この先も食べられることを願って
1日に2食天津麻婆丼を食べるという、かなり思い切ったことをして「もう当分いいかも」となりましたが、1週間くらい経つと何か食べたくなってる自分がいます。
しかし、今は感染症対策のため、学外の方が食べにいくのが難しくて残念です。
でも、天津麻婆丼はおそらくこの先も阪大にあり続けるメニューだと思うので、きっといつか気軽に食べに行ける日が来るでしょう。
待ちきれない方は、阪大生協公式Twitterでレシピが紹介されているので、おうち天麻もありです・・・!
大阪大学の食堂には、ふわふわ卵の天津飯の上にピリ辛麻婆豆腐をのせた「天津麻婆丼」という名物メニューがあります。ド直球なガッツリメニューで期間限定感すらただよいますが、なんとおよそ30年前から人気の大スター選手なのです。
食堂には毎日専用レーンに長蛇の列、「天マヨ丼」なる謎のアレンジレシピが流行り、卒業生が懐かしさに問い合わせをするという盛り上がり・・・
天津麻婆丼、通称「天麻(てんま)」の今と昔をたどる巡礼に向かいます。
私が大阪大学に入学したての頃。サークルをうろうろと見学しているとき、いろんな先輩から「学部はどこ?」「一人暮らししてる?」という鉄板の質問と同じくらい、
「阪大入ったら天津麻婆丼を食べておけ」という空気がたしかにあったのです。そして初めて食べに行ったところ、
厚い卵のふわふわ食感にガツンとした麻婆豆腐の味わいが脳に直撃し、「これが学食メニュー・・・!?」と驚愕しました。うまいものの上にうまいものをかける、とにもかくにもキャッチ―な一品なのです。
しかも天麻を注文する人は常に長蛇の列、名実ともに名物メニューでした。
天麻の話を阪大OBの編集部石川さんにしたところ、
つまり、20年前にはすでに存在したメニューだったのです。
スタンダードなカレーとかうどんがずっとあるのとは訳がちがいます。なんか期間限定感がある独創的な料理が学食に何十年もあるのってすごくないでしょうか。
近ごろは、他の中華料理屋でもたまに「天津麻婆丼」を見かけますが、もっと歴史が深そうです。
これは歴史探訪せざるをえません。私はフラフラしたおかげで現在もギリ阪大の学生です。今のうちに天麻を巡礼しようと、石川さんと共に阪大へ旅立ちました。
天麻はすべての食堂で食べられるわけではなく、豊中(とよなか)・吹田(すいた)・箕面(みのお)のキャンパスのうち。豊中と吹田の一部の店舗のみが出しています。しかも、豊中と吹田ではレシピが異なるそう。
キャンパスの違いをざっくり言うと、豊中が1年生が最初に授業を受けるメインキャンパスで、年中人が多いです(ネコもめちゃくちゃいます)。
一方、吹田は理系の学部が集中しており、キレイですごそうな建物がたち並びます。資金力の差ですね。
この食堂は、注文するメニューで入口がちがうのですが、
豆腐のみならず白菜ものっかっております。
麻婆豆腐のしっかりした辛みのなかにも、ちゃんと卵の味わいを感じます。
食べていく中で味が複雑に変化するわけではないのですが、キャッチーなうまみで押し切られて平らげてしまいます。しっかりとお腹いっぱいです。
まずやっぱり気になるのは、天津麻婆丼の人気のほどです。
この食堂では1日350~400杯出るらしく、1日600人お客さんが来るので、なんとおよそ60%が天津麻婆丼を頼んでいるとのこと。
学食は料理の提供スピードが大事で、はやいものだと2分で15人のお客さんをさばけるのに、天津麻婆丼は2分で3、4人だそうです。かなり遅いですが、人気なので続けられるのでしょう。
そういえば、私の研究室の女性に天麻について聞いたところ、
天津麻婆丼を注文するのはほぼ男性だそうです。白ごはん250gの上におたま3~4杯の卵、麻婆豆腐がのってるので、かなりお腹いっぱいになります。男子が喜ぶボリュームなのでしょう。
こんなに男女で人気の差があるのに長寿メニューなのは不思議です。
ちなみに、阪大食堂では天津飯のアレンジメニューがたくさん生まれています。昔あった天津中華丼(天津飯に中華丼のあんをかけたやつ)は野菜が多くて女性人気が高かったそうです。人気天津メニューは期間限定で復活しているものもあります。
あと、今は天津カレー(天津飯にカレーかけたやつ)や麻婆丼という類似メニューもあるけれど天津麻婆丼の注文数は桁違いみたいです。
そしてなぜか天津飯は売っていませんでした。天津麻婆丼が追いやってしまったのでしょうか・・・
なんと、大阪大学生活協同組合さんに天麻の年表を作っていただきました。じつは天麻のあゆみは今まではっきりとはしておらず、今回の取材で明らかになります。
