特集 2022年11月16日

江戸時代の僧侶・円空の絵は変化がはげしく面白い

この2枚、同じシーンなんです

円空は江戸時代のお坊さんです。一度見たら忘れられない、グッとくる仏像を日本各地でたくさんつくりました。

どちらかというと仏像で知られる円空ですが、いま三重県総合博物館「三重の円空展」で円空の描いた絵がズラッと展示されているのです。

それはもうゾーンに入って絵がどんどん変化していきます。

絶え間ない円空アレンジに「うおおおお!」と熱くなること間違いなしです。

最初はしっかり描いていたのにあとでがっつり減らされる登場人物、くり返される円空オリジナルはんこ、めくるめく円空の世界に酔いしれましょう。

大阪生まれの大学院生。工作や漢字が好きです。ほら貝も吹けます。先日、教授から「あなたは何を目指しているのか分からん」と言われました。

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> 個人サイト 唐沢ジャンボリー

お経の絵に円空ワールド

お経にはしばしば冒頭に「見返し絵」がついています。お経の世界観をあらわす大事な絵で、言ってみれば本の扉絵のようなものです。

 

私がいつも美術館で目にするものは、

このようにていねいに描きこんだもの

 お釈迦さんと、説法を聞きに来た菩薩たちを描いた「釈迦説法図」という絵です。みんな、お釈迦さんをかこんで真剣にお話を聞いていますね。

一方、円空の見返し絵は、

(「大般若経」599巻のうち巻第481、志摩市片田区金剛院蔵、以下「片田経」)

おお!

(「大般若経」600巻のうち巻第82、志摩市立神自治会蔵、以下「立神経」)

うおおおおお!

 

(立神経巻第77)

うおおおおおおおおお!

唯一無二の円空見返し絵です。こんなの見たことありません。

なんとこれら3点は同じシーンを描いています。何十枚も描いたためか、めくるめく変化です。

 

円空は江戸幕府ができて30年そこそこの1632年に生まれ、僧侶として東日本を旅して各地に仏像を残しました。人生も謎に包まれているし、作品はパンチがあるしで、戦後に大人気になったお坊さんです。

円空は三重の志摩に来た際、『大般若経』というありがたいお経を修復するプロジェクトに参加しました。そこで描いた見返し絵がなんと合計188巻分残っているのです。

 

1人でこんなにたくさん同じ場面を描くってある種の修行ですよね。

頭ファ〜となった状態で描いたのでしょうか。(立神経巻第77部分図)

 そして現在、この絵がズラリと展示されているのです。これはもう「行き」です。

三重県総合博物館「三重の円空展」へ

豪華な車内でテンション上がる「近鉄特急ひのとり」に揺られ、三重県は津市の三重県総合博物館に着きました。

学芸員の瀧川和也さんにお話を伺います。
(めちゃくちゃすごみのあるお写真になっていますが、気さくな方でした。)

 

会場に入ると、

円空の絵のおおきなタペストリーに、

 

ずらりと並ぶ見返し絵!

 静かな展示室ですが、そこはかとなく熱気を感じます。

随所に瀧川さんのイラスト付きコメントも。ナイスな似顔絵です

 さあ、もりもり見て、もりもり話をお聞きしましょう。

こまかく描いているものから

まずドキッとさせられるのが、巻によって描き方が全然違うことです。

(片田経巻第1、会場タペストリーより)

全員集合、全員整列といった感じのものもあれば、

 

(片田経巻第441)

大小・人数がランダムなものも。

お釈迦さんのすぐ左右にいた方々がごっそりいなくなっております。そして、端の人たちがかなり大きく描かれています(スペースを埋めようとしてますね)。

(立神経巻第94)

 さらにメンバーが厳選されるとこうなります。

片田と立神、2つの土地にお経が残されており、立神の方はおなじシーンにもかかわらずぐっとメンバーが減少。減らしすぎな気もしますが。あの熱心な菩薩たちはどこにいったのでしょう。

