特集 2020年4月13日

佐渡島に伝わる金太郎飴型の団子、「やせうま」の作り方と文化を習う

涅槃図に供える花模様の団子「やせうま」の作り方を習ってきました。

昨年の秋、『佐渡に伝わるカラフルなだんご、「しんこ/おこし」を調べる』を書いたのだが、その取材を通じて「やせうま」という米粉で作る金太郎飴みたいな食べ物の存在を知った。なんでもお釈迦様のために作る、ちょっと特別なお供え物なのだとか。

それは一体どんな作り方なのか、そしてどんな文化的背景があるのか、すごく気になっていたところ、やせうまを作るワークショップが開かれるというので、また佐渡島へと渡ってきた。

趣味は食材採取とそれを使った冒険スペクタクル料理。週に一度はなにかを捕まえて食べるようにしている。最近は製麺機を使った麺作りが趣味。(動画インタビュー)

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「やせうま」は涅槃会でお釈迦様の絵に供える団子のこと

お釈迦様が入滅(生死を超越した境地に入ること、死亡)した日の法要である涅槃会(ねはんえ)で、横たわるお釈迦様に弟子や動物が集まって悼んでいる様子を描いた涅槃図(ねはんず)を飾るのだが、そこでお供物(くもつ)として用意される花模様の団子が「やせうま」である。なにいってるのか現時点でまったくわからなくても、とりあえず読み進めてほしい。

入滅の日は旧暦の二月十五日(現在の暦だと今年は三月九日)とされているが、佐渡では「月遅れ」といって、毎年三月十五日に涅槃会が行われること。このワークショップは十三日。昔は寒い時期に生花が手に入らなかったので、いつしかやせうまに鮮やかな色をつけることで、花の代わりとして供えるようになったのだ。

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写真左の鐘楼(梵鐘を吊るす建物)がすごく立派だった玉林寺。窓が四つある蔵もかっこいいよ。

やせうま作りのワークショップが開かれたのは、玉林寺という真言宗智山派の立派なお寺である。元々はここに檀家が集まってやせうまを作っていたそうだが、檀家の高齢化だったりでだんだんと難しくなり、住職である三浦良廣さんが家族と作って供えていた。だが息子さん達が島を離れて、いよいよ人手不足となってしまった。

もう作るのをやめようかとも考えた住職だが、その状況を知った佐渡古文化保存協会の古玉かりほさんによる発案で、大人向けの寺子屋ワークショップとして、やせうま作りは無事に継続されることになったのだ。

本来は宗教的なものなので、私のような部外者たちが興味本位で習うのも変な話なのかもしれないが、こういう形で文化を伝えていく方法もあるのかなという住職の判断もあり、今年もまた開催された。

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右が玉林寺の三浦良廣住職、左が佐渡古文化保存協会の古玉かりほさん。

やせうまは、やせごま、やしょまなどとも呼ばれるが(このワークショップではやせごま)、その語源はよくわかっていない。仏陀の奥さんの名前が「ヤソーダラー(耶輸陀羅)」なので、そこから来ているという説もあるとか。

日本各地にやせうまの文化は今も残るが、その内容は地域ごとにまったく違い、大分では小麦粉を水と捏ね、平たく伸ばして茹でて、きな粉と砂糖をまぶしたもの。福島の磐梯山辺りでは、米粉で作った餅で小豆餡を包んで焼いたもの、などなど。

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これは長野県北信地方出身の友人が作った「やしょんま」。米粉と塩と砂糖を混ぜて、お湯で練ってから蒸して、水で冷やしてさらによく練って、ゴマや青のりなどを混ぜて松の形に成形する。家で作るよりも店で買うことが多いそうだ。
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1センチほどに切って、焼いて食べる。元々は涅槃会のお供物だが、冬になると食べるおやつみたいな感覚だとか。

私は涅槃会やお供物の読み方、入滅の意味がわからないくらい知識量が少ないので、ここまでの説明は知らないことだらけ。こういった背景を踏まえた上で、佐渡特有の華やかなやせうまの作り方を教えていただいた。