東西ドイツが統一したこの年、天麻はまかないメニューとしてスタートを切ったのです。
注目は、豊中から吹田への天麻誘致運動です。
豊中でしか食べられなかった時代が18年ほど続いたある日、生協の組合員が参加する株主総会みたいな会議・総代会で吹田にも天麻をという議題が持ち上がっています。
いつでも天麻が食べられるようにしてほしかったんでしょうね。「強く要望したんや・・・」とフフッとなっちゃいましたが、先代が運動したという歴史は心に刻むべきです。
そして吹田で天麻販売をスタートするにあたって、レシピが再考されました。
ただ誘致しただけではなく、オリジナル性も加えられたなんて全く知りませんでした。カロリーを1200kcalまでに抑えることが目標だったけど(無理だった)というのがいいですね。がんばったけど無理だったんですね。
吹田で天津麻婆丼が食べられるようになった背景には、先人の並々ならぬ努力があったようです。この歴史を胸に、天麻が生まれたという豊中キャンパスに向かいましょう。
こーだいさんが通っていたのは今から訪れる豊中キャンパスで、学生時代に天津麻婆丼を食べていたようです。年齢も学部も違う私たちが天津麻婆丼を語り合ったこの日・・・!
授業や部活で疲れてペコペコのお腹をガッと満たすには天麻は最適です。
カウンターに近づいてきました。
吹田のものとレシピもちがうし、うつわも深いのでボリューミーに見えます。
しかし食べてみると、
やみつきになる味が食欲をかきたててくれるのです。そぼろと豆腐にからんだ辛み、それをほどよく中和するたまご、この味わいを止めたくなくて手が止まりません。
やはり豊中と吹田では味が異なります。
石川さんは自身の学部がある吹田キャンパスの記憶がすごく薄れていたのですが、サークルの部室があった豊中に来てからはつぎつぎと思い出が溢れていました。天麻も部室に来たとき食べていたようです。サークル、楽しかったんですね。
こーだいさん曰く「昔はハーフサイズがあった」らしいのですが、今は並(体感は大)のみ提供です。ハーフが復活すれば女性人気の巻き返しができるのにと思います。
ここで再び年表を見ると、
理由は人が集まりすぎるからだそう。
提供時間のおそさと注文の多さがあいまって行列は必至です。もはやスターのコンサート中止の理由です。また、卒業式がある3月は1週間限定で復活しており、これも有名人が卒業式に特別出演するやつみたいです。
向さんによると、卒業生から天津麻婆丼について問い合わせがあるそうです。卒業しても忘れられない思い出の味なんですね。
最近、お昼は「福利会館3F食堂」という別の食堂が天津麻婆丼を提供しはじめたのですが、これには3F食堂の客足を増やすためという目的が。岐阜県がキムタクを祭りに呼んだのとほぼ同じです。
実際にこれで客足が増えているようで、阪大生の天麻への愛、というか天麻があるところについつい行っちゃう性(さが)が透けて見えます。
天麻は作るのに時間かかるし、人も並ぶしで学食としては難しいメニューですが、再開を待つ声、そして食堂のみなさんのおかげで復活したのです。
天麻には有名なちょい足しアレンジがあります。
私はやったことないのですが、ピリ辛の麻婆豆腐の口当たりがマイルドになるそうです。
サラダ用に用意されてるマヨを卵の上に勝手にかけるという若気の至りは、1日に1、2人はやっており、食堂で働いていらっしゃる方の間で「学生たちは何をしてるんだろう・・・」と怪訝に思われているらしいです。
あと、5年前くらいに「天麻早食い」が流行していた記憶があります。30秒から1分で完食を目指すのです。私の友人もやってました。
給食の牛乳早飲みと同じで全く意味はないのですが、お腹いっぱいになるメニューを瞬時に食べる様は妙な迫力がありました。決して意味はなかったのですが・・・。
奇妙な文化が派生していくあたり、大学にがっつり根差したメニューって感じですね。
1日に2食天津麻婆丼を食べるという、かなり思い切ったことをして「もう当分いいかも」となりましたが、1週間くらい経つと何か食べたくなってる自分がいます。
しかし、今は感染症対策のため、学外の方が食べにいくのが難しくて残念です。
でも、天津麻婆丼はおそらくこの先も阪大にあり続けるメニューだと思うので、きっといつか気軽に食べに行ける日が来るでしょう。
待ちきれない方は、阪大生協公式Twitterでレシピが紹介されているので、おうち天麻もありです・・・!
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