 

瀧川さんによると、巻数と描いた順番はあまり関係ないようです。

 

(片田経巻第591部分図)

 最初はきっちり描いていて、

(片田経巻第331部分図)

だんだんノリノリになっていったのだと思います。

 

モジャモジャとかさなる髪型、(片田経巻第351部分図)

 

お釈迦さんの後ろでうねるダイナミックうずまき、(片田経巻第401部分図)

 

十六善神のなんとも言えない表情が光ります。(片田経巻第401部分図)

何十点も並んでいるのに、一つとして同じ絵がありません。マイアレンジにつぐマイアレンジ。

瀧川さんが円空の絵は彫刻家のデッサンのように少ない線で形を決めているとおっしゃっていましたが、数を重ねているからこそできる技術なのかもしれません。円空、実はテクニカルです。

オリジナル人物を登場させる

この絵は、菩薩や十六善神たちがお釈迦さんの話を聞きに来る「釈迦説法図」という絵が元になっています。しかし、円空はそこにオリジナルキャラクターを加えています。

それが、

ここに登場する・・・(立神経巻第48)

 

宝珠(玉ねぎみたいな形のありがたい玉)をささげ持つ人と、

 

右にいる龍です。(これは龍です)

彼らもお釈迦さんのありがたいお話を聞いているみたいですね。

これは他の経典にもない、円空オリジナルのメンバーだそうです。すごく気に入っていたのか、ほかのスタメンを削っても、この人と龍は描いていることもよくあります。

仏教の絵って、ルールがわりと決まっているのですが、めちゃくちゃ自由です・・・。

あとこの絵は、お釈迦さんの左肩に十六善神がめり込んでいるのが気になるところです。お釈迦さん多分困ってます。(立神経巻第48部分図)
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自分で作ったはんこを押す押す押す

絵の中に、何かわからないマークがくり返されているのに気づきます。

片田のお経には、葉っぱ?花びら?のようなもの

 

立神のお経には、それに乗った人物が。にっこり笑顔でチャーミング。

 これは円空オリジナルのはんこです。自分でデザインしたのでしょう。修復で紙をつぎ足した部分に押すこともあれば、好きなところに押していることもあるようです。そこもフリーダム。

 

ここではお釈迦さんの右上と、左側のお経の欄外にスタンプを押している。
(立神経巻第46)

 

瀧川さん「奥付に13個も押しているのもありました。」
唐沢「押しすぎですね」

なんでこんなにたくさんスタンプを押しまくったのでしょうか。うーん謎です。

「円空はわからないことが多い分、それぞれの人が自分の円空像を思い描ける」という瀧川さんの言葉を聞き、確かにどんな人か想像したくなっちゃうなと共感しました。

私の頭の中の「マイ円空」は、絵が描けたあと興奮冷めやらぬままスタンプを押して「よし!完成や!」と喜んでいます。みなさんのマイ円空はいかがでしょうか。

見ているこちらもウズウズする

これだけ数が多いと、気になるのは制作時間。1幅あたりどれくらい時間がかかるのでしょうか?

残念ながらそれはよくわからないみたいですが、瀧川さんは「立神のお経の絵は一気に何幅も描いたのではないか」と見ているそうです。

瀧川さん「この長いケースを歩きながら見ると、それぞれの絵に勢いが連続していることがわかります」

それでは見てみましょう。

流れるような筆致でやさしいお釈迦さんと、ドヤドヤあつまる十六善神を描き、(立神経巻第153)
スピーディーに薄墨を塗っていきます。龍が左からひょっこり。(立神経巻第193)
お釈迦さんの頬や腕のりんかく線がグンと減り、(立神経巻第532)

 

