埼玉県でも限られた地域にある「いがまんじゅう」
あんこのまんじゅうが赤飯に包まれた状態の「いがまんじゅう」は全国的にも埼玉県の行田市、鴻巣市、加須市、羽生市付近ににほぼ限定されて見られるお菓子。
今は鴻巣市である旧川里町が発祥と言われているようだ。
というわけで、北鴻巣駅にやってきた。ここから川里地域に向かうバスが出ている。
今日はいがまんじゅうのふるさとである川里の2軒のお店をめぐる。
で、さらに最後に珍しく東京近県でまんじゅうの中身が赤飯である「赤飯まんじゅう」を扱っているお店がある桶川に寄るツアーを組んだ。参加者、私。ひとり。
ひとりだがテンションは高い。
赤飯とまんじゅう。私にとっての大好きと大好きのぶつかり合いなのだ。うち奮える。
バスに乗る前に、実際いがまんじゅうってどの程度地域に根付いてるのさと駅近くのスーパー2軒の和菓子コーナーを覗いてみたがそれらしいものは見つからなかった。和菓子屋さんにしかないもののようだ。
1軒目いがまんじゅうの「一福」さんへ
鴻巣は地名がかなりかっこいいのと、埼玉県民(筆者 古賀は埼玉育ち)の間では免許センターがあることで大変に有名な場所だ。
実際は花とお人形の生産が盛んな地域。バスに乗っていたらハウス栽培でパンジーらしい花がたくさん生産されていた。
花を縫うようにかなりたくさんの鉄塔が並んでいる。自分の記憶にはちょっとない光景だ。
感覚で300個~500個つくり、そして売れる
まんまるで、でかい。1個がかなりずっしりしている。帰ってから測ってみたら一つ160グラムくらいあった。
だいたいコンビニのおむすびの50%増しぐらいの感じだろうか。このサイズどこかで……と思ったら、硬式野球ボールだ。
一福はちゃきちゃきしたおかみさんが店を仕切っていた。自転車や車で乗り付けるお客さんがゆるやかに途切れない。
40年のお店の歴史の中で、いがまんじゅうは30年作っているそうだ。最初はきれいな上生菓子なども売っていたのが、だんだんと いがまんじゅうに注力していったのだそう。
今はいがまんじゅうを1日に300個から500個作っているという。
作った分は毎日たいてい売り切れているというからすごい。早いと午前中で売り切れるらしいことがお客さんの「あ、まだあるわ、よかった!」という11時現在のコメントで知れた。
1日に「300個から500個」の製造数って結構差があるよなあ、と思って聞いてみたら。「まあ、そのときの感じで」作ってるそうだ。すてきすぎるアバウト!
まんじゅう15個を勢いで購入
実は、事前に電話で簡単な取材のお願いついでに売り切れると困るので少なくて悪いかなと思いつつも「3つ」予約していた。
するとなんとお店では1パック5個入りを3パック、つまり15個用意してくれていたのだった!
じゅ、じゅうごこ……! そういうロット買いが普通のお店なのだ(おかみさんは、私も当然車で来たのだと思っていたことが後の会話で分かった)。
なにしろ長年の憧れのいがまんじゅう。ややひるんだが、ご用意いただいた15個を買った。
言っておくが、一つが野球ボール大である。「言っておくが」って誰に言っているのかといえば、私自身にである。
するとおかみさん「若い人だしサービス」と、さらにお赤飯を1パックくれたのだ。わーー! ありがとうございます!
いきなりリュックはぱつぱつだが心は明るい。
味はどうなのさ
次のバスまで時間があったので、バス停の前(つまり道ばた)に座って早速たべてみた。
お、しょっぱい。赤飯にはゴマがついてなかったが、しっかり塩気がある。二口目であんこに到達すると、あまじょっぱさできゃー! となった。きゃー! おいしい、おいしいわー!
いがまんじゅうは今まで私の憧れのおまんじゅうだったのだが、食べてもこれは私のアイドルだ。きゃー、きゃー。
お赤飯のしょっぱさとあんこのあまさがかなりしっかりしている上にボリュームもあるので1個で相当おなかに来た。
しかしおなかにガツンとたまりながらも食べる手がとまらない。これは危険だ。
2軒目は粒あんゴマつき
いがまんじゅうの発祥の地といわれている鴻巣市の旧川里町地域だが、現在いがまんじゅうを扱っているのは先の一福ともう1軒、続いてうかがった田嶋製菓舗の2軒だけだそうだ。
なんで2軒しかいがまんじゅうを扱ってないんだろう? と田嶋製菓舗のご主人に伺うと
「そもそも、和菓子屋がその2軒しか今ないんですよねえ」とのこと。なるほどそういうことか。
こちらのいがまんじゅうは 粒あんで赤飯の層が薄い。味もパンチの強い一福にくらべるとややマイルドで食べやすい感じだった。
そして私は今後どんないがまんじゅうが出てきてもすべて好きといえる愛の覚悟がかたまった。
地域の方といがまんじゅう
こうして川里のいがまんじゅうの(2軒だが)お店を全クリア。
続いて「赤飯まんじゅう」を求めて桶川に移動すべくバスの時刻表を眺めていた。
するとさきほど田嶋製菓舗で買い物をしていた地元の方に声をかけていただいたのだ。なんと鴻巣駅まで送ってくれるというのだ。神よ!
