特集 2020年1月8日

函館で函をみる

函館で函をみました

旅行に行くと、どこに行って何をすればいいのかわからないことがある。

へそまがりなので、ひとがこぞって行くような観光地に行くのをためらってしまう。(とはいえ、結局行くのだけど)

観光地に行くのもいいけれど、知らない町をあてもなくうろうろして、気になったものを探して歩くのがすきだ。

鳥取県出身。東京都中央区在住。フリーライター(自称)。境界や境目がとてもきになる。尊敬する人はバッハ。(動画インタビュー)

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函館に行った

函館にきた。 

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めちゃくちゃ寒いぞー、あたりまえだけど

函館には、そうそうたる観光地がいくつもあるが、そういった観光情報は他のサイトをみていただくこととして、今回は函館の函の字について考えてみたい。

日本の市町村で、函の字がつく市町村はそんなにない。地理院地図で、函の字を含む地名や施設名などをざっと検索してみたところ、ほぼ函館周辺のみで、その他には静岡県に函南(かんなみ)町があるぐらいだった。

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函がつく地名のほとんどが北海道と東北にある

北海道には函館以外にも銭函だとか函岳といった地名があり、日本の他の地域よりも函の字を愛用している。

ちなみに、箱で検索すると、箱がつく地名は北海道にはほとんどなく、それ以外にはまんべんなく散らばっているのがわかる。

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箱が付く地名は北海道以外に多い

函館市は、そんなユニークな漢字を市名に使っていることから、函の字に対する思い入れがあふれているのではないか。
例えばこちらをみていただきたい。

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函館市のシンボルマーク、かわえぇ

か、かわいい。

どことなく顔郵便マーク(これ→〠)に似ているが、函館市のロゴマークだ。平成25年に制定されたものらしいが、あきらかに函の字がモチーフだろう。

これのおもしろいのは、表情の違う別バージョンがあることだ。

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表情が違う! ビューティフォー!

郵便ポストの横に貼ってあったポスターだが、函館市ロゴマークの表情が違うだけでなく、函館山のロープウェイのゴンドラにもなっている。漢字でもあり、顔でもあり、ゴンドラでもある。偶然にしてもよくばりすぎじゃないか。

だれかしらないけど「函の字ってロープウェイのゴンドラに似てない?」と気づいちゃった人、めちゃくちゃファインプレーである。

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よく見ると、函の字に似ている、よくやった、気づいたひと

函という漢字の意味と、ゴンドラの形状が似通っているのも震える。漢字を生み出したといわれる古代中国の王、武丁はロープウェイに乗ったことがあるのだろうか。

では、かんじんの函館山ロープウェイの函はどんなものか。

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函館山ロープウェイの函、TにXを重ねたような中身がおもしろい

顔っぽい。パソコン通信風の顔文字で書くとこうだろうか(>T<)。

全体的にすこし傾斜をつけているのはやはりゴンドラを意識しているのかもしれない。

と、思ったが、青函フェリーのパンフレットに載っていた書体がそっくりだった。

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ロープウェイよりもさらにTXみがつよい函

同じ交通機関でも、JRの電光掲示板の函は、函の中身の描写が毛筆っぽい表現もあり、ていねいでおもしろい。

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中身の描写がていねい

函館の函の字を探すのが面白くなってきた。 

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森の函

駅前の商業施設にはこんな函があった。

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木がはえた

木が生えている。

これは、去年12月にオープンした駅前の「HAKOVIVA」という商業施設のロゴマークだ。

真ん中の木はこの商業施設の広場に植わっているシンボルツリー「ヒロムスギ」という木らしいが、函の字ばかりに注目していたので、現場では木にはまったく気が付かなかった。

「HAKOVIVA」は、今風のシュッとした感じの、にぎわいを創出しがちなどこにでもあるような商業施設だったので、とくにこれといった感想はないが、函の字はいい。杉の木が花粉を噴出しているようにも見えるけれど、なかなかおもしろい表現だとおもう。

