デジタルリマスター 2024年2月2日

河口から源流へ、四万十川を遡る (デジタルリマスター)

日本最後の清流と名高い、四万十川。それは高知県西部、津野町の山中に端を発し、中土佐町、四万十町、四万十市を通って太平洋へと注ぎ出る。その距離、およそ196km。

地図帳を開き、ぐねぐねと蛇行を繰り返す四万十川を指でなぞりながら、私は思った。この四万十川を河口から源流まで、遡ってみる事はできないだろうか。

少し調べてみた所、これが何とかなりそうだ。というワケで、7月の3連休を利用して、四万十川に行ってきた。

2010年8月に掲載された記事を、AIにより画像を拡大して加筆修正のうえ再掲載しました。

1981年神奈川生まれ。テケテケな文化財ライター。古いモノを漁るべく、各地を奔走中。常になんとかなるさと思いながら生きてるが、実際なんとかなってしまっているのがタチ悪い。2011年には30歳の節目として歩き遍路をやりました。2012年には31歳の節目としてサンティアゴ巡礼をやりました。(動画インタビュー)

前の記事:訪れてみて驚いた、四国の棚田と段畑(デジタルリマスター)

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河口から中江崎までは自転車で

これまで何度か言ってきた事を繰り返すようで恐縮だが、私は自動車免許を持っていない。故に今回もまた、公共交通機関、および己の身体のみを駆使して行かねばならない。

幸い、河口付近の土佐中村までは土佐くろしお鉄道中村線が通じており、さらに中村ではレンタサイクルを借りることができる。しかもこのレンタサイクル、四万十川を上ったその先、JR予土線の中津川駅で返却する事ができる、乗り捨て可能なレンタサイクルなのだ。これを利用しない手は無い。

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やってきました中村駅
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レンタサイクルは観光案内所にあった

駅から少し離れた所にある観光案内所でレンタサイクルを借り、まずは河口に向けて出発する。ちなみに、レンタサイクルの料金は1000円。車種はギア付きのマウンテンバイク、しかも乗り捨て可能な事を考えると、良心的な価格設定だと思う。

中村駅から河口の下田港までは約8km。自転車だと楽勝……と思いきや、日差しは強く、風も強く、なかなか難儀な道程であった(一番上の写真で、既に疲れが見えているのはその為だ)。……いやはや、何とも先が思いやられる。

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四万十川が太平洋に出る、その地点よりスタート
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四万十川に現存する唯一の渡し舟「下田の渡し」
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悠々と進む観光舟
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横に目をやると、漁師のおっちゃんが舟で魚を獲っていた

四万十川の河口付近は広々としており、水もゆったり流れている。さすがというか、なんというか、悠然とした光景だ。川沿いにサイクリングロードが設けられていて、道も良い。

しばらく自転車を走らせ、再び駅のある中村に戻り、その市街地を抜ける。大正時代に架けられたという巨大な赤いトラスの鉄橋を超えると、景色は一変。いきなり周囲に起伏が現れ、濃厚な山の緑に取り囲まれた。

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この四万十大橋を過ぎると、市街地は終了
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たちまちこのような、野性味溢れる光景へと変化する

高知県は平地が少なく、海から少し内陸に行くとすぐ山に当たるとは話に聞いていたが、この四万十川も例外では無いようだ。中村の市街地を抜けるとあっという間にそこは山。自然の領域に足を踏み込んだ感じがする。

しかし、それでも道の傾斜は緩やかで、自転車を漕ぐのはそれほど苦にならない。むしろ、この暑い中にただ立っているだけ方がキツイだろう。自転車を走らせている間は、とりあえず風の恩恵を受ける事ができる。

さて、河口から走り初めて1時間半程経った頃、路肩に「佐田沈下橋」という標識が見えた。おぉ、早くも現れたのか、四万十川名物、沈下橋。

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昭和47年に架けられた、全長291.6mの「佐田沈下橋」
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まだ川幅が広く、対岸はずっと向こうだ
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橋脚の光景も……う~ん、ダイナミック

