特集 2024年7月9日

業務日誌用のノートを買った

いろんな業務日誌が味わい深いということを知った。自動車運転日誌、宿日直日誌。どんな業務で、何を書くのか。各種の日誌を味わってみた。

1976年茨城県生まれ。地図好き。好きな川跡は藍染川です。(動画インタビュー)

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日本法令の「ビジネスノート」シリーズを知っていますか

近所の文房具屋で、「工事日誌」「自動車運転日誌」というノートを見かけたとき、見知らぬ業務の世界に触れた気がしてどきどきした。

日本法令という会社のビジネスノートシリーズというらしい。「自動車運転日誌」にはいったい何を書くというのか。気になったのでひととおり買ってみた。

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宿日直日誌

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書店で見かけて最初にロマンを感じたのがこの宿日直日誌だ。

なにせ宿直日誌を書いたことがないので分からないが、というかだからこそ魅力を感じるわけだが、きっとどこかの営業所に宿直をした社員とかが書くのだろう。

宿直は交代制なんだろうか。1ヶ月に1回くらいかな。宿直してる間は何をしてるんだろう。2階の奥の方に宿直室があって、電子レンジとテレビがあるのかな。コンロと流し台とかもあるけど、結局カップラーメンを食べるのかな。

そういうことが、この表紙を見ただけでぶわーっと想像されてしまうのだ。書店でしばらく感じ入った。

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表紙をめくったところには、日誌に書くべき内容がまとまっている。簡単に言うと以下のことを書くらしい。
・巡回の時間と結果
・当日の残業・早出・休日出勤者の状況
・来客および電話の状況
・連絡・引き継ぎ

なるほど、宿直した人は建物のなかを巡回して、異常がないことを確認するのか。真っ暗な建物のなかをライトを照らしながらやるあれだな。怖そう。

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実際の記入欄はこんなふうになっている。この「戸締」「引継」の表記がいい。「戸締り」「引き継ぎ」じゃなくてきっぱりと「戸締」「引継」。記入欄の品格を感じる。

実際に書いてみた。

左下の「物管部」は「物流管理部」だ。業務っぽい省略に憧れる。

想像したのは、運送会社の宿直だ。 

この日は中村さんが一人でやっている。基本的にはなにもなく、宿直室でテレビを見ていたりして過ごしている。夕飯はオリジン弁当で済ます。なるべく早くもどらないと、電話がかかってきたりするかもしれないから、ちょっと焦る。

たまに電話が来て、対応する。午前1時ごろにはもう眠くなってきて、本でも読みながら寝落ちする。5時には仮眠から起きて、日勤の人が来るのを待つ。

帰ったら何しようかなと思いながら、日誌を書く。いい。

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自動車運転日誌

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つづいて自動車運転日誌だ。これも書いたことがない。そもそも業務として運転したことがない。

タクシーの運転手さんとかが書くのかなと思ったが、そうではなく、社用車を運転する人が書くもののようだ。偉い人が乗る高級車とか、営業車とかだろうか。

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「この日誌がなければ(略)私用に使われてもわからない場合もあります」というところがいい。実際にそういうことがあるんだろうなと想像できる。

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記入欄はこんなふうになっている。まず点検事項が多い。エンジンオイルやタイヤなど14点。タイヤといったってただ見るだけではだめで、空気圧計とかで調べるんだろうか。それを14項目。

これは、運転手として雇われている人はちゃんとやるだろうけど、たとえばぼくが営業職で運転もするとかだったら最初は真面目にやるけどだんだんろくに調べずマルだけつけそう。

実際に書いてみた。

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社用車に乗ったことがある唯一の経験は、町の不動産屋さんに物件の下見で客として乗せてもらったことだ。なので、不動産の営業として物件の現地まで案内する、という場合を想像して書いてみた。

営業所は東京の田無という街だ。新宿まで一本の私鉄沿線。この日案内したのは大学生くらいの男の子とお母さんで、男の子は4月から一人暮らし。大学に近いわけではないけれど、家賃が安いところを探している。

