かかし祭りにハマる
毎年秋になると実家近く、といっても距離的にはけっこう離れているんだけど、神奈川県海老名市のとある田んぼを訪れる。
駅前のいい感じのテナントモール。
そこで開催されている「中新田かかしまつり」を鑑賞するためだ。
小田急線厚木駅からちょっと歩くと線路沿いは田園風景になる。
会場入口。向こうに見えるのが小田急線。
日本各地で開催されているかかし祭りと同じく、趣向を凝らしたオリジナルかかしが畦道にずらりと展示される。
電車の窓からその存在に気付いたのは2009年の秋だった。実家で用事を済ませて厚木駅から会場に着いた時にはすっかり陽が落ちていたが夢中になってかかしを観ては「ほほう」とうなっていた。
あとで調べてわかったがすでにこの時点で17年目だった。なんで今まで気付かなかったんだ。
この時期に一世を風靡したコンテンツやキャラクター、印象深い出来事などが可視化でなくかかし化され、さらに田んぼだけにお米ナイズされている。
お米を守るミッキー米(マイ)ス
田んぼだけに田地人(2009年NHK大河ドラマ「天地人」より)
アイディアと批評性にあふれたかかし達にすっかりハマり、以来10年間、その1年を刈りとるように訪れては鑑賞してきた。
なつかしくもありついこの間のようでもある10年間をかかしを観ながら振り返ってみよう。
2009年:マイケルとヤンキー
ジャマイカ旋風
2008年の北京オリンピックではウサイン・ボルト選手が9秒69という意味がわからないレベルの世界新記録を叩き出し,さらにリレーや女子100mなどもメダルをジャマイカ勢が独占,「ジャマイカ旋風」と呼ばれた。
10年たってボルトがまだ32歳なのもすごい。
マイケル・ジャクソン死去
2009年6月、いわずと知れた世界最高のエンターティナー、マイケル・ジャクソンが原因不明の死を遂げた。
もう10年も経ちますかってそんな感慨ばかりだな。
私のジャクソン体験(ジャクソン言うな)は小学生の頃だった。
友人の、年の離れた兄になぜかミュージックビデオ「スリラー」と黒田みのるの「霊障人間」という恐ろしい漫画を見せられ、日が暮れた家路を震えながら帰った。今思い出してもあれは無いわ。
出来事とは関係ないがこの年に見たかかしで一番私の心を打ったのはこの「ヤンキーヘルパー」だった。
「ヤンキー+ヘルパー」というパワーワードを与えてくれた事に感謝したい。
2010年:ブブゼラとイクメン
南アフリカワールドカップ
アフリカ大陸で最初のワールドカップとなる南アフリカ大会が開催された。この大会で有名になったのがスタジアムでプープカ豪快に鳴り響く楽器「ブブゼラ」だ。
大会後はニーズが冷え込み、昨今のロシアW杯時には6万個の在庫を抱えるという寂しいニュースがあったがこれからも時おりブブゼラとつぶやいていきたい。
当時の日本代表監督、岡田武史氏。日本をベスト16まで導いた。田んぼでは「お米を守る岡ちゃん」
「お米にグッジョブ マラドーナ」サッカー史に残るレジェンド、ディエゴ・マラドーナがアルゼンチン代表監督として采配をふるった。しかしシブいモチーフだな。
イクメン
育児をする男性(メンズ)の略称。2010年に厚生労働省が「イクメンプロジェクト」により普及活動を行い、流行語大賞のトップテンにもランクインした。
言いたいだけだけど「気後れした様子、表情」は臆面(オクメン)である。
私は当時も今もイケメンでもなければイクメンでもない、サラリーマンである。
地デジカなんてのもいましたね。TV地デジ化のキャラクター。
華やかなかかし達の向こうで働くリアルかかしは真剣味が違う。鳥たちの心胆を寒からしめるビジュアルショック。
2011年:震災とえびーにゃ
2011年といえば避けて通れない出来事が3.11東日本大震災。あれからもう7年も経っているのが信じられない、それだけ現実にも心象にも爪痕を残している災害である。
東北に声援を送るかかしが一斉に立ち並んだ。
