境界だけで終わらない
境界を見ていくと、その土地の歴史や社会情勢、地形、言葉の話にもなってきて、境界の話だけにとどまらない。
話の枝葉がどんどん広がるのは、境界趣味の醍醐味といえるかもしれない。
県境をこえた移動がどうのこうのと、世間がかまびすしい。
「県境マニア」をなのりはじめてけっこう経つけれど、県境がこんな形で世間に注目されることになろうとは、露ほどもおもわなかった。
そんないまこそ、ほかの境界にも目を向けたいとおもう。そう「区境」だ。
県境は、県と県の境目であるから、その変化がわかりやすい場所がけっこうある。そういう場所にふざけて行った経緯は過去なんども記事にしてきた。
ところが、市区町村の境目は、じゃっかん地味なうえ、変化もとぼしいことがおおいので、あまり注目してこなかった。
とはいえ、探せば意外と「境目だ!」と分かる場所はあるもので、そんな境目……とくに今回は東京の区境のなかから面白そうなところを探し出し、街とかに詳しいライターの三土さんと、編集部の古賀さんに、わたくし(西村)がプレゼンするかたちで紹介したい。
西村:ということで、ひと目見て「あ、ここが境目だ!」とわかるような区境を紹介しますので、見てください。
古賀:よろしくお願いいたします。
三土:はい、見ます。
西村:まず最初なんですが、葛飾区鎌倉と江戸川区北小岩の区境です。
三土:鎌倉ってところがあるんですね、それがすでに面白いですね。
西村:左側の葛飾区鎌倉の方は、道路や道が不規則に入り組んでるんですが、右側の江戸川区北小岩の方は、区画整理されてるんです。(大人の事情で引用できないのですが、マピオンで見たほうがよりいっそう、境目感がわかるのでぜひごらんください。→マピオンの葛飾区鎌倉と江戸川区北小岩井の境目)
古賀:あー、これねー、これはすごい!
三土:はいはい、なるほどー。
西村:ここ、行って見てみました。
西村:京成小岩駅がこちらですが、そこから北にむかって商店街があるんです。
西村:その商店街をずーっと北にですね、向かってあるくと、十字路があるんですが。ちょうどこのあたりが区境になるんです。
西村:区境を境に、商店街の道幅が半分ぐらいになっちゃうんですよ。
古賀:はいはい、これ、すごいのは、葛飾区側に入ると道幅が狭くなるのに、江戸川区に抜けるとまた道幅がもとに戻るんですよね。
西村:そうなんですよね。
(大人の事情で引用できないのですが、マピオンで見たほうがよりいっそう、境目感がわかるのでぜひごらんください。→マピオンの葛飾区鎌倉と江戸川区北小岩井の境目)
西村:商店街は一本の道でつながってますが、葛飾区側は「千代田通り商店街」で、江戸川区側は「京成小岩商栄会」と別らしいです。で、千代田通り商店街の北側の区境はこちら。
西村:県境や市町村の境目で、道路の舗装が終わっているとか、道の色が変わっているという例は結構あるんですけど、ここは、区境で道幅がガクッと狭くなっているのがちょっとめずらしいんですね。
古賀:区によって、こんなに違いがあるんですね。
西村:別のところの区境もみてください。
西村:空から見ると、住宅街の中にななめの線が走ってるように見えると思いますが、これも、区境です。
三土:なるほど、なんだか、上には川みたいな道も見えますね。
西村:さすが、三土さんするどい。川みたいに見えますよね。この道、気になったので写真撮ってきました。
古賀:おーすごい。
西村:この道、もともと川だった道ぽくないですか。
三土:川っぽいですね。車止めもありますし。
西村:昔の地図を確認してみました。水色のところが水路っぽいところで、赤いところが現在の区境につながる境界線です。当時は村境だったのかな。(※)
※当時は、鎌倉新田側は南葛飾郡奥戸村、北小岩側は南葛飾郡小岩村
西村:この水路がそのまま境界線になったというわけではないみたいなんですよね。
三土:ほう。
西村:ちょっと引いてみると、鎌倉新田と書いてあるあたり「新田」となってますけど、室町時代にはすでに開発された古い集落なんですね。で、その周りは一面の田んぼというのがわかります。
西村:で、1927年頃の地図を見てみると……。
古賀:あ、このころにはすでに……。
西村:鎌倉新田の古い集落の外側の田んぼが四角くなるんです。
古賀:なるほど、先にゴチャッとしたほうができちゃって、あとで田んぼがビシッとできたと。
西村:そうです、鎌倉新田の方は、昔からの集落があったので、そのままなんですが、北小岩の方は、田んぼが区画整理されて、その区画がそのまま現在も宅地の区画になっている……と。どうでしょう三土さん。
三土:なるほど、おもしろいですね。この時点(1927年)でも鎌倉の方は、田んぼが不整形なままなんですよね。北小岩の方は田んぼが整形されて、これたぶん耕地整理だと思うんですけど。
西村:耕地整理。
三土:つまり、小さな不整形な田んぼを集めて、大きな四角にすることで、効率をあげるやりかたですね。それを、北小岩の方は行政というか、地域の方針で耕地整理したんだけど、鎌倉の方は、住んでいる人の合意が得られなかったか、あるいは他の理由で、そのままになっている。ということですね。
西村:ちなみに、区画整理された北小岩の町並みはこんなですけど。
西村:鎌倉の方は道が入り組んでて、道の先にとつぜん巨木があったり、神社があったりして、農村の集落って感じがして、たいへんおもしろいところです。
西村:次はこちら。
三土:アリオ亀有ですね。
西村:はい、アリオ亀有のすぐ横の道路です。
西村:これです。これ、すごくないですか?
