特集 2019年5月22日

平成最後のハブ、令和最初のハブ ~伊江島&伊平屋島ハブめぐり~

令和最初のハブだよー。(ヒメハブですが)

今年のゴールデンウィークは元号が平成から令和に変わるというトピックスで持ちきりだった。ハブとて例外ではない(言い切った)。

1975年神奈川県生まれ。毒ライター。
普段は会社勤めをして生計をたてている。 有毒生物や街歩きが好き。つまり商店街とかが有毒生物で埋め尽くされれば一番ユートピア度が高いのではないだろうか。
最近バレンチノ収集を始めました。(動画インタビュー)

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沖縄中北部の離島をめぐる

沖縄や奄美のハブがいる島を巡っているが今回の訪問先は「伊江島」と「伊平屋島」。沖縄本島の北西部に位置し、中部の本部半島から定期的にフェリーが運行している。

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まず伊江島に渡り、一度本島に戻ってから伊平屋島へ。

ゴールデンウィークの前半、つまり平成を主に伊江島で、令和を伊平屋島で過ごす事になる。この時代の大きな節目にハブを探す、こんな幸せな事があるだろうか、ありがたや。

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かわいくないおっさんにはハブ旅をさせよ。

城山まわりを探せ

伊江島は本部港よりフェリーでわずか30分ほどで行くことができる。美ら海水族館と海を挟んで向かいの島といった感じだ。

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フェリーが描かれたバス。陸運と海運のコラボ。
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インターネットエクスプローラーではない。伊江だからIE。
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コメント付き石敢當はじめて見た。
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ちょうど「伊江島ゆり祭り」が開催中。リリーフィールド公園や各地の会場でゆりの皆さんが色とりどりに咲き誇っていた。

島名物の落花生をはじめ、さとうきび、島らっきょうなどの畑が広がる比較的平坦な地形の中央でシンボルのようにそびえるのが標高172mの「城山(ぐすくやま)」である。

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中央の山が城山、島の至る所から見える。
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この景色を見た展望台が昔の人が考えた世界の構造のようだった。

村民からは信仰の対象とされているだけでなく、地質的にも貴重な山で、オフスクレープ現象によって形作られた世界で唯一の山といわれている。

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「オフスクレープ現象」に関しては私の知見では解説不能なので解説板をどうぞ。Off-scrape(こすり落とす)なので剥がれてできた地形という事か。
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登山口まではシャトルバスが運行している。

伊江島にハブは分布しているが多くはないと聞いていたのであまり期待はしていなかったのだが、登山口へ向かうシャトルバスや飲食店なんかで現地の人に聞いてみると「これからの時期はけっこう出ますよ」との事だった。

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山道は整備されていいて登りやすい。そこ安定大丈夫ですかといいたくなる根。
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頂上からの眺め。パッチワークのような畑スケープが美しい。

この季節になると城山周辺の周遊道路などでよく出没するという。なんだよ楽しみだな日没。

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創業40年の老舗、「エースバーガー」で腹ごしらえ。バーガーと名乗っているがロースステーキ、ハンバーグから沖縄そばまで多彩なメニューを取り揃える。
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日没間もない頃に現れたオキナワヒラタクワガタ
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でかいヤシガニが闊歩

気温は低かったが雨降りの後で湿度は高く、路上をハブのエサとなるネズミが頻繁に駆け回っており、遭遇できそうないい雰囲気があるのだが探せど探せどハブはおろか爬虫類が見つからない。

2日間夜な夜な島内を探索したが結局ハブに会うことはできなかった。

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ネコは光ってんだけどね。
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ハブとネズミのマリアージュ

しかし、とある観光スポットで意外なハブ充が待っていた。

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史跡「島村屋観光公園」

沖縄芝居の三大悲劇のひとつ「伊江島ハンドゥー小」の舞台となった島村屋の屋敷跡に作られた公園である。

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伊江島の有力者「島村屋」の息子を助けた女性「ハンドゥー小」の悲恋物語。

敷地内には屋敷跡の他に島の特産物を豊富に取り揃えた土産店や島で昔から受け継がれて来た民具た漁具、衣装などを展示した民族資料館があるが、その中に、静かに異彩を放つスペースがある。

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ガラス戸に仕切られた小屋。
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ハブだ!
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おーだべってるだべってる。
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敷地内で捕獲されたハブを飼育し、展示しているとのこと。

沖縄でハブを展示している施設はもちろん他にもいろいろあるが、ここがひときわ異彩を放っている秘密はハブ水槽の下段にある。

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なんかフワフワした生命体が…
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ネズミだ!

