ハト車の可能性は無限大
トリコプターやカンムリハト車以外にもまだまだいろいろ作ってみたいものがたくさんある。ハト車の発展性は無限大なのだ。
しかし、郷土玩具の置き場所は(薄型ではない)テレビや茶箪笥の上が定番だが、うちにはどちらもないので作ってしまったハト車たちは少しもてあましている。この上さらに増やしてどうしようというのだろうか。ヒッチコックの『鳥』のように部屋中がハト車で埋まる日が来るかもしれない。
野沢温泉名物のハト車を自分で作ってみたい!ということで、去年の12月の頭くらいからずっとあれこれと試行錯誤していた。ようやくそれらしいものができあがったうえ、勢いあまっておかしなものまで作ってしまったので報告したい。
ハト車は長野県野沢温泉村で作られる郷土玩具である。
鳩に車輪のついたおもちゃ自体は大昔からあって、幼いころから一緒に遊んだ友達を鳩車竹馬の友(きゅうしゃちくばのとも)と言う表現もあるそうだ。
野沢温泉村のハト車は籐(昔はアケビの蔓を使っていたが、入手するのに手間がかかるため今は籐を使うらしい)を編んで作るところが特徴である。
後になって調べたところでは、野沢温泉のハト車は今の上皇后が若かりし頃に献上を受けたとかで一時はかなり有名な存在だったらしい。
私はというと、同居人が蚤の市で見つけて買ってきたというハト車を見て一目ぼれしてしまった。どうしても欲しくなったので「くれ」と頼んでみたが、すげなく断られてしまった。自分が欲しくて金を払って買ったわけだから当然の対応であろう。
諦めきれずにインターネットで探してみたところ、ハト車は今も村民の手作業によって生産が続けられているというではないか。
私はますますハト車が欲しくなった。それだけではない。ここはひとつ、ハト車の生産現場を取材しよう。作り方を教えてもらって、自分だけのマイ・ハト車を作ることができたらなんと素敵なことだろう。そう思って、さっそく野沢温泉村役場に問い合わせを出してみた。
数日後、役場から返答の電話がかかってきた。内容は「ハト車の生産者はみな超高齢の方ばかりなので、申し訳ないが作り方を教えたりすることは難しい」というようなものだった。
なんということだろう。私が一目ぼれしたハト車は、今まさに作り手が絶えかけていたのである。役場も役場だ。そんな状況ならむしろ今のうちに記録しておかないといけないのに、どうしてわからないのだろう......。
そう思ったのだが、新型コロナの流行もあり「そこをなんとか.......」としつこく頼むことははばかられた。
仕方がない。教えてもらえないのなら、自分で考えるしかない。ハト車を作れる人が絶えそうなら、私が作れる人になればいいのだ。
前置きが長くなって申し訳ない。
そんなわけで、手元にあるハト車やインターネット上の籐細工ハウツー情報を参考にして作ったハト車を見てもらいたい。
見よう見まねでそれらしいものができてしまった。自分の器用さが怖い......。
うーん、このひょうきんな見た目、良い!
ところで、長期間にわたってハト車を観察しているうちに、その愉快で可愛らしい見た目の後ろにほんの少しだけもの悲しさのようなものを感じるようになった。この正体はなんなのだろう?
ある日、ふと気が付いた。
それは、彼が飛べないからではないか。車輪を得ることと引き換えに空を飛べなくなってしまったせいで、鳩としての自尊心のようなものが大いに傷つけられたに違いないのだ。これはなんとかしてやらなければ。ということで、
飛べるようにしてやった。
ハトコプター(鳩コプター)よりもトリコプター(鳥コプター)の方が語呂がよいのでそう呼ぶことにする。
さて、見てもらいたいものは全て見せてしまったため、ここから先はおまけである。
ハト車ができ上がるまでにはそれなりに紆余曲折があったのである。
籐細工の花瓶を逆さにしたものがハト車のボディに近い形だったので、参考に。
まず、はじめに近所で手に入るもので試してみようということでホームセンターに売っている紙紐を使ってみたのだが、これは無残な結果に終わった。
というわけで、最初からそうすればよかったと思いつつ通販で籐を購入することに。
作ってみてからわかったことだが、ハト車一つを作るのに必要な籐は長さ2mのものが5本もあれば余るほどである。いったい、この籐の山を消費しきるためにはいくつ作ればいいのだろうか。しかも、底のほうには「サービスしときました」のメモとともに追加の籐が。優しさが辛かった。
ともあれ、いくらでも失敗できるだけの籐が手に入ったのでガシガシ編んでいこう。
紙紐とはちがったしっかりとしたコシのあって、なおかつ滑らかな質感に感動。山ほど届いたときはどうしようかと思ったけど、買ってよかった。
たぶん、ハト車作りで一番難しいのはこのきれいな形の胴体を作ることだと思う。これに失敗すると、後述するような不気味の鳥の谷に落ち込んでしまうのだ。
作り方を詳細に記述すると長くなりすぎるので残りの工程は想像に任せるとして、ここに羽や車輪や目や口を漬けたら完成だ。
トライしてみたいという奇特な人には、リラックスできる環境とハンドクリームを準備されることをお勧めしたい。製作者の集中力と指の脂を養分にしてハト車は生まれるわけやね......。
トリコプターやカンムリハト車以外にもまだまだいろいろ作ってみたいものがたくさんある。ハト車の発展性は無限大なのだ。
しかし、郷土玩具の置き場所は(薄型ではない)テレビや茶箪笥の上が定番だが、うちにはどちらもないので作ってしまったハト車たちは少しもてあましている。この上さらに増やしてどうしようというのだろうか。ヒッチコックの『鳥』のように部屋中がハト車で埋まる日が来るかもしれない。
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