黒いつぶつぶが色素胞と呼ばれる器官だ。
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ひたすら点を描いて再現する。
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裏側にもひたすら点を描く......。

どれほどの間、点を打っていただろう。単純作業でハイになった頭をお茶でクールダウンして時計を見ると、意外なことに1時間もたっていなかった。

赤点の残像でチカチカする目をこすりながら、最後に残った目に色を入れ、仕上げのニスを全体に二度塗りした。

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完成。お疲れ様でした。
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イカ、主張する

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さっそく書道の用意をした。

さて、紙と墨汁を用意したはいいが、何を書けばいいのだろうか。

イカの筆で書かれる言葉は、書いた人の言葉であると同時に、墨を使ったイカの自己主張でもあるのだ。

ここは当人に登場してもらって、なにを書いて欲しいか聞いてみるべきだろう。

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作者とキャラクターの対談とは、君はまた古風なことをするんだね。
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(詳しいな......)なにか書いて欲しいものはありますか?

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とりあえず自己紹介がしたいね。

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承知!

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握り心地は悪くない

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ブフォ!不味いスミだなあ。

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安物の墨汁ですからね。本物のイカスミと違ってアミノ酸は入ってないですね。

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酷い目にあった。

 

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「賊」の字、間違ってね?
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君みたいな博識なイカは嫌いだよ。

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イカはみんな博識で利口さ。偉い学者の出した本に、人間が滅んだ後の地球は脳が肥大したイカに支配されるだろうと書いてあるほどだ。

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(その本、進化した巨大肉食植物が人間サイズの巨大カタツムリを捕まえて食べるようになると書いてあるような、かなり荒唐無稽寄りの内容だったような......)まだ時間があるけど、他にはなにを書きましょうか?

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次の選挙に出たいから標語を作っとくれ。

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なんと!!!

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せ、選挙戦略とかはあるので?
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イカにも。寝ている人間の瞼にスミで「イカ」と書いて回るのさ。人間は自分の瞼を見られないからね。瞬きするたびに、知らぬ間に周りの人間たちに「イカ」の二文字を刷り込んでしまうって寸法よ。
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サブリミナル効果だ!当選しちゃったらどうするんです?
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イカの乱獲をやめさせるとか、NHKにダイオウイカ番組の出演料を払わせるとか、いろいろあるけどまずは......。
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まずは?

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ダルマに目を描き入れる役をやってみたい! 
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そこかよ!
 

予想外に自己主張の激しいイカを生み出してしまった。

筆としての使い心地はというと、これが案外使いやすい。耳の部分がうまく親指と人差し指にフィットするのだ。

現代人なので筆を使う機会はなかなかないが、見た目も気に入ったので末長く愛用しようと思う。

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