特集 2023年11月1日

「いぎす」は果たして美味いのか? 自分で作ってみた

生まれ育った土地で食べた、懐かしい食べ物は色々あるけれど、最近、いぎすについて考えるようになってしまった。

いぎすは果たして美味かったのか。

自分で作ってみた。

鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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鳥取県中部地方で食べられる「いぎす」

いぎす、といっても皆さんご存知ないと思うけれど、鳥取県、しかも中部地方(倉吉周辺)でよく食べられる郷土料理だ。

いぎすという海藻を煮溶かして固めた食べ物で、ぱっとみたところは羊羹のような見た目をしている。

ここで「いぎすはこんなもんだよ」という写真の一つでもあれば気が利いているのだけれど、今までいぎすを食べることはあっても、わざわざ写真に撮るような心持ちに至ったことがなかったので、ちょうどいい写真が、今はない。

どこか、フリー素材のいぎすの写真はねえかと探したものの、そんなものあるわけない。

そんななか、農林水産省のウェブサイトに、使えるいぎすの写真があった。

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いぎすです/出典:農林水産省Webサイト

こういう創作和食居酒屋みたいな盛り付けでいぎすを食べる人は鳥取にはいないけれど、とにかく羊羹状のやわらかい食べ物であることはおわかりいただけると思う。(それにしてもなんなんだろう、この盛り付け方は)

さて、いぎすである。

板わかめやとろろ昆布など、海藻類の加工食品に目がないぼくは、もちろんこのいぎすも大好きな食べ物のひとつだった。
しかし、上京後、板わかめなどと同じく、東京のスーパーではいぎすを売っていないないことを知った。

いぎすが好きだということを、東京の人に話したところ「あぁ、おきゅうとでしょう?」と言われたことがある。

こちらはおきゅうとを知らないので、適当に「あぁ、そうですね……」と言葉を濁した。あとで調べると、おきゅうとは福岡の郷土料理で、たしかに海藻を煮詰めて固めた食べ物であった。

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福岡のおきゅうと/出典:農水省webサイト

しかし、見た目はいぎすとはかけ離れており、いぎす=おきゅうととはにわかには信じられなかった。

鳥取のいぎすは、いぎすだけを使って作るのに比べ、おきゅうとはえごのりと呼ばれる海藻といぎすを混ぜて作るということが、農水省のページには書いてある。

この他にも、愛媛の「いぎす豆腐」など、西日本各地には海藻を煮詰めて寒天状のようにして食べる郷土料理があり、いぎすもその中のひとつであることはわかった。

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果たして、いぎすは美味かったのか 

東京ではなかなか売っていないいぎすだが、以前どうしても食べたくなり、実家からクール便でいぎすを送ってもらったことがある。

箱から取り出し、いぎすをはじめてみる妻(青森県出身)に見せながら「いやー、これこれ、これだがな、(倉吉弁に戻る)醤油とすりごまをなあ、こうやってかけて食べっだがん、うまいけーくってみいや」と、意気揚々と勧めて食べてもらったところ「んー、まあ。はい……」という微妙な反応で驚いてしまった。
「え、そがにまずかったかえ?」と、ぼくもひとくち食べたところ、昔と変わらぬいぎすの味であり、美味しかった。

妻が言うには、いぎすには「味がない」という。

たしかに、いぎすそれ自体には味がない。すりごまの風味と醤油の味、そして漁港の海岸に打ち寄せられた海藻の匂いを100倍ぐらいに薄めたような磯の風味。それだけの食べ物だ。

ここでふと、いぎすは言うほど美味かったのか? という疑念が頭をもたげてきた。

たしかに、鳥取県民でいぎすを郷土の美味いものとして強く推すような人はみたことがない。たいていどの人も「あぁ、いぎすな、あるな。ありゃ食うけど、べつに好きとか嫌いとかそがな感情はありゃせんな」ぐらいの気分で食べられている。

スーパーで売ってはいるけれど、別に買ってまでは食べない。飲食店での提供もほぼ無い。そんな食べ物を、美味い郷土料理として認識していたぼくは間違っていたのだろうか。

以来、ぼくのなかでのいぎすは、美味いのか美味くないのか、そしてそれ以上にいぎすとはなんなのか? よくわからない謎の食べ物となり、数年のときが流れた。

⏩ 次ページ:謎すぎる食べ物、いぎすの作り方とは

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