三土:あ、ホントだ!
古賀:すごい、わざわざ歩道に線が入ってる?
西村:そうなんです、区境が歩道に書いてある。さらにすごいのが、足立区側と葛飾区側でガードパイプのデザインが違う。
古賀:これ、よく気づきましたね……ストリートビューで?
西村:これ、昔、田村さんがガードパイプを鑑賞する記事を書いていて、そこに載ってたんですよ。
古賀:ほー。
西村:アリオ亀有の区境はまだあって、小さい公園の脇の歩道にも区境がかいてあるんです。
三土:しかし、なんでわざわざ歩道にライン引いてるんだろう。
西村:ふしぎですよね。こういった境界線は境界マニアへのご褒美でしかないんですけども。
三土:この手前の目玉みたいなガードパイプ、これは国道沿いに多いんですけどね。
西村:あ、そうなんですね。
三土:基本、国道沿いにあると思ってたんですけど、たまにこういう関係ないところにもあるんですよね。
西村:ガードパイプが区境でかわっているところ、他にないかちょっと探したんですが、なかなかないんですよ。というのが、銀杏のガードパイプ(都道の汎用タイプ)が並んでいるところが多くて。まだ探し方が足りてないというのもそうなんですが。ただ、現時点で、区境がこんなに鑑賞できるのはアリオ亀有の区境ぐらいしかないのはたしかです。
西村:ところでガードパイプって言ってますけど、名称はガードパイプでいいんですかねこれ。
三土:名称はメーカーごとに呼び方が違っていて、横断防止柵というところもあれば、乱横断防止柵、転落防止柵とかいろいろですね。いちおう「ガードパイプと横断防止柵は目的が違うもの」という見解もあるみたいですけど、横断防止柵を指してガードパイプと言っているメーカーもあり、一定してないですね。
西村:なるほど。とりあえず、ガードパイプと言いますが……さきほどのガードパイプから、区境の境界線をずーっと伸ばしていくと、細い街路に入るんです。
三土:やばい! これ、川じゃないの?
西村:そうです、川ですね。で、ちょっと地図をみてください。
西村:水色の部分、細長く連なってますけれど、ここが今の区境になっているところですね。いわゆる古隅田川というやつですね。
三土:あぁそうか。
西村:さて次です。ここは、銀座名物とぼくが勝手に呼んでいる区境です。
西村:ここ、銀座インズという、高速道路の高架下にあるショッピングモールなんですが、そこですね。パイロンをよく見てください。
古賀:ん?
三土:あ、ほんとだ!
西村:まんなかを境にして、中央区と千代田区の駐輪禁止のパイロンがならんでいるのわかります?
三土:なるほど! よく見つけましたね。
西村:つまり、真ん中に区境のラインがあって、両側に中央区と千代田区のパイロンがおいてある……ということなんですが、じつは、ここ区境未定地なんですよ。
古賀:なんと!