HAKOVIVAには、函館駅前横丁という、昭和時代の町並みを再現した、よくある書き割り横丁があるのだが、そこの函の字がこちら。

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カクカクしててかっこいい

カクカクしてかっこいい。真ん中の了の部分の書き方が3画だ。了は、顔でいうと鼻筋にあたるところだ。彫りが深いおっさんのようでもある。いい函だ。 

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猫の鼻っぽい函 

函館駅から歩いて5分ほどの場所にある屋台村「大門横丁」の函はこちら。

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アルファベットのYみたいな函

これは、了の部分がアルファベットのYのようになっている、ずーっとみていると、猫の鼻のように見えてこないだろうか。この書き方もおもしろい。

ただ、このデザインは、新しいものではない。

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さっきみた函によく似てる

ホテルのロビーに展示してあった函館有名人一覧という明治24年の紳士録。一画欠けているけれど、さっきの大門横丁の函によく似ている。

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函館新聞のロゴ、ホテルで撮ったので黄色い

コンビニで売っていた函館新聞という新聞の函も了が三角形になっている。

伝統的建築物のプレートに書いてあった函は、三角形の部分がひし形に変化している。

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ひし形の函

函館山の函は毛筆だった。

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いい函が撮れた

函館山の山頂は、めちゃめちゃ風が強く、胸がかきむしられるような寒さだったけど、了の横の点が集中線みたいになっており、ちょっとかっこいい函の写真が撮れてよかった。

どう考えてもふざけすぎだろ、と、感心してしまった函はこちら。

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回転寿司店の函

よくみると、太陽の塔の腹の顔みたいに見える。この函だけを出されて、なんと読むか聞かれたとしても函と答えられるかどうかちょっと自信ない。

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ワインで函

ふざけすぎといえばこんな函もあった。

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ワンイにみえる

 ワインて! ここまで来ると前衛芸術だ、キュビズムがはじまってしまう。こりゃ一本とられたわい。という気持ちになる。

たしかに、まんなかの了の部分、ワイングラスのようでもある。ワンイと読んでしまいそうになるが。

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手書きの函

手書きの函も探したのだが、これがあまりなかった。

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手書きの函

ゆいいつあったのがコンビニのボードに書いてあった函。若い女性だろうか、なんだか猫の顔っぽさがでている。

いちおう手書きだが、レタリングのものはあった。

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線にゆらぎがみえる

高校の入り口に掲げてあった看板に書いてあった函、レタリングの函だ。中の点が不揃いな感じがよい。

側溝の蓋を踏み抜いて足がズボッとハマったような形にみえるのがおもしろい。……と思ったが、伝わりにくいな。

函の字を見すぎて、どうかしてきているかもしれない。

個人的に、函の異体字「凾」がどこかで使われてないか期待しているところがあったが、ついぞ見つけることはなかった。

凾は、東京の地下鉄でいくつか使っているのを見かけたことはあるが、函の本場、函館ではあまり使われていないようだ。

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凾の使用例。右側は箱の字を使っている
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もともと箱館だった

函館は、明治時代に「函館」と表記が統一するまでは「箱館」と書かれていた。

函館市のホームページをみると、箱館と命名されたのは室町時代。宇須岸(ウスケシ)と呼ばれていた漁村に、河野政通という武将が館を設け、その館が箱のようだったので「箱館」と呼ばれるようになったという。

箱が函になった理由ははっきりしていない。こちらのサイトによると、「明治2年(1869年)9月30日が函館への改称の日」というのはわかるものの、なぜ箱を函に変えたのかの理由ははっきりしていない。

単純に画数が少なくなるからかしら? と想像してみたがどうだろう。一日になんども「箱館」を書くよりも「函館」のほうが画数も少ないし、なによりも視認性がいい。役人の気持ちを察して考えてみると、そんな気もする。

もっと函の字を使ってほしい

函館のまちなかにある函の字をいろいろとみてきた。函館のひとが、函の字をどれだけ大切に思っているのかは、なんとなく伝わってきた。

いち観光客としては、もっとどんどん函の字を使ってほしい。よろしくお願いいたします。

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