観光地に住む不便さを楽しむ
観光地に住む。すばらしい環境に身を置くことはある意味で夢のような話だが、利便性の面で代償を伴う。
しかし逆に考えてみると、その不自由ですら楽しめる人であれば箱根に住むのはオススメかもしれない。
いま人が減っているということは、お得な物件が増えて、ゆったり住めることだ。住みたいと思った方は、ぜひ箱根暮らしにトライして欲しい。
観光地のお店の値段は高い。しかしふだんの生活を忘れて楽しむ非日常的な場所だから、どうにか納得してお金を払う。
しかしそこに住む人にとって観光地は日常であり、生活の場である。地元民はどんなお店に行って、何を食べて生きているのか。
今回は「じゃらん人気温泉地ランキング2019」でも13年連続日本一を獲得するキング・オブ・観光地、箱根でそれを確かめてみた。
箱根湯本駅に着いた。駅前におみやげ屋がこれでもかと立ち並ぶさまは、さすが首都圏の観光地の王様だ。
まず、「観光地価格」の実態を見て回ろう。
純然たる観光地価格である。天下の箱根のプライドを感じさせる強気の値段だ。
果たしてこの箱根にお住まいの方は、どう暮らしているのか?
しかし箱根に地元民など歩いているのか……おそるおそる声をかけると、心配はご無用、道行く人の多くが実は地元の方だった。
まず結論から言うと、やはり観光客が行くお店は価格が高いのであまり行かない。箱根にある数少ない、安く買い物や食事ができるお店へ行くようだ。
何が地域を支えているか。まずはコンビニである。箱根でいわゆる“ふつうのお店”は少ないが、コンビニはそれなりに点在している。
箱根の店は午後4~5時ごろに多くが閉まってしまう。そのため基本的に24時間営業のコンビニは、とても大きな存在なのだ。
ご年配の方はコンビニと呼ばず“スーパー”とも言い、豊富な商品のラインアップで地元民の生活を大いに助けている。
こんなファミマ見たことがない。店の前が八百屋状態だ。さらに中のイートインもとても広く、レストランのようなゆったりソファまである。
中には迷子のインコを探したり、地域のマーチング体験者を募集したりの張り紙もある。箱根でコンビニは、地域の寄り合い所のようなところなのかもしれない。
なお箱根でも一大観光スポットの強羅は本当に観光客向けのお店ばかりで、強羅にお住まいの方ですらほとんど行かないそうだ。
また、箱根は病院が少ない。ご婦人によると箱根にあるのは「せいぜい歯医者ぐらい」。
御殿場や小田原まで出ないと住民たちの要求を満たすような医院はないらしい。
ちなみに「箱根病院」なる名前の施設もあるが、その所在地は“小田原市”だ。
地元民の生活が箱根だけで完結することはあまりなく、周辺都市にまとめて買い出しに行く人が多い。
無理もない、特に電化製品あたりは満足に売ってもいないのだから。
特に御殿場はアクセスがよくて駐車場も豊富、お店にも事欠かないために一番の人気買い出しタウンらしい。そのほか三島や小田原に行く人も多いそうだ。
特に強羅で道行く地元民の多くは、これから御殿場に向かう方たちであった。「箱根は不便だよ」と何度ももらしていた。
当たり前だが、箱根にも不動産店がある。掲示された物件をちょっと見ていこう。
小涌谷駅の近くで2LDK370万円という物件があった。マンションだと1,000万円ぐらいの物件が多く、戸建てだと700~2,000万円ぐらい。
さらに賃貸物件となると、5万5,000円~8万5,000円ぐらい。ワンルームなどよりも1~2LDKぐらいのゆったりした部屋が多い。
ちなみにあまり印象がなかったが、箱根で開けている街は「仙石原(ススキで有名)」だそうで、箱根町民の買い物スポットになっている。
そこにある地元民御用達店といえばまずココカラファイン。3年ほど前からでき、食品や日用品も豊富に安く取りそろえていて人気らしい。