なんと、ハブの真下でエサのネズミが飼育されているのだ。

上をよく見るとすでに数匹のネズミがハブと同居していた。

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しむら〜うしろ〜!

捕食シーンが見られるかと思ったが昼間のハブはまったくやる気がない様子でネズミに反応していなかった。ネズミはハブのすぐ目先の石と石のすき間を軽快に、楽しそうに駆け回っていた。

「やはりネズミのいるところにはハブが、ハブがいるところにはネズミがいるな」

本質がからまったような感慨を抱いて伊江島を後にした。

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ハブに併設の土産店で伊江島ちょうちんゲット!
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タッチアンドゴーで伊平屋島

いったん本島に戻り、運天港からフェリーの乗って1時間20分ほど北上、沖縄の有人島では最北端となる伊平屋島に着く。

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この②ですね。
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すぐ後ろに山を従えたターミナル。

車で30分〜1時間も走れば1周できてしまうコンパクトで細長い形をしたこの島は起伏が豊かで、200m級の山が南北にそびえている。

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海からすぐ山が、そしてダム(我喜屋ダム)が見える。
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慶良間ブルー、渡名喜ブルーなど、沖縄にはいろんな彩度のブルーが存在するが伊平屋の海も「伊平屋ブルー」の異名をとる。

水資源も豊富で平野部では水田が広がっており、両生類爬虫類全般が活躍していただきやすい環境となっている。

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沖縄県では珍しい広大な水田風景。
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かかしまつりの開催時期だった。

島にある5つの集落には珊瑚の石積み塀や赤瓦の屋根など、昔ながらの沖縄の家並みを色濃く残している。

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ハブの隠れ家となるのでブロック塀に置きかわっているところもある。
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沖縄の屋根の見どころはシーサーだけではない。瓦に施された文様も実に多様。
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田名集落にある「田名スーパー」のかっこよさに震える。「名」の字とかすごくないですか。

ハブのいる島にかかせないハブ注看板の他にもコンテンツにハブが露出している。

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かわいいハブ注。
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ウォーキングマップにもハブが。
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ハブタクシー!

さらば平成よろしく令和

今までいくつもの夜を南西諸島で過ごしてきたが今夜は中でも特別な夜である。4月30日、この日をもって平成は幕を閉じ、新しい元号、「令和」となる。今夜この伊平屋島で平成最後の、そして令和最初のハブを見つけ、渋谷の交差点にも劣らぬグルーヴを味わいたいのだ。

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リュウキュウカジカガエルの八艘とび。
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ウシガエルがかなりいるな……。

沖縄入りしてから4日目にしてようやく見つけたヘビがいいサイズのアカマタだった。

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無毒なヘビには強気なおれ(とはいえ咬まれるとけっこうな惨事になるのでむやみに触らないようにしましょう)
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てへぺろ。きれいなヘビだな。

アカマタは危険を感じると臭線から猛烈に臭い液を出してこちらをかなりブルーにさせる。しかしこのアカマタを触った後はなぜかほぼ臭わなかった。思うにこれは時代の節目を共に迎える者に対する彼なりの特赦なんじゃないだろうか。おれは赦されている、ありがとう。夜も更けてきた、平成ももうすぐ終わる。

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臭くないからキノボリトカゲにも嫌われない。加齢臭でにおいが目立たないだけではと思ったがそんなネガティブな妄念はやめだ。

平成最後のハブ

カーラジオでは平成の振り返りも大詰めを迎えようとしていた。平成の名曲としてモンゴル800が紹介されてさすが沖縄、ハブも800といきたいもんだと探索していたら、貯水池の周りで側溝に縮こまっているヘビを見つけた。

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ヒメハブだ!
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微動だにしない。去り行く平成に思いをはせているに違いない。