米粉で作る花模様の金太郎飴、それがやせうま

やせうまの作り方は、同じく佐渡に残る食文化であるしんこと途中まで同じである。主原料はどちらも米粉(うるち米ともち米の粉をブレンド)だ。

違うのは、しんこが木型で立体的なデザインを施すのに対して、やせうまは色の違うパーツを組み合わせて円柱の形にして伸ばし、その断面に模様を作るのだ。

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最初に住職から作り方の流れを教えていただく。写真だけだと何を作っているのかわからない感がすごい。
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右端の忍者みたいな姿が私です。
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生地の材料は、求肥粉(もち米)が1、上新粉(うるち米)が2、水が1.5の割合。砂糖を入れることもある。
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ブレンドした米粉に水を少しずつ加えていく。厳密に図らず耳たぶくらいの硬さを目途に加水していくのが住職のスタイル。途中から一気に柔らかくなるので水加減が難しい。
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ベースとなる白以外に、着色料を加えて赤、黄、緑の生地も作る。着色料は水に濡れると色が濃くなるので、ほんの少量加えるのがコツ。
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生地がまとまったら、棒状に伸ばしておく。
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5センチくらいの高さにカットしたら準備完了。

ここまでがやせうま作りの下準備で、ここから先はクリエイティブな造形作業だ。4色の生地をうまく組み合わせて花模様を作り、直径10センチ、高さ5センチほどの円柱にまとめていく。伝統ある設計図などは存在しないので、すべては作り手の自由である。

デザインが決まったら、生地同士を密着させるように倍くらいの細さになるまで伸ばし、適当な長さにカットすれば、その断面に鮮やかな花が咲くのである。

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まずは住職のお手本から。魚肉ソーセージにチーズを挟んだオードブルではない。
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花の模様を作ったら、白い生地で周囲を埋めていく。表面に見えている部分よりも、断面がどうなっているかが大切なのだ。
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押したり転がしたりして、縦方向に長く伸ばしていくのだが、これが難しい。住職が陶芸家に見えてきた。
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半分に切ってみると、そこには真言宗智山派の紋であるキキョウの花が咲いていた。生地は蒸すと色が濃くなるので、これくらい淡くても大丈夫。でもちょっと淡すぎたかな。

今回はワークショップ形式なので簡単なデザインしか作れないが、前に住職が家族でやっていた時は、じっくりと時間をかけて大作に挑戦することもあったそうだ。

その写真を見せてもらったところ、和紙で作ったちぎり絵のような美しさ。菱形や三角形にカットした小さなパーツを、パズルのように組み合わせるのがコツらしい。一見するとデコレーションケーキだが、実はロールケーキのような構造というのがすごい。

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生花の代わりなので、模様の基本は花柄となる。
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これは椿かな。何個のパーツからできているんだろう。
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やせうま作り、おもしろいよ

さっそく私も作ってみたのだが、まず根本的に絵心が無いので、何を作ったらいいのやら。とりあえず住職が見本として作ったキキョウをベースに、ちょっとだけアレンジを加えてみることにした。

実際に手を動かしてみると、不器用な私がやっても想像よりは形になってくれる。金太郎飴の熱い飴や、太巻きの酢飯と具で作るのに比べたら、米粉の生地は圧倒的に扱いやすい(金太郎飴は未経験だが)。 これなら子どもでも存分に楽しめそうだ。

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なんだか地図記号になってしまった。
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外側からギュッと押しながら、細く伸ばしていく。

ただ、今回は各色の生地をいろんな人が目分量で作ったため、その水加減がバラバラだ。柔らかい生地と硬い生地が混在したため、均等に伸ばすのが難しかった。

そういえば耳たぶの硬さって、人それぞれだよね。こういう反省点もまた笑い話になる思い出だ。来年もぜひ目分量でやってほしい。

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白い生地だけが柔らかったので、全体を伸ばそうとしても白だけが伸びてしまった。
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それでも初めてにしては、ちゃんと花模様ができたかな。

やせうま作り、これはおもしろい。おこし作りも楽しかったが、型がないので自由度はより高い。切ったときにどんな断面が現れるかというドキドキが堪らない。花柄にこだわる必要もないということなので、絵心のある人なら存分に個性が発揮できそうだ。

やせうまは寺で作るのではなく、檀家が各家庭で作って持ち寄ることも多かったそうなので、粘土遊びの延長線として、親子で作ることも多かったのかな。

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私の二作目は葉っぱも入れてみたが、茎がどっかに消えた。
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こうして大量にカラフルな円柱ができあがった。ちょっとアイスクリームっぽさがあるね。
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中途半端に余った生地は、丸めてマーブル模様の団子にする。スーパーボールみたいだ。

これを20~40分ほど蒸して、生地に火を通す。理想としては同じ高さと太さの筒状にして、蒸し時間がすべて揃うようにしたいところだが、売り物ではなくお供物なので、気持ちさえ入っていればたぶん大丈夫。