あまりの勢いに、もうお釈迦さんもいなくなっちゃいます。(自作のキャラがセンターに陣取ってていいのか)(立神経巻第565)​​​​​

なるほど、これは何枚か一気に描いたかもしれません。ゆっくり時間を置いて描いて毎回この勢いがでるでしょうか。まるでゾーンに入って描いたようです。

なんだか自分もその気迫にあてられて絵を描いてみたくなります。

瀧川さんいわく、円空の作品は人の創作意欲を刺激するパワーがあるみたいです。じっさい、円空に注目しはじめた人は橋本平八という近代彫刻家です。アーティストとして円空は見逃せない存在なのでしょう。

やはり、見にきた方の感想も上々なのでしょうか。

 

瀧川さん「大人の方は『面白かった』と言ってくれます。しかし、こどもは感想聞こうとして近づくと、逃げられることが多いですね。」

ピューと走っていくこどもを想像して笑ってしまいました。こどもは内心「なんじゃこの絵...!」と思ってるのかも。だから博物館の方に言いにくいのかな。いいですね。

地元で大事に受け継がれてきた

たっぷり円空の絵を見て、己も若干トランス状態になりつつ「これほどのボリュームのものが残っているのはすごいな」と素直におどろきました。

瀧川さん「大般若経がそもそも重要なお経ということもあり、地元の人に大事に受け継がれてきました。」

地元の方々のおかげで、現代の私たちは円空の絵を楽しむことができるわけです。お経自体が大事だったという事情もありますが、いっぱい残ってるのはやっぱりすごいことです。

しかし、昔の人も、私達とおなじく円空の絵にびっくりしたのではないでしょうか。「さて、読むぞ~」と紙を開くと、

「うわあ!」(立神経巻第11)

バーンとあの絵があらわれたら誰でも度肝抜かれそうです。でも、最終的にはそれを守り伝えているわけですから、昔の人の懐って深いですね。

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絵&彫刻の円空の個展

この展覧会の後半では、円空の仏像も展示されています。

「文殊菩薩坐像」(中山寺蔵)は・・・
右のようなタテに盛る髪型をイメージしているのでしょうが、独特の形になっています。

 

 

(片田経巻第351部分図)
どことなく円空の絵のもじゃもじゃヘアと似ています・・・さっき見たやつや・・・

 

エッジの効いた刻線が光る「護法神立像」(中山寺蔵)は、
(立神経巻第46部分図)
左右にいたトゲトゲ髪の十六善神みたいです。初めましてな気がしない・・・


絵と彫刻にあい通じるところがあって、比べてみるのも一興です。

他にもさまざまな彫刻があります。特に衝撃をうけたのが、

 

 

こちらの木そのままの「聖観音菩薩立像」(少林寺蔵)。

木材に顔を刻んだのみ。もはやモダンアートです。

絵も仏像も楽しめる今回の展覧会は、「まさに円空の個展」と瀧川さんは語ります。私も作品を見るうちに、円空のリズムが自分の中に流れてくるようでした。

さいごに、瀧川さんが最も思い入れのある絵の1つ、片田経巻第1の絵でお別れです(会場タペストリーより)

いろいろ見た後あらためて見ると、どう考えてもこれを最初に描いて、あとは「こんな細かくしないでいいか」ってなってますよね。

大満足の展覧会でありました。みなさんも会場で円空からパワーをおすそわけしてもらってくださ

 

会期は12月4日まで!

たくさんの写真を掲載しましたが、これはほんの一部です。もっといっぱい作品があるのでぜひとも現地で味わってください。

円空をあまり知らない人、普段は仏教美術を見に行かない人にこそおすすめしたい展覧会です。たくさんの人に行ってほしいです。

 

・・・でも、会期終了が迫っています!急いでください!

三重県総合博物館は近鉄津駅西口から徒歩2、30分です。

公式サイトはこちら、アクセスはこちら

津市にはおいしいうなぎ屋さんも多いので、足をのばす際にはうな重&肝吸いも堪能してはいかがでしょうか。

 

 

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