地震発生当時、私はビルの高層階のオフィスにいて心臓と腸がひっくりかえるんじゃないかという激しい揺れに恐怖した。外出していた同僚が私のいたビルを外から見て「メトロノームみたいに揺れてた」と言っていた。そんなバカなと思いつつも絶対にメトロノームには生まれ変わるまいと誓った。
時の野田首相も鼓舞されまくり。
タイガーマスク運動
2010年12月25日、群馬県前橋市の児童養護施設に「伊達直人」名義でランドセルが贈られ、それをきっかけに全国の施設で匿名の寄付が相次いだ。この心温まる現象もかかし化されていたが有り余る想像力でシーンを表現していてものすごい。
かかしじゃなくて人じゃないのかと疑うほどのクオリティ。
この伊達直人氏が2016年の初代タイガーマスク35周年イベントで実名、素顔を明らかにしたという後日談はこの記事を書くまで知らなかった。
えび~にゃ誕生
海老名市ではゆるキャラの「えびーにゃ」が誕生。地元の利を活かし、かかしまつりを席巻した。
「えび~にゃ」海老名のエビとねこをモチーフに、体は名産品「いちご」でできている。
ピートたんというレアキャラも見た事があります。
2012年:スカイツリーとぶれる日食
東京スカイツリー開業
個人的には、え、これ震災より後だったっけという感じなのだが2012年5月22日開業らしい。
田んぼにそびえる、その名も「ス米(まい)ツリー」
スカイツリーはその話題性からか以前にもかかし化されている。実際の開業よりずっと前から存在はあまねく知られていたわけでそれ故の違和感なのだろう。
「海老名スカイツリー」必然的に高くなるので作るの大変そうだな。
私事で恐縮だがデイリーポータルZの特集記事にはじめて寄稿した年でもある。黒いヘビを探しに行く企画だったが、その後6年間でこんなにもヘビを探しに行く騒がしい未来が僕を待ってるとは予想だにしていなかった。
金環日食
やれ本州では129年ぶりだの首都圏では173年ぶりだのいや日本のいろんなところで見られるのは平安時代ぶりだの、ぶり情報のぶれが目立った天体イベントだった。
ポリシックスみたいな日食グラスみんなかけてましたな。
2013年:あまちゃんとロイヤルファミリーと猿
じぇじぇじぇ
この年、現実の勢いそのままにかかしまつりを席巻したキャラクターがあった。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」である。
「お米の海女ちゃん」業種を超えたコラボ。
いっきに大人びる。暦の上ではディセンバーだというのに。
ロイヤルベビー
英王室でウイリアム王子とキャサリン妃の間に男の子が誕生、ジョージと命名された。
小学校の校長先生が王子を抱っこしているというシュールな図。
3年後、第二子シャーロット王女が生まれた際に動物園が猿に同じ名前を命名して批判を浴びた。猿にロイヤルファミリーと同じ名をつけるのは不敬なのかと日本中が揺れたが(大げさ)、イギリス王室からは「知らんがな」に近い回答があり鎮静していったのは記憶に新しいところだ。
陶酔感あふれるトラックを見つけた年でもあった。
2014年:STAP細胞のかかしはあります
妖怪ウォッチ
前年のあまちゃんに取って変わって畦道にあふれたのが「妖怪ウォッチ」である。
腹巻してたのか。
メインキャラのジバニャンってよくわからないけどかわいいねなんて言ってたらトラックに轢かれて死んだ猫の地縛霊だという設定を知って遠藤周作のように沈黙した。
おまえもジバニャンになるのか。
STAP細胞
これも個人的にはええ?もう4年も経ってんだっけ?といった感じなのだが存在をめぐって大変な騒動を巻き起こした細胞である。
これ小学生の作品である。細胞にはCDを使用。すごい。
知性にとぼしい私は大概の事は理解できずにいたが、キメラマウスはドラクエに出てきそうだななどとパルプンテな感想を抱いていた。
米じるブッシャーは笑った。激しく研ぎ過ぎ。
2015年:相方は肩に乗る
