日本は令和1年となった。ハブ島巡りをして4年になるから私の中ではハブ4年でもある。時代の流れはひとつではない、皆の心の中にそれぞれの、不変の元号が存在するのだ。今年もよいハブに会えますように。
沖縄中北部の離島をめぐる
沖縄や奄美のハブがいる島を巡っているが今回の訪問先は「伊江島」と「伊平屋島」。沖縄本島の北西部に位置し、中部の本部半島から定期的にフェリーが運行している。
ゴールデンウィークの前半、つまり平成を主に伊江島で、令和を伊平屋島で過ごす事になる。この時代の大きな節目にハブを探す、こんな幸せな事があるだろうか、ありがたや。
城山まわりを探せ
伊江島は本部港よりフェリーでわずか30分ほどで行くことができる。美ら海水族館と海を挟んで向かいの島といった感じだ。
島名物の落花生をはじめ、さとうきび、島らっきょうなどの畑が広がる比較的平坦な地形の中央でシンボルのようにそびえるのが標高172mの「城山(ぐすくやま)」である。
村民からは信仰の対象とされているだけでなく、地質的にも貴重な山で、オフスクレープ現象によって形作られた世界で唯一の山といわれている。
伊江島にハブは分布しているが多くはないと聞いていたのであまり期待はしていなかったのだが、登山口へ向かうシャトルバスや飲食店なんかで現地の人に聞いてみると「これからの時期はけっこう出ますよ」との事だった。
この季節になると城山周辺の周遊道路などでよく出没するという。なんだよ楽しみだな日没。
気温は低かったが雨降りの後で湿度は高く、路上をハブのエサとなるネズミが頻繁に駆け回っており、遭遇できそうないい雰囲気があるのだが探せど探せどハブはおろか爬虫類が見つからない。
2日間夜な夜な島内を探索したが結局ハブに会うことはできなかった。
ハブとネズミのマリアージュ
しかし、とある観光スポットで意外なハブ充が待っていた。
沖縄芝居の三大悲劇のひとつ「伊江島ハンドゥー小」の舞台となった島村屋の屋敷跡に作られた公園である。
敷地内には屋敷跡の他に島の特産物を豊富に取り揃えた土産店や島で昔から受け継がれて来た民具た漁具、衣装などを展示した民族資料館があるが、その中に、静かに異彩を放つスペースがある。
沖縄でハブを展示している施設はもちろん他にもいろいろあるが、ここがひときわ異彩を放っている秘密はハブ水槽の下段にある。
なんと、ハブの真下でエサのネズミが飼育されているのだ。
上をよく見るとすでに数匹のネズミがハブと同居していた。
捕食シーンが見られるかと思ったが昼間のハブはまったくやる気がない様子でネズミに反応していなかった。ネズミはハブのすぐ目先の石と石のすき間を軽快に、楽しそうに駆け回っていた。
「やはりネズミのいるところにはハブが、ハブがいるところにはネズミがいるな」
本質がからまったような感慨を抱いて伊江島を後にした。
タッチアンドゴーで伊平屋島
いったん本島に戻り、運天港からフェリーの乗って1時間20分ほど北上、沖縄の有人島では最北端となる伊平屋島に着く。
車で30分〜1時間も走れば1周できてしまうコンパクトで細長い形をしたこの島は起伏が豊かで、200m級の山が南北にそびえている。
水資源も豊富で平野部では水田が広がっており、両生類爬虫類全般が活躍していただきやすい環境となっている。
島にある5つの集落には珊瑚の石積み塀や赤瓦の屋根など、昔ながらの沖縄の家並みを色濃く残している。
ハブのいる島にかかせないハブ注看板の他にもコンテンツにハブが露出している。
さらば平成よろしく令和
今までいくつもの夜を南西諸島で過ごしてきたが今夜は中でも特別な夜である。4月30日、この日をもって平成は幕を閉じ、新しい元号、「令和」となる。今夜この伊平屋島で平成最後の、そして令和最初のハブを見つけ、渋谷の交差点にも劣らぬグルーヴを味わいたいのだ。
沖縄入りしてから4日目にしてようやく見つけたヘビがいいサイズのアカマタだった。
アカマタは危険を感じると臭線から猛烈に臭い液を出してこちらをかなりブルーにさせる。しかしこのアカマタを触った後はなぜかほぼ臭わなかった。思うにこれは時代の節目を共に迎える者に対する彼なりの特赦なんじゃないだろうか。おれは赦されている、ありがとう。夜も更けてきた、平成ももうすぐ終わる。
平成最後のハブ
カーラジオでは平成の振り返りも大詰めを迎えようとしていた。平成の名曲としてモンゴル800が紹介されてさすが沖縄、ハブも800といきたいもんだと探索していたら、貯水池の周りで側溝に縮こまっているヘビを見つけた。
リクエストしたビギンの曲がオンエアされるのを待っているかのようにじっとしていた。時計をみると23時近く、おそらくこのハブが私にとって平成最後になるだろう。
令和最初もヒメハブだった
いよいよ令和になる。渋谷では交差点に人があふれてカウントダウンが始まっていたらしいが、こちらで騒いでいるのはもっぱらウシガエルやカジカガエルにかさかさ動き回るでかいゲジゲジである。そしてその喧騒を見守るように路上に佇んでいたのはまたもヒメハブだった
時刻は0時をちょうど回っていた。
ヘビにカエルにゲジゲジや蛾、地味などうぶつの森の仲間達と共にめでたく令和を迎えたのだった。
ハブのいない日々
令和となって数日、メディアが「令和初の〜」と連呼するだけであの喧騒はいったいなんだったんだというぐらい平穏な日々となったが私はまだ伊平屋島にいてハブを探していた。
毎晩、ハブが見つからずにブルーな顔をして帰ってくる私を心配した宿のおかみさんがハブのよく通る道(ハブ道)を教えてくれた。
さらに沖縄本島在住のハブ捕り名人に電話でいろいろアドバイスをもらったりといろんな人を巻き込んでもはやプロジェクト化してきた感もあるがそれでもハブは見つからなかった。
5日間滞在して探しまくったがハブを見つけることができず、肩を落としてチェックアウトしていたら宿のおかみさんが「ハブ残念でしたねえ。コーヒーでも飲んでいきますか?いらない?、あ、そう、ああ、そういえばこの集落にハブ捕りやってる人がいますから行ってみますか?」となんと家まで案内してくれた。
ここの主人は名嘉恒夫さんといい、島でただ1人(たぶん)、畑や田んぼ、住宅地などにあらわれたハブ捕りをしているという。
なんと、ちょうど最近捕獲したハブがいるというので見せてもらった。
「ここのハブは沖縄(本島)のとくらべて黄色味が強いやつが多いかな。この時期はとにかく農道のはしっことか、木には登らず下にいますよ。これから暑くなってくると木に登りだす」
さすがハブの生態を知り尽くしている。
「ここのところはちょっと寒かったですからねえ。今夜なんか気温も上がって結構出てくるんじゃないかな。よかったらガイドしますよ。え? 今から帰るの?」
ハブツアーのお誘いに飛び上がりそうになったがもうフェリーに乗って沖縄どころか東京まで帰らなければならないのだ。そして少ししたら仕事だ、うわー。
「それならまた来たらいいですよ。もうちょっと暑い時期だといいかな」
ぜひ! 連絡先を交換して再会を誓った。
宿のおかみさんも、紹介したハブ捕りと名刺を交換し再訪を誓っているとはよも思うまい、それとも狙いだったのかな? いずれにせよありがとう伊平屋島。