あとで食べてみてわかったが、麺類を茹でるのとは違うので、蒸し具合のブレは味にそれほど影響しないようだ。

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半年に一回くらい買うか迷うもの、それは大きめの蒸し器。

こうして蒸しあがったやせうまを薄切りにして涅槃図の前に飾る訳だが、まだ熱い状態だと包丁がうまく入らないため、しっかりと冷ましてから切らなくてはいけない。そのため、涅槃会の前々日にワークショップが開かれたのだ。

とても味が気になるところだが(材料が米粉だけなので想像はできるけど)、この日はまだ食べられないである。

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お堂で作ったやせうまを見せていただいた

涅槃会の開催を待つ間、しんこの取材で私に佐渡のやせうまの存在を教えてくれた大平トシさんに連絡をしたところ、近所の人たち7人が集まって作ったという、やせうまを見せてもらえることになった。

場所は集落にあるお堂で、阿弥陀様や閻魔様が祀られてはいるが、寺や神社の一部ではなく、今でいう公民館やコミュニティセンターのような場所。心のよりどころだ。

ここでやせうまを作る女子会をするのが、大平さんにとって年に一度のお楽しみなのである。

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公民館の役割を持つお堂。このようにやせうまを作っているグループは、佐渡でもほとんど残っていない。大平さん達は最近になって、昔を懐かしむために復活させたそうだ。

お堂の中に上がらせていただくと、そこには立派な涅槃図が飾られており、その前に驚くほど精巧なやせうまが供えられていた。

すごいやつが。

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涅槃図は入滅したお釈迦様に、弟子や動物が集まっている様子が描かれている。
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集落の女子会で独自進化を遂げたやせうまが供えられていた。生地は砂糖入りでほんのりと甘いタイプ。横に添えられた草履(?)もまたかわいい。

すごい、すごい、すごい。これぞライター冥利に尽きる出逢いだろう。

作り方を伺ったところ、基本的には玉林寺で習ったものと同じようだが、手練れの主婦たちが切磋琢磨してきたことで、いわゆる「おかんアート」の最高傑作の域まで高められている。デザインが有機的だ。

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タコの足とかすごすぎる。多様な着色料が導入されたことで、表現の幅がさらに広がったのだろう。ラップに包んでから蒸すと形が崩れにくいそうだ。

大平さんが子どもの頃は、3月になると家で母親とやせうまを作っていたそうだ。その一部をこうしてお堂に供えていたのだろう。

そして彼岸が過ぎると、お堂に集落の子どもたちを集めて、お供物のおさがりとして、やせうまをまいて配る風習もあったとか。おそらく餅まきのようなものだったのだろう。

貴重な話をありがとうございました。

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古い着物や帯を使った飾り付け、手間のかかった吊るし雛など、そりゃやせうまもああなるよねという内装がまたすごい。
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涅槃会に参加させいただいた

ワークショップから二日後の三月十五日、また玉林寺へとお邪魔して、涅槃会に参加させていただいた。本堂に設置された祭壇には涅槃図が飾られ、その前にみんなで作ったやせうまが供えられていた。

スライスされたやせうまは、生花に負けないくらい鮮やかで、なんだかちょっと誇らしい気持ちになった。

檀家さんと一緒にお念仏を唱え、住職の法話を聞かせていただく。ご先祖様、今この瞬間へと繋いでくれてありがとうございます。

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この寺では年に一回、この日だけの念仏が唱えられた。
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住職の法話を聞いていたら、私は佐渡に住んで43年、みたいな錯覚に陥った。
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涅槃図の基本的な構成はお堂に飾られていたのと同じ。たくさんの動物が描かれているが、猫だけはいない。
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薄く切られてオードブルの盛り合わせみたいになったやせうま。確かに花のようで、艶やかな涅槃図と似合っている。
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涅槃会の終了後、お供物のおさがりを少しいただいた。これを食べることで、一年間の無病息災を祈る。

このように佐渡のやせうま文化は、かなり独特なものだった。

私が触れられたのはあくまで二例だけであり、同じ島内でも地域によって、さらなる多様性を持っているのだろう。奥が深い。

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自宅に帰宅後、いただいたやせうまを焼いて食べた。
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こんな派手な色なのに米粉の味しかしないが、素朴でおいしい。餅と煎餅の中間みたいな感じかな。

■取材協力:玉林寺佐渡古文化保存協会


こういった局地的な文化は日本中にあり、どうにか残っていくのか、あるいはあっさり消えてしまうのか、今はその瀬戸際にあるのだろうなと今回の取材でもまた実感した。

それはどうにもできないことなのだが、そんな文化に幸運にも出逢えたなら、こうしてまた記録に残していきたい。世の中が落ちついたら、また旅に出ようと思う。

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今回の撮影はカメラマンの宮沢さんでした。ありがとうございます!
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