北陸新幹線東京-金沢開業
開業が話題になった時に、なぜかもうとっくに運行しているものだと思い込んでいた私は違った意味で驚いた。
小田急ロマンスカーを差し置いて鉄道ネタ。
芥川賞:又吉直樹
これまで鑑賞してきた中で文学賞関連がかかしになる事はまずなかったがさすがの知名度。
読んだけど面白かったです。
お笑いコンビのかかしは相方が肩に乗りがちだ。( オードリー/2009年)
ついに骨組みでかかしの作り方を展示するというメタかかしが登場した。
2016年:ポケモン旋風
この年になるとさすがについこの間感満載だが、元気出して、声出して振り返っていこう。
ポケモンGO
ブームというよりもはや社会現象となって日本中にモンスターボールを撒き散らした。
モンスターボールのはっぴがかわいい。
私はなんかクワガタみたいなのばかり増えてピカチュウをゲットする事なく撤退したが最近は一度離脱した人も復活していたりするようだ。
パーフェクトヒューマン
あぶない刑事かと思ったら違った。そういえばあったね、黒いスーツの人達が集まったり丸くなったりしてパーフェクトだったね。
パーフェクトヒュー米(まい)。ネーミングもキレ味抜群だ。
カマ持って米持って「ダース米ダー」。思いつきたかった、くやしい。
2017年:いい薬屋とカールが去った
かかしでなく景観にも時の移ろいを感じることがある。駅を出てすぐの気合いの入った看板が楽しい薬局はビルの取り壊しと共に移転してしまった。
たたみかける精力。
家訓にしたい「ストップ・ザ・ボケ」
あの情報量はどこへ。
カール販売終了
カールおじさんでおなじみのスナック菓子「カール」が売上げ低迷などを理由に東日本での販売を終了した。こういっては何だけど思いのほかかかし祭りでの反響が大きく、2体のカールおじさんかかしが寂しげな笑顔を振りまいていた。
カレー味が好きだった。
映画「君の名は」大ヒット
もはや説明不要のメガヒット映画だが、写真を整理しながらなんというか、ああこの映画去年のやつかと改めて感慨をいだいた。かなり去年力の強いコンテンツだと思う。来年になっても去年の映画だと思っているかもしれない。
タイトル「米の名は」。ひとめぼれかな。
2018年:なにげにけっこうなつかしい
平昌オリンピック 女子カーリング
日本に初の銅メダルをもたらし、「そだね」や「もぐもぐタイム」などの流行を生み出したカーリング女子日本代表。開催から半年を経過してなお人気。しかもこれらの流行語に乗じて狡猾に名産品のいちごをアピールする地元愛が素晴らしき哉。
そですネとしか言いようがない。
青空の下のもぐもぐタイム
スーパーボランティア
夏休みのまっただ中、行方不明となった2歳児を発見し、日本中の注目を集めたスーパーボランティア・尾畠春夫さん。
その高潔な精神はもとより、ボランティアとしてのスキルの高さに驚かされた。このニュースが盛り上がったのが8月下旬で私がこのかかし達を鑑賞していたのが9月8日、かかしとは思えないスピードだ。
かかしメディアの速報性あなどりがたし。
大河ドラマの西郷どんはそのキャッチーなキャラクターも手伝ってか多数かかし化されており、そのほとんどが快作、傑作だった。
やたら迫力があるのでこのまま田んぼで使えばいいのに。
どう考えても猫
2009年から2018年、当時は素通りに近かったかかしも10年分を振り返ってみるとこんな事あったっけ、こんなに昔だったけとやたら気になったり、こちらの立ち位置の違いでドップラー効果のように感じ方が変わってくる。リアルタイムと振り返りでずっと楽しめる悠久の道楽である。
昨今はひらひらした光る紙になったり、カラスの死体みたいになったり、人型のかかしもなかなか見られなくなってきた。
この先、逆にかかし祭りがそんなかかしの存在した証となっていくのだろうか。また10年後を目指してゆるゆると観察してゆきたい。
他にも観察し続けているかかしがあるのだがその話はまた別の機会に。