沈下橋とは、雨などによって河川が増水した際、川の水にさらされても流されないように設計された橋の事だ。具体的な特徴としては、流水の抵抗にならないよう欄干が無く、橋桁も薄く、流木などの直撃を防ぐ為に、縁は丸みを帯びている。

四万十川は沈下橋が特に多く架かる事で知られており、またその存在は文化財としても捉えられ、その下流から上流まで、支流を含めると全部で47の沈下橋が県によって保護の指定を受けているという。四万十川を代表する風景と言えば、やはり沈下橋。そう言っても過言では無いだろう。

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こちらは少し上流にある「三里沈下橋」
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その上を軽トラが走る光景は、何ともいえないノスタルジー
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三里沈下橋に似ている「高瀬沈下橋」
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橋脚の数がやたら多い「勝間沈下橋」
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珍しくアーチが入ってる「口屋内沈下橋」

レトロな語感と風情が郷愁を呼ぶこれら沈下橋であるが、四万十川に架かるものは総じて戦後、特に昭和30年代、40年代に架けられたものが多数を占める。

それ以前はどのように川を往来していたかというと、もっぱら渡し舟が主であった。沈下橋が架けられるようになると、四万十川全域にあった渡し舟は次々と廃止され、現在は唯一、河口の下田集落に残るのみだ。

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橋の下は休むにちょうど良い。というか、日向では休めない

ちなみに、既に私の目が死んでいるのは、ここに来るまで体力を使い果たしてしまった為だ。最初は楽だと思った緩やかな上り坂も、ずっと続けばさすがに辛くなる。おまけに今回、何をトチ狂ったかジーパンで来てしまったため、汗を吸って重くなり、肌に擦れ、とても痛い。肌も日焼けで真っ赤だ。

そのような中、四万十川の風景だけが心の慰めであった。

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これぞ四万十川というべき光景
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川沿いの農村景観が四万十川の価値を高めていると思う

河口から自転車走らせ4時間余り、かつては木材の集散地として賑わった口屋内(くちやない)集落を越えた先の岩間地区にも、沈下橋が存在した。しかもそこは、これまでの沈下橋では見られなかった程の数の人々で賑わっている。

ライフジャケットを着込んでいるその姿を見るに、おそらくはカヌーを楽しむ人たちなのだろう。その中の数人が、ちょっと面白そうなことをやっていたので紹介したい。

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これまたなかなか良い風情の「岩間沈下橋」
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沈下橋に女の子が二人、立っていたかと思うと……
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I can fly. 橋の上から飛び降りた

水面までの高さは3m程だろうか。下からでは大したこと無い高さのように見えるが、橋の上からだと結構高い。女の子たちは、飛べるだの飛べないだのきゃぁきゃぁ言いながら、周囲の声援に押される形で四万十川に飛び込んだ。

これが、なかなか気持ち良さそうであった。汗にまみれた私にとって、何とも羨ましい光景である。もし水着を持ってきていれば、私も迷わず飛び込んだだろう。あぁ、もったいない。

さて、今日の目的地である江川崎駅まであと一息、気合を入れ直し、いざ進もうと思ったのだが、その時、私の身に突然予期せぬ事態が起きた。

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あぁ、心洗われる景色だなぁ、などと思っていたら
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右足がつった

急に右足が引きつり、もの凄い痛みが走る。つった足を直そうと、つま先をピンと立てて筋肉を伸ばそうとするのだが、力を入れたそのつま先もまた、同じようにつってしまった。右足全体のつり連鎖。慌てて自転車を路肩に寄せ、しばらくうずくまる。普段使わない足の筋肉を酷使しすぎた為だろうか。

最後の最後でどうなるかと思ったが、その後に足は何とか回復。ペースを落としてのんびり流し、河口からおよそ5時間強で、無事江川崎駅にたどり着いた。その距離は約50km。四万十川の1/4を遡ったことになる。

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いやぁ、疲れた、がんばった

この日の行程はここ江川駅で終わり。今日はこの町で一泊して、朝に始発の列車で出発する。明日はJR予土線を利用して、四万十川の上流を目指すのだ。

⏩ 次ページに続きます

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