全国に1,300店舗を持つ巨大チェーンだが、イメージカラーのピンク色ではなく、ローソン同様に茶色い看板になっている。
この仙石原にはさらに、長らく箱根町民に頼ってきた「Aコープ」がある。
ココカラファインが手薄な「生鮮食品」もバッチリカバーする。タイムセールなども実施しており、地元の方が見切り商品を買い求めるそうだ。
(別地域の宮城野だが)行きつけの店にホームセンターヤマダを挙げる人も居た。渋い外観で工具や金物や生活用品を備えている。
そして仙石原でいま評判のお店がこちら。観光地の箱根では珍しいワンコインランチが大人気だという。
お弁当をテイクアウトする人も来て、にぎわいを見せる店内。ブルーカラーの方を中心に愛されている模様だ。
徹底したセルフサービスとなっていて一見さんには敷居の高いお店だが、ガッツリおいしい定食が500円。
箱根町民には救世主のようなお店にちがいない。
ちなみに仙石原にもう一つ、「弁天」という玄人向けな外観のお店があり、ラーメンを450円で提供している。
箱根町民になったとき、なかなかいいのが公衆浴場だ。
箱根町民であれば、大人は300円、60歳以上と11歳以下なら100円の破格で乳白色の温泉に入れる。
なお町民以外は値段が上がり、600円前後となる。
今日の♨️ 「箱根仙石原いこいの家」さん(町外者¥650)所謂、町営の『老人憩いの家』3人が入れば満員の湯船は大涌谷系の濁り湯。舞上がる湯の花が美しい加温、加水、循環、濾過無しの完全源泉掛け流し!湯温は44~45℃と高め小さい湯船は源泉の鮮度、純度が高い証!
— 野良(減塩・糖質制限中) (@dasugemaine1) May 18, 2019
堪らん pic.twitter.com/3dfgqVxihR
中はこんな形
また人気観光地のため、バスは平日でも15分に1本、土日なら10分に1本通っている。20時に終バスなのは玉にきずだが。
ちょっとの不便に耐えながらも、風光明媚な憧れの地で生活を送る箱根町民。実はさらなるツラい現実にも直面している。
人がどんどん減っていて、神奈川県の人口減少率ではトップを走っているのだ。実に5年で14.9%もの減少である(2015年国勢調査調べ)。
1965年には2万3462人を数えた人口はバブル崩壊後ごろから目に見えて減っていき、さらには近年の箱根山噴火騒動なども追い打ちをかけて2019年4月1日現在の人口は1万1191人になってしまった。
一部のホテルが廃墟のようになった鬼怒川温泉など最近は温泉観光地の厳しいニュースが聞こえてくるが、それは箱根も例外ではない。
地元に長年住む方によると、バブル期ごろまでは目の前の道が渋滞することがしょっちゅうだったが、それもなくなった。周りに比べて、箱根が取り残された感まであるという。
箱根に住んでいる方の多くの仕事は観光。観光が衰えれば地元も衰える。
「箱根」というと勝ち組観光地のようなイメージがあるが、決してそうとも言い切れない姿があった。税収も減っているようで、住んでいる人にとってもなかなか大変なのだ。
歩き回って日が暮れて、箱根湯本駅前に戻ってきた。箱根のターミナル駅前ですら、もう20時台になるとコンビニと居酒屋ぐらいしかやっていない。
コンビニを愛する箱根町民。それを感じた1日だったからこそ、こんな夕食で箱根の旅をシメるのも、らしいのかもしれない。
観光地に住む。すばらしい環境に身を置くことはある意味で夢のような話だが、利便性の面で代償を伴う。
しかし逆に考えてみると、その不自由ですら楽しめる人であれば箱根に住むのはオススメかもしれない。
いま人が減っているということは、お得な物件が増えて、ゆったり住めることだ。住みたいと思った方は、ぜひ箱根暮らしにトライして欲しい。
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |