正しいひょうたん徳利の作り方を改めて調べ直してみたら、ひょうたんの中身を素早く取り出す専用の薬品が売られていた。その名も「バイオひょうたんごっこ」 だ。
ヤクルト薬品工業(あのヤクルトの関連会社)が出していて、へちまたわしの製作にも使えるらしい。確かにひょうたんは臭くなるが、そのために薬品がまさか存在するとは驚いた。まだまだ世の中は広くて深い。
ちょっと広めの家庭菜園をやっている母親から、「ユウガオを植えたらひょうたんだった、どうしよう」というメールが来た。なんだそりゃ。
ユウガオとはカンピョウの原料になるウリのこと(この記事を読もう)。どうやら園芸店の人が、苗を間違えて売ってしまったらしい。どっちもウリの仲間なので、きっと瓜二つの苗だったのだろう。
さっそく畑へと様子を見に行くと、キュッと腰のくびれたトランジスタグラマーな瓜の赤ちゃんが実っていた。
これは確かにひょうたんだ。園芸店の店員も言い訳できないフォルムである。
病院で赤ちゃんを取り間違えるドラマやマンガはよくあるけれど、まさか実際に起こるなんて。ひょうたんでよかった。
無事に返金はしてもらったそうだが、もう今から苗を植え直すのは間に合わないので、そのままひょうたんを育てさせてもらうことにした。
それにしてもひょうたんか。人生で一度くらいはお酒を入れる徳利を作ってみたかったのだが、そのために畑のスペースを使うのは申し訳ないなと母親に切り出せなかったのだが、まさか向こうからやってくるとは。
そして8月末、ひょうたんで徳利を作るためにはどのタイミングで収穫するべきかわからないので、とりあえずいろんな大きさを集めてみた。
きっとどれかが正解してくれるだろう。
持ち帰ったひょうたんをじっくりと眺めて、さてどうすれば中国拳法の達人が腰にぶら下げている入れる酒の容器にできるだろうかと考える。
やっぱり蔓とつながっていた部分を切って、そこから中身を取り出すんだろうな。
包丁でヘタをカットしようとするが、これが硬い。トウガンやカボチャより全然硬い。下手をすると包丁の刃が欠ける。瓜界最高の硬度かもしれない。
そりゃ酒の容器にするくらいだから、硬くて当然なんだと納得しながら、手のひらに包丁の背の跡が付くほど強く押し込み、転がしたり叩いたりして、数分かけてどうにか切り落としに成功。なかなかまずそうな切り口である。
ちなみにひょうたんの実は、有毒なので食べられない。そんなものを徳利にしていいのかという話だが、染み出して外になるほどの毒ではないのだろう。酒の方が毒かもね。
続いては中身をくり抜く工程だ。
正しいやり方がまるっきりわからないのだが、切り落としたヘタ部分から、タコ焼きをひっくり返す道具でほじくってみる。家にあるものの中で、これが一番使いやすかった。
スイカやメロンの仲間だけあって、ヘタの硬い部分を突破すると、その中の果肉部分は柔らかい突きごこち。かといって空洞になっている訳ではないようだ。
道具を菜箸に持ち替えて、うっかり横穴を開けないように、慎重にブスブスと突きまわす。
氷たっぷりのジュースやお酒を飲み終えて、まだ飲み足りないからと、ストローやマドラーで突っついて氷を溶かそうとしているのに似た作業だ。
果たして本当にこれで中身がくり抜けるのだろうか。なんといっても相手はひょうたん型。直線的な道具だけでは、どうがんばっても届かない場所がある。このくびれが憎いけど、そこに価値があるのだろう。
不安になりながら作業を進めていたところ、二個目のひょうたんは注ぎ口を壊してしまった。まだ未熟だったため、皮が柔らかすぎたようだ。
せっかくなので半分に切って、中身がどうなっているか確認してみたところ、まさにくびれたウリであり、ヘタの穴から中身を全部取り出すのは、どう頑張っても無理であることが判明。皮が硬くなったひょうたんは、タネだってもっと大きくなっていることだろう。
ではどうやって中身を取り出すかと今更ながら調べてみたところ、はらぺこの青虫を放って食べさせるのではなく、水の中で腐らせるというのが正解らしい。
そんなことをしたら外側の皮だって腐るだろうと思ってしまうが、とりあえずやってみるしかない。
適当な容器が無かったので、釣り用のクーラーボックスを使った。ビニール袋を併用したのは、腐ったひょうたんがものすごく臭いらしいから。そりゃそうだ。腐っているんだもの。
外側の皮が硬いまま、中身が程良く腐るのは何日目だろうか。
少し早いかなと思いつつ、完全に腐ってしまうと後戻りができないので、とりあえず4日目に袋を開けてみる。漂う香りは腐ったぬか漬けっぽいが、そこまで酷くはない。だがあと数日で相当ヤバくなる予感がする。オナラっぽさもある危険な臭気だ。このぐらいの匂いでひょうたんの中身が取り出せたらいいのだが。
ひょうたんを取り出すと、外観はほとんど変化がないがものの、下を向けると強烈な発酵臭がする濁った水と一緒に、種がポロポロと落ちてきた。種の周りにある果肉が腐って溶けたということだろう。
これはいける予感がする。
ひょうたんの中に水を入れて、よく振って中身を取り出す作業を何度も繰り返そう。
ひょうたんから出てくる水もすっかり透明になり、もう中身は空っぽだろうと確信したところで、デジカメで内部を撮影して確認してみた。
液晶画面に映ったひょうたん内部の映像は、耐久年数を超えて今なお使われている水道管みたいな状況だった。ダメじゃん。
4日では内部の腐り方がまだまだ足りなかったようで、さらに5日間追加で腐らせる。
腐ったひょうたんの方程式の結果を確認するためクーラーボックスのフタを開けると、前回とは比べ物にならない腐敗臭。
やばい、ひょうたんと水を入れたビニール袋が破けて漏れまくりじゃないか。
クーラーボックスへと匂いが染みついているだろうことに落ち込みつつ、肝心のひょうたんを確認すると、映画『風の谷のナウシカ』の名シーンを思い出さざるを得ない状況だった。
「腐ってやがる。遅すぎたんだ」
※本来は「早すぎたんだ」。
臭いし腐っているしで自暴自棄となりそうだったが、2つ目を持ち上げてみると、しっかりと硬い。おや?
腐っているようにしかみえないひょうたんだが、どうやら表面の薄皮だけがめくれているだけのようだ。
一皮むけるとは、まさにこのことだ。布巾でこすって薄皮をすべて剥くと、ツルツルの肌が現れた。
これだ、私がひょうたんの徳利に求めていた輝きは。これを使いこむことで、飴色の輝きを帯びてくるのだろう。
中身もすっかり腐ったようで、前回残ってしまった種も残らず取り出すことに成功。そして皮はしっかりと硬い。
ひょうたん作り、とても満足度の高い工作だ。臭いけど。……さてクーラーボックスでも洗うかな。
こうして中身が空っぽになったひょうたんを、干物用ネットに入れてベランダで乾かす。一か月もすると、完全に水分が抜けて、素焼きの壺みたいな質感へとなった。
すっかり乾いたひょうたん徳利はかなり薄くなっているようで、持ち上げると見た目の半分以下の重さで笑える。
続いては水漏れがしないかの実験。
中に水を入れて、一晩放置してみよう。
水が漏れていなくてホッとしたものの、よく確認すると一つは柔らかくなってしまっている。そこを親指で軽く押してみたら、ベコっと割れて崩壊した。
そりゃそうか、干し椎茸とか切り干し大根みたいない乾物も、水に浸ければ柔らかくなるんだから、干しただけのひょうたんだって同じことだろう。
さてどうしよう。残ったひょうたんはまだ固いけれど、使い続けることで漏れたり割れたりする可能性が高い。
人体に害のない天然素材のニス的なもので内側をコーティングして、耐水性を高めればいいのかな。うーん。
※この記事を書きながら調べたところ、どうやら柿渋などを使うようです。
この容器の使い道、さてどうしたものかと迷いつつ、装飾の作業に入る。
そして数日後、都内某所にてラーメンを作って食べる忘年会が行われたので、そこに例のひょうたんを持っていくことにした。
悩んだ挙句、ひょうたんはこのようになった。
「塩」と書かれたひょうたんの中身はもちろん塩、そして「旨」はうま味調味料である。味の素とか、いの一番の業務用タイプだ。酒などの液体を入れるのは諦めたのである。
私が南米出身で陽気な男だったなら、砂でも入れてマラカスを作ったことだろう。
これを両手に持ち、できあがったラーメンに掛けるという、塩気と旨味を過剰にするハラスメントを実行。
塩ハラ&旨ハラ。
自分で用意した繊細なスープを、台無しにしてしまう謎のプレイだ。
もちろん小芝居である。
スープ自体に味はつけてないので、これくらいの攻撃でちょうどラーメンらしい味付けとなる計算だ。
なにが言いたかったのかというと、「ひょうたんから粉」である。
それにしてもひょうたんはおもしろい。その持ちやすい形、硬さ、薄さ。ガラス瓶やペットボトルのない時代なら、使わない手はないだろう。昔から酒などの容器にされていた理由がよくわかった。
もしまた苗を間違えて植えたとしたら、次は「辛」と「甘」の容器を作ろうと思う。あるいは今度こそ酒の徳利を作ってみようかな。
正しいひょうたん徳利の作り方を改めて調べ直してみたら、ひょうたんの中身を素早く取り出す専用の薬品が売られていた。その名も「バイオひょうたんごっこ」 だ。
ヤクルト薬品工業(あのヤクルトの関連会社)が出していて、へちまたわしの製作にも使えるらしい。確かにひょうたんは臭くなるが、そのために薬品がまさか存在するとは驚いた。まだまだ世の中は広くて深い。
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |