ランダムな単語359連発
今回の検証によって合計1,580文字、359語のランダムな単語の羅列ができた。こちらにも、意味もなく見入ってしまうような魅力があった。
人がリラックスしている様子は良い。あれは環境映像として作業のお供になると思う。
前に住んでいた家は、作業机から向かいのビルの屋上が見えた。たまに、タバコを吸いに休憩にくる人がいて、横目にその人が見えるとなんとなく気持ちが落ち着いた。
その人個人に興味があるわけでは無い。すごく遠いので辛うじてスーツを着てタバコを吸っているらしいことが分かる程度なのだけど、自分とは全然関係の無いところでリラックスしている人がいるというのはなんか安心するものなのだ。
そう言えばファミレスの遠くの席でパフェ食べてる人とか、広い公園でキャンプのイス出して本読んでる人とかがいるとなんか良いなと思う。自分は自分のことを丁寧にやろうという気持ちになる。
これって環境映像というやつなのではないか。焚き火とか、川の流れとか、なんか安心する映像がひたすら流れるあれだ。人は環境映像になれるのか。
人は環境映像になれるのか。なれるとしたらどんな映像がいいのか。これを試してみたい。
6本、映像を用意したのでそれを流しながら簡単な作業をする。作業の捗り方や心地良く作業できたかを確かめる。
作業は、ちょっとよそ見してもできて進捗を比較しやすいという理由で、タイピングの練習をすることにした。
こちらのサイトで出てきたランダムな単語をひたすらテキストエディタに打ち込んでいく。たくさん打てていたら集中できたということにします。
まず試した映像はこちらである。自分。
こんなのが10分くらい。
冒頭のタバコの例えからちょっと距離があるような感じがするが、リラックスしている映像が撮りやすいのは自分だし、リラックスしやすいのは家だしでこうなった。
スマホでラジオを流しながら横になってゲームをしている。一番好きな過ごし方である。映り込むものが無いようにしたくていつもと違う場所でゴロゴロしているのだけど、横になってみたら何の問題もなかった。
これがやはり良かった。大学のサークルの部室にいるみたいだった。何となく集まった人たちが勉強したりゲームしたり何もしなかったりしている、あの気だるくて心地良い雰囲気がある。
そういう雰囲気って作業がすごく捗るわけじゃないんだけど、やってて嫌じゃないし、一人でいる時にはない独特の雰囲気があるので気分転換に良い。自分がゴロゴロしている様子は、そういう空気感を演出するための環境映像になれると思った。
自分がゴロゴロしている映像
環境映像に使って見た時のムード
大学のサークルの部室のような気だるくて生暖かくて心地良い雰囲気
タイピングできた量
351文字、77語
次はカップラーメンにお湯を注ぎ、待ち、食べる映像
こちらも部室の雰囲気はあったのだが、地味に展開があって気が散った。一口目だからずっとフーフーしてるなとか、湯気のせいかすごい顔しかめて食べるなとかそういうのが気になるのだ。あと単純に俺も食べてえなと思う。
カップラーメンだからすぐ作ってすぐ食べ終わってしまったが、もっと時間をかけて食べるものだったら展開もゆっくりになって環境映像に向いていたかもしれない。
自分がカップラーメンを作って食べる映像
環境映像に使って見た時のムード
友達が隣で食事してる雰囲気。ちょっと気になる
タイピングできた量
345文字、80語
見返したら打てた文字の数はゴロゴロしている映像の時とそんなに変わらなかった。気は散るが作業の妨げになるほどではないということか。
次は、向かいのビルでタバコ吸ってる雰囲気にできるだけ近づけたくて川の映像を用意した。
ぼんやりして、たまに小袋に入ったチョコを食べている。
これが意外と気が散った。家と違って外は情報が多いのだ。ちょっと風の音に変化があったり後ろを船が通るだけで気持ちが持っていかれる。「何か起こるかも」と思ってしまうのだ。起こらないのは知っているのだけど。
窓の外の風景を見てもこんなにそわそわしないのに、わざわざ撮った動画を流すと少しのことに意味を見出そうとしてしまう。意味なんてないのに。
自分が川でぼんやりする映像
環境映像に使って見た時のムード
意外と気が散る。
タイピングできた量
315文字、73語
今度はあらかじめ用意した映像ではない。
パソコンを見つめる自分の顔が、別の窓からその自分を見つめているのである。4個目だしと思ってひねってみたらホラーになってしまった。変なところひねられて企画が骨折している。
当然集中できない。誰も見張ってないのに見張られてる気分だけがある。初めて不愉快な気持ちになった。
リアルタイムの自分の映像
環境映像に使って見た時のムード
すごく嫌だった。10分間座っていただけで偉い。寿命が縮んだかもしれない
タイピングできた量
241文字、52語
ここで、自分以外の人の映像も作業のお供にしてみたくなった。そこで企画ができるきっかけの雑談をしていた関係で、ライターのパリッコさん、スズキナオさんにご自身がリラックスしている様子を10分くらい撮って送って欲しいとお願いした。
お二人は「酒の穴」という名義でユニットの活動もしていて、このサイトの紹介ページにはこうある。
そう、冒頭で説明したような『視界の隅で心地良さそうにしているとなんか安心する』まさにその方々なのだ。せっかく送ってもらった動画を真剣に見ず、ランダムな単語を打ち込んで申し訳ないとは思いながら、環境映像に使わせてもらうのをとても楽しみにしていた。
ではまずパリッコさんから再生しよう。
『仕事が終わり、買い物や保育園のお迎え前の時間をおさめてみました』というコメントともに送ってもらった。
今まで抑え込んでいた「動画をちゃんと見たい」という気持ちに歯止めが効かなくなり、手を止めて見入ってしまった。
作業のお供の映像や音楽が主従を逆転させて、お供の方のコンテンツに釘付けになってしまうことがある。それが今起きた。
『一人でリラックスしている時のパリッコさん』というすごく貴重なシーンを見せてもらったというのもあるし、現場の雰囲気が画面を通して伝わってきてこちらも一緒にくつろいでしまった。
何回か繰り返し見てやっと環境映像として機能するのかもしれない。
スズキナオさんの動画も同じく見入ってしまって全然タイピングできなかった。
『本当にただの10分』というコメントとともに送ってもらった。スズキナオさんがスマホを見たり本を読んだりしている。
時間がパン生地みたいな素材になって薄く均一に伸ばされるような感覚があった。止まってはないのだけど、すごくゆっくりと、角が溶けてなだらかになっていく。当然作業は捗らない。
知ってる人の映像は見入ってしまうので環境映像にならないことが分かった。
パリッコさん、スズキナオさんの映像
環境映像に使って見た時のムード
見入ってしまうので環境映像という感じではない
タイピングできた量
パリッコさん 151文字、37語 / スズキナオさん 177文字、40語
以上、6つの映像でタイピングできた文字数をグラフにした。
一番捗ったのが自分が床にゴロゴロしている映像である。一番何もしてない映像で一番タイピングが頑張れた。
分かる気がする。一緒に勉強しようと友達の家に来て、相手が捗っていない(でもリラックスしている、そしてちょっかいは出してこない)時ほど自分は捗る気がする。飛び抜けてダラけた人がいるとこっちのダラける気持ちも削がれるというか。
そして自分の映像なら特別気になることもない。人を環境映像にするなら自分がゴロゴロしているところがいい。
今回の検証によって合計1,580文字、359語のランダムな単語の羅列ができた。こちらにも、意味もなく見入ってしまうような魅力があった。
▽デイリーポータルZトップへ | ||
▲デイリーポータルZトップへ | バックナンバーいちらんへ |