リクエストしたビギンの曲がオンエアされるのを待っているかのようにじっとしていた。時計をみると23時近く、おそらくこのハブが私にとって平成最後になるだろう。

令和最初もヒメハブだった

いよいよ令和になる。渋谷では交差点に人があふれてカウントダウンが始まっていたらしいが、こちらで騒いでいるのはもっぱらウシガエルやカジカガエルにかさかさ動き回るでかいゲジゲジである。そしてその喧騒を見守るように路上に佇んでいたのはまたもヒメハブだった

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DJポリスかお前は

時刻は0時をちょうど回っていた。

ヘビにカエルにゲジゲジや蛾、地味などうぶつの森の仲間達と共にめでたく令和を迎えたのだった。

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令和の瞬間とヒメハブのツーショット。この写真いるか?と思ったが今見返すとじわじわ来る。
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ハブのいない日々

令和となって数日、メディアが「令和初の〜」と連呼するだけであの喧騒はいったいなんだったんだというぐらい平穏な日々となったが私はまだ伊平屋島にいてハブを探していた。

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すっとんきょうなシーサーや漂着物が飾られた不思議ゾーン
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なぜか寄せ書きが。「この島の海も空もハブも好き」みたいなことを書いておいた。

毎晩、ハブが見つからずにブルーな顔をして帰ってくる私を心配した宿のおかみさんがハブのよく通る道(ハブ道)を教えてくれた。

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行ってみたらハブ注があった。さすが!

さらに沖縄本島在住のハブ捕り名人に電話でいろいろアドバイスをもらったりといろんな人を巻き込んでもはやプロジェクト化してきた感もあるがそれでもハブは見つからなかった。

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ガラスヒバァ(これも毒ヘビ)はいたのだが……。
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沢で流されながらも懸命に進むヒメハブ。「負けるな一茶ここにあり」と思ったがヒメハブ相手だと一茶ここにいたかな。

5日間滞在して探しまくったがハブを見つけることができず、肩を落としてチェックアウトしていたら宿のおかみさんが「ハブ残念でしたねえ。コーヒーでも飲んでいきますか?いらない?、あ、そう、ああ、そういえばこの集落にハブ捕りやってる人がいますから行ってみますか?」となんと家まで案内してくれた。

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広い庭にヤギ小屋、そして「ハブ注意」と書かれたケージが!

ここの主人は名嘉恒夫さんといい、島でただ1人(たぶん)、畑や田んぼ、住宅地などにあらわれたハブ捕りをしているという。

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いきなりの来訪にもかかわらず気さくに迎えてくれた。

なんと、ちょうど最近捕獲したハブがいるというので見せてもらった。

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いざ、前傾姿勢でハブの檻へ。
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おお!待望の伊平屋産ハブが!
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体色がビビッドで美しい。海が伊平屋ブルーならハブは伊平屋イエローだ。※名嘉さんは特定動物の飼養許可を得ています。

「ここのハブは沖縄(本島)のとくらべて黄色味が強いやつが多いかな。この時期はとにかく農道のはしっことか、木には登らず下にいますよ。これから暑くなってくると木に登りだす」

さすがハブの生態を知り尽くしている。

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6年ほど前に捕らえたという自慢の黄金ハブがまばゆい。

「ここのところはちょっと寒かったですからねえ。今夜なんか気温も上がって結構出てくるんじゃないかな。よかったらガイドしますよ。え? 今から帰るの?」

ハブツアーのお誘いに飛び上がりそうになったがもうフェリーに乗って沖縄どころか東京まで帰らなければならないのだ。そして少ししたら仕事だ、うわー。

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なぜ働く?

「それならまた来たらいいですよ。もうちょっと暑い時期だといいかな」

ぜひ! 連絡先を交換して再会を誓った。

宿のおかみさんも、紹介したハブ捕りと名刺を交換し再訪を誓っているとはよも思うまい、それとも狙いだったのかな? いずれにせよありがとう伊平屋島。

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いいよ来なくてべつに。

日本は令和1年となった。ハブ島巡りをして4年になるから私の中ではハブ4年でもある。時代の流れはひとつではない、皆の心の中にそれぞれの、不変の元号が存在するのだ。今年もよいハブに会えますように。

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ですよね……。
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