お二人はこの近所にお住まいというマキノさんとノモトさん。道中、いがまんじゅうについての地元民ならではの情報をいろいろと聞かせてくれた。
・川里のいがまんじゅうは大きい。他の地域には小ぶりで安いものもある。川里の2店舗はどちらも5個750円(1個150円)。
・近所の農家のおばあちゃんは今もいがまんじゅうを手作りする。これがすごくおいしい。
・鴻巣のひなまつりではいろいろな店舗がそれぞれのいがまんじゅうを売っている。
・いがまんじゅうはお茶うけに普通に食べる。大福感覚。食事ではなく、あくまでおやつ。
・東京からお嫁に来たので最初に見たときは驚いた。フライやゼリーフライもあるし、なんだろうここはという感じだった。
途中、行田にある和菓子屋さんのいがまんじゅうが美味しい、という話が出たとき「連れて行ってあげようか?」とまでなったのだが、時間的に売り切れだろうということで断念。気持ちだけでもうれしくて感激した。本当に来てよかった。
鴻巣市役所?
と、次の赤飯まんじゅう を目指して桶川に向かうはずだったのだが、なぜか私は鴻巣市役所にいた。市役所?
というのも、地元の方のお話が興味深かったのでもう少し何か情報はないかと思いはじめたのだ。
いがまんじゅうの歴史的なことなんかはお店の方も「昔から作ってるものだからねえ」とのお返事で詳しくは分かっていない。
それなら市役所の商工課でしょう、とアドバイスしてくれたのは先のマキノさんで、駅に向かう車を市役所に向けてくれたのだった。
「農家で作業の盛んな時期だとかお祭りのときによく作っていたようですよね。そもそもは、お土産にするのに重箱につめたまんじゅうと赤飯が一緒になっちゃってそれが美味しくて広まったという話を聞いたことがあります」
と宮澤さん。なんだか画が見えてくるいわれである。
「あらー、お赤飯とおまんじゅうがごっちゃになっちゃったわよ」「あれ、でもこれうまくない?」「うまい、うまいうまい」「ね、うまい、うまいよ」。
確かに何かの事故なしにこのレシピは思いつかないんじゃないかと思う。納得だ。
さらに、鴻巣市外でいがまんじゅうを売っているお店2軒も教えていただいたので、そのうちの1軒ものぞいてみた。
こちらではいがまんじゅうよりも“ぶどう大福”を推しているようだ。
いがまんじゅうは全国区である超メジャーのわらび餅や大福と一緒にふつうの顔してならんでいた。
それぐらいこの地域の和菓子屋にとけこんだ存在なんだろう。
赤飯まんじゅうは桶川名物というわけではありません
さて、鴻巣駅を出て続いて桶川駅で降りた。
今までの いがまんじゅうの逆、まんじゅうで赤飯を包んだ赤飯まんじゅう を売るお店があるのだ。
こちらの栄屋菓子舗さんは先ほどまでの2軒と違い、駅の近くのものすごく分かりやすい場所にあった。
赤飯まんじゅう はかつて日本の各地で見られたおまんじゅうだが、現在は京都を中心に売られているらしい。
こちらのお店でも「桶川の食文化、というわけではないですね」ときっぱり。
確かに桶川のほかの和菓子屋さんでは赤飯まんじゅう を扱っている様子はなかった(なお、地域的にここまで来ると いがまんじゅうの影もない)。
しかしいがまんじゅうの地域のすぐ近くに赤飯まんじゅう を売るお店がある、というのには興奮をかくせない。
味は、結構衝撃
肝心の味なのだが、食べた瞬間「わあ」と思った。だって、おまんじゅうの皮の中にお赤飯が入っているのだ。
いがまんじゅうのときは一瞬で全ての感情が「おいしい!」に流されたのだが、こちらは、なんでだろう、戸惑いが残る。
むっちりしたほんのり甘い皮に塩をしていない赤飯。皮も赤飯もとてもおいしいのだが、なんともいえない薄ぼんやり。
おまんじゅうとはには別にごま塩もついていた。どうやら食べるときにかけるらしい。
二口目はごま塩をかけてみる。……おいしい。いや、とってもおいしいんだけど、やはり感じる不思議。
そうだ! これ言ってみればおかずなしでパンとご飯を一緒に食べているという事態だろう。
ご飯のサンドイッチとか、そういうことだと思うとなるほど戸惑う。
しかし「まんじゅうです」と言われてしまうと和菓子ファンとしては納得してありがたく食べるのみだ。
2個食べ終わるころには、赤飯まんじゅうというものの存在を完全に受け入れていた。
おまんじゅうが好きすぎてとっちらかった
読み返してみるといきなりまんじゅう15個買ったりバスに乗り違えたりなんだかとっちらかった旅だった。
まんじゅうが好きすぎて振り回されたような感じか。本望だ。
冒頭でも書いたが、“いがまんじゅう”という名前のまんじゅうは愛知(の主に三河地方)バージョンもある。こちらは埼玉のもととはまた全く違い、ひな祭り限定のおまんじゅうでカラフルなお餅であんこを包んだもののようだ。
……気になる。これからも心にまんじゅうを、そして赤飯を貴んで生きて行こう。
※こちらの記事は2008年10月に掲載された「包んだり包まれたりする赤飯と饅頭」の写真画像を大きくし加筆修正して再掲載してお送りしました。お店情報は古い可能性があります。