西村:だから、両方の区が「だいたいこの辺」みたいな感じで、パイロンおいてるんだと思うんですが。なぜ区境未定地なのか。昔の地図をみてください。
西村:地図の水色の部分、いま銀座インズがある場所ですが、もとは水路(お堀)だったんですね。つまり水面だった。
古賀:お堀を埋め立てたんですか。
西村:そうです、お堀を埋め立てて、高速道路……KK線っていうんですけど、それを作って、その高架下にショッピングモールを作ったんです。(1959年)
西村:一般的に川の境界線って真ん中に引かれがちなんですけど、事前に境界の取り決めをせずに、埋め立ててショッピングモールができちゃったので、千代田区も中央区もどっちも領有権を主張しはじめたんですね、で、結局そのまま境界未定地として残ってしまった。
三土:はー、なるほど。
古賀:銀座インズの住所はどうなってるんですか?
西村:銀座インズの住所自体は、住所がちゃんと定まってないところによく使う「先」というのをつかって表してますね「銀座西二丁目2の先」みたいに。
三土:よくあるやつだ。
西村:さらにいうと、この「銀座西二丁目」という住所もじつはいま存在していなくて、「銀座◯丁目」というふうに住居表示されたときに消えた住所なんですよね。それをいまだに使っている。
古賀:へー。
西村:最後です。これは古賀さんが発見して教えてくれた場所なんですが。
古賀:あ、あそこですね。
西村:行ってきました。
西村:都立大学駅の駅を降りた所に遊歩道があるんですが。この遊歩道をずんずんずんずん進んで行きます。
三土:あ、あやしい! あやしいじゃないですかこれ。
西村:ずんずんずんずん進んでいきます。
西村:さらにすすむと、ここ。
西村:ここですね、椅子と机のあるあたりに区境がある。
古賀:おなじ緑道なんですが、雰囲気がガラッとかわるんですよ。
三土:なるほど。これ、緑道沿いじゃないんだ。
西村:そうなんです、直交するかたちで区境が入っててめずらしいんです。
西村:この、椅子と机が、もうちょっと横にずれていれば、世田谷区と目黒区で別れて座れるようになって、板門店ごっこして遊べますね。遊ばなくてもいいですけど。
西村:で、古い地図をみてみます。
西村:三土さんは知ってると思いますが、この緑道はむかし呑川という川だったんですね。のみかわ?
古賀:(地元のひとは)「のみがわ」って言いますね。
西村:あ、濁るんですね。のみがわ。
三土:普通は、川を境にすると思うんですけど、ここは違うんですね。
西村:そうなんです。区境が川と並行じゃないんですね。地図の上の方にある「化坂」、ばけさか? かな? そこから見ると、呑川のあるところは谷になっている。で、よく見てみると、たぶんなんですけど、区境は古い道に沿ってひかれているのかな? とおもいました。
三土:なるほど。
古賀:「化坂」は「ばけざか」と読むようです。
西村:いい名前ですね、深沢じゃなくて化坂にすればいいのに。
古賀:「化坂ハイツ」とかあってほしい!
三土:化坂は、おそらく、たぬきがよく出て化かされるとか、そういう言い伝えがあるのかな?
西村:木が生い茂ってて、薄暗い感じの坂ですかね。幽霊坂とか暗闇坂みたいな。
三土:(インターネットを調べる)あーっ、そうか、ハケか。ハケ坂。
西村:あぁ、ハケか!
古賀:ハケ? とは?
西村:ハケ、崖のことですね。ハケの坂で化坂か〜。
三土:でも、まあ諸説あるみたいですね。
三土:でも、区境がこんなにわかりやすいところがこんなにあるとは思わなかったです。よく見つけましたね。
西村:たぶん、まだまだ他にもあるはずなので、ぜひ、わかりやすい区境見つかったら教えて下さい。よろしくお願いいたします。
境界を見ていくと、その土地の歴史や社会情勢、地形、言葉の話にもなってきて、境界の話だけにとどまらない。
話の枝葉がどんどん広がるのは、境界趣味の醍醐味といえるかもしれない。
ここはどこでしょう? リアルタイムイベント開催!
たまーに思い出したようにやっている「ここはどこでしょう?」がリアルタイムイベントとして帰ってきます!
「難しい」「必ず1問は間違える」といった声にこたえ、You Tube生配信で、解き方のヒントを配信しながら出題します。
めざせ全員正解。よろしくお願いいたします!
日時 2020年6月25日 21時スタート
You Tube生配信 URL
https://youtu.be/Une51EgMtFE
【出演】
西村まさゆき(「ここはどこでしょう」担当)、三土たつお(街とかに詳しいデイリーポータルZライター)、林雄司(デイリーポータルZ)
司会・古賀及子(デイリーポータルZ)
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