車内ではお母さんが、息子さんの大学の話や、男の子でも一階は不安だという話などをしている。真のお客さんは基本黙っていて、でも聞かれたらちゃんと答える。自分は運転しながら、スーパーやコンビニの脇を通るたびに手短かに伝える。ここのコンビニはお弁当が充実してるんですよ。

そういう一切のこまごましたことをほとんど書かずに、日誌には「特記事項なし」と書く。やばい。なんか泣きそう。タイヤの空気圧ちゃんと測ろう。

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工事日誌

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工事日誌である。これも未知のロマンというしかない。ヘルメットをした現場責任者が書くんだろうか。現場内の二階建てくらいのプレハブで書くのだ。どんな内容を書くのか。

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「小工事業者の店舗などで」というところで、ちょっとほっとした。そうか工事といってもでかいオフィスビル建設とかだけじゃなくて、部屋にエアコンを増設するとかもあるのか。前者は想像を絶するところがあるけど、小工事なら想像できそうだ。

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これまでにない「風力」「警報」という欄に身が引き締まる。そうだよな、工事現場って風がふいたり雨がふったりするなかで、安全に作業しないといけないんだよなと思う。

書いてみた。

新たに小さなお店を始めるにあたっての改装工事を想像してみた。もともと小さな倉庫だったところに、若い人がカフェを始める。水まわりは新たに作る必要があるので費用がかさむ。ふつうの建物の1階で、天井は高くない。内装は白くして清潔感を出す。

お金はあまりないので自分たちでできることはやりたい、と店主が言っていて、今日は床の塗装工事を店主たちがしている。自分は工務店の人間で、それを仕切っている。

当サイトのライターの岡田悠さんが、本職のほうで本屋さんを作る仕事をしていた(透明書店)。改装工事の多くの部分は岡田さんが務める会社の社員たちで進めたそうだ。実際にやると大変だろうけど、夢があっていいなと思う。

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電話連絡簿

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電話連絡簿である。そんなものがあるのかということに驚いた。が、そりゃあるだろうと思い直した。

いまだと、そもそも電話をあまり受けない。メールが多い。電話が来ても社内の連絡用ツールに書きこんで終わりだったりする。しかし以前はそれしかなかったわけだから、伝え忘れたりしたら大変なことだ。

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「現代社会の情報伝達の大切さはいまさら言うまでもありませんが」というところがいい。ふだん忘れているが、自分は現代社会に生きてるんだよなと思う。

「スムーズな業務が約束されます」もいい。上質な暮らしのようだが、するのは業務である。

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書く内容はこうだ。いつ、誰から誰へ、どんな用件か。

さっきまでと違って、内容がありありと想像できる。どうせ大半が営業電話である。ロマンはない。知ってるから。逆にいうと、宿直日誌にグッと来ていたのは単に知らないからかもしれない。宿直を毎月やってる人なら、適当に書いて帰るだけだよと言うかもしれない。

 

事務用品を扱う会社の総務部を想定して書いてみた。社名は「トドケル」である。

どういうわけか不動産会社からの営業電話がよく来る。林社長はいらっしゃいますか?と個人名で来るが、電話番号を調べると「ダイヤ住健」である。とくに取引はない。

それから「ヒューマンアソシアナビの田中と申しますが、魚住さんはいらっしゃいますか?」と来る。魚住は確かにいるが、社名が怪しい。人材派遣だろうか。「採用担当の方はいらっしゃいますか?」と聞いてくれるところは親切である。いませんと答える。あまり邪険にするのも気が引ける。いい人のまま電話を切りたい。

「ウェルスグロリアの佐藤」からも電話が来る。個人向け投資会社である。社名が分かりにくい。もっと「マネー創研」みたいにお金っぽい名前にしてほしい。

電話連絡簿で思うのはそんなことばかりである。


味わうのは味わったがガチを見たい

勝手な想像をして思いを馳せるのは好きなので、これはこれで楽しかったのだが、やはりガチの内容をみたい。

もっと知らない言葉で、分からないことが書いてあるに違いないのだ。まあでもそれは業務の秘密だから外には出ないだろう。つらい。

宿直日誌です

ノート 9-1/宿日直日誌

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