安くて(物理的に)明るい店、さくら水産
さくら水産といえば、2007年にライター大坪ケムタさんが企画、執筆した記事「魚肉ソーセージ100人前」 がいまでも記憶として鮮烈だ。
50円のおつまみメニューである魚肉ソーセージを、100人前(参加希望者がたくさん集まった結果実際は150人前)予約して出してもらうという企画。
記事の最後には、それだけ頼んで、さらに他のメニューも大いに飲み食いして一人2000円強だったとある。
さくら水産はつまみもお酒も安かった。
照明が暗くなく、物理的に明るい店舗が多かったようにも記憶している。
やんちゃで飲み方をまだ知らない学生が集まるというより、会社勤めの人たちが好きで使う、怖くない店だった覚えがある。
160店舗→18店舗 になっていた
さくら水産は1号店が1995年開店、以降160店舗近くを展開していたようだ(wikipediaより)。
2010年代に入り経営にいろいろあったらしく、現在「さくら水産」名義での営業は18店舗(2023年5月現在)だという。
調べて知って「でもまだあるのか!」とほっとしたところもあった。それくらい見なくなった。
2000年代中頃の東京都心は街を歩けばさくら水産があった。
大阪で創業した鳥貴族の東京進出は2005年だそうだ。さくら水産が鳥貴族に変わった、というのは(もちろん飲食業界の他のさまざまなうねりを織り込みつつも、であるが)、東京のまちの景色の変遷としてひとつある気がする。
東京で現在も営業しているさくら水産は8店、うち7店がビルに入った店舗で、路面店は西日暮里駅前店のみのようだ。
ストリートビューを見てみると看板がかつてとは違う茶色を基調としたデザインになっており、勝手にいろいろあった感を感じてしまった。
新宿西口店はぜんぜん昔のままの看板でした
そんなわけだから、先日新宿駅の西口に用があって行った際、通りがかったビルの1Fに、かつてとまったく変わらない、あの「さくら水産」の文字が出ているのを見つけてくわっと飛びついたのだ。
西新宿には貴重なさくら水産の東京8店のうち2店がある。
ヨドバシカメラ一帯の奥にあるここは新宿西口店で、店舗はビルの5Fのようだ(もうひとつは東京メトロ西新宿駅のビルにある)。
平日の夜、飛びついた勢いで入るとコンパクトな店内はほぼ満席だった。
落ち着いたふつうの良い居酒屋の雰囲気だ。そうか、こんな感じだっけな。
かろうじて空いていたカウンターに通されると、目の前には注文用のタッチパネルがある。
コロナ禍に入って一気にタッチパネル形式のオーダーがどのお店でも加速したが、ここがあのさくら水産だと思うとピンと来ず、過去から未来にやってきた感が味わえた。
さてはここ、いい居酒屋だな
さらに料理メニューを見てうなった。
ちょっとしたお料理があれこれ出る。もしかして、ここはちょうどいい感じの店なんじゃないだろうか。
だって、「天然真鯛と春野菜のしょうが蒸し 891円」って書いてある。気の利いたくすぐりがあるタイプの料理、いい店のふるまいだ。
隣の席ではひとしきり飲み食いしたらしい会社員風の方が、締めだろう、チャーハンを食べていた。
上になにかふわふわした綿毛のようなものがのっており、メニューをみてみると、かにである。
久しぶりに会って人に対して思うのは「変わらないなあ」と「変わったなあ」その両方だ。人は変わらない、そして変わり続ける生き物である。
さくら水産、きみもそうだ。変わらないから見つけられたけど、変わった。
20代のころ安くて明るくてうれしい居酒屋だったさくら水産は、40代の私にとって、落ち着いて酒が飲めておいしいおつまみが食べられるうれしい居酒屋になっていたのだ。
まさか、一緒に歳をとっていたとは。
魚肉ソーセージは10年以上前になくなってました
店員さんに「久しぶりに来ました、おつまみ全部おいしかったです」とお伝えしつつ「むかしは魚肉ソーセージとか、安いメニューをよくたのみました」と言うと、「ありがとうございます、魚肉ソーセージ懐かしいですね、もう10年以上前かな、なくなっちゃって」とのことだった。
10年以上前というと、2011年の2月にいちど経営的に大きな節目を迎えていたようだから、もしかしたらそのタイミングかもしれない。
もういちど大坪さんの記事に戻る。その安さへの言及のため冒頭で「ランチはご飯・みそ汁に卵食べ放題で500円」とふれられている。
調べたところ、さくら水産は現存する店舗のうちでは新大阪東口店以外がランチ営業もしているようだ。
ご飯とみそ汁はお代わり無料、夜のおつまみメニュー同様、値段は普通に、そしてかなり美味しそうなことになっていました。