特集 2024年5月1日

2000人に「がんばって!」を言うと自分が何を言ってるのかわからなくなります

山の中で2000人に「がんばって!」と声がけしてきました

山の中を走る「トレイルランニング」という競技が好きで、自分も選手としてレースに参加している。

今回は大きな大会のボランティアスタッフとして誘導係をさせてもらったのだけれど、2000人くらいに声をかけていたら頭の中で「がんばって」という言葉が崩壊して面白い感覚におちいりました。

行く先々で「うちの会社にはいないタイプだよね」と言われるが、本人はそんなこともないと思っている。愛知県出身。むかない安藤。(動画インタビュー)

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> 個人サイト むかない安藤 Twitter

集合は夜中

トレイルランニングは山の中を走る競技なので、選手はもちろんのこと、運営側も、とにかく準備がたいへんなことになる。100メートル走ならば陸上競技場を借りたらいいのだけれど、会場が広範囲の山なのでぜんぶ借りることはできないのだ。

なので選手が走る地域に暮らす人の迷惑にならないよう、交通整理をしたり選手を誘導したりする仕事が生じる。今回はスタッフとしてこの役をやらせてもらった。

今回のレースは全長160キロ、夜の12時がスタートだったので(この時点でよくわかんねえなと思われるかもしれないですが、そういう競技なんです)スタッフも夜中に集合した。もちろん山にである。

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集合場所にたどり着くこと自体、すでにアドベンチャー感あります
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ここはスタートから50キロくらいの補給地点。最初の選手がやってくるのは朝方だけど、準備は夜から始まっている
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というわけでみんな寝てません

スタート前夜の22時に集合、3時に会場入りして次の昼過ぎまでの勤務である。この競技をやっているとなにかと時間の感覚がおかしくなる。

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集合して最初の仕事はバナナをもぐ、でした。数百本もいだ
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バナナをもぎ終えた時点で4時前
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補給のコーラの数たるや。走る大会というとスポーツドリンクを想像すると思うが、現場で喜ばれるのはコーラなのだ。てっとり早くカロリーとカフェインが摂れて美味しいから。結局この量でも足りずに途中で補充したらしいです
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現場に到着

僕は今回、わかりにくい山道で選手が道に迷わないよう誘導する係に配属された。夜明け近くから選手がやってきそうな場所なので、それまでに現地に到着しておく必要がある。

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到着!
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迷いそうなポイントは山の中に点在しているので、分岐のある地点にそれぞれがバラけて待機します

さっきまで真っ暗な音のない世界だったのに、明るくなってくると周囲に鳥の声が溢れてきて、こんなに大量の生き物に囲まれていたんだと気づく。それと同時に自分の世界が足元からぶわーっと無限に広がっていく。

これは走っている選手たちも同じで、夜中に山の中で感じていた不安が、きっと今ごろは生き物たちの気配とともに霧散していることだろう。今回は僕もその生き物たち側なのだと思うと興奮する。

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日が昇ってきました
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こういう場所で誘導します

僕が配置されたのは山の入口にある四差路で、そのうちの一方向からやってきた選手を直角に曲がらせるのが役目だった。

そこを曲がらずに直進してしまうと別の山に入ってしまい、とんでもないことになるから責任重大である。

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やるぞ!

日が昇って最初の選手が到着してから6時間くらい、ほぼ選手が途切れることはなかった。

その間、みんなが道を間違えないように誘導するのだけれど、単に「こちらでーす」だけでは味気ないので、走ってきた選手に合わせた声がけを行う。

「コースこちらです!がんばってください!」
「コースこちらです!ナイスランです、その調子!」
「コースこちらです!まだまだいけますよ、ファイトです!」
「コース!ディスウェイ!ゴーフォーイット!」

バリバリがんばって走っている選手には「ナイスラン!」でいいのだけれど、へとへとになって歩いている選手に「ナイスラン!」は違うと思うので「ファイトです!」に変えたりする。日本語を話さない選手もいるので伝わるように言葉をかける。

僕も経験あるのだけれど、選手たちは疲れているので、ちょっとした声がけが次の走りにものすごく影響するのだ。

たとえば疲れきって落ち込んでる時に「がんばれ!」と言われると(がんばった結果がこれなんだよ!!!)と反論したくなる。

これは僕だけじゃないと思うんだけれど、疲労がある値を超えると、応援されたうれしみがすさんだ心に取り込まれてしまうのだ。だから言葉選びは慎重にしないといけない。

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鈴を持っていくと選手に気づかれやすくて便利
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誘導灯の降りすぎで翌日筋肉痛でした
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言葉が崩れはじめる

この日の参加選手は2000人以上。僕はコース序盤の(といっても50キロ付近だけど)誘導だったので、参加者のほとんどに声をかけたことになる。

やってみて初めてわかったのだけれど、「コースこちらです」「がんばってください」を2000回くらい繰り返していると、ゲシュタルト崩壊というやつだろうか、「コース」「こちら」「デス?」みたいに、言葉が頭の中でほぐれてしまい、自分が何を言っているのかわからなくなってくるのだ。

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あれ、おれいま何て言った?ってなる

まるで豆腐の中に手を突っ込んで見えない言葉を拾いあげているような感覚である。「がん?バッテ?ください??」「コース?こちら?デス??」

喉が枯れる前に言葉がバラバラになるとは思わなかったが、これはこれで新鮮な感覚だった。もちろんスタッフ業務を終えたらすぐに元に戻ったのだけれど。

同じ言葉を繰り返していたことに加えて、徹夜で動き回ったことで眠かったし疲れていたことも影響したのかもしれない。そういえばトレイルランニングのレースでは疲れてくると幻覚を見たりもする。

・山(緊張した環境)で
・長時間
・寝ずに
・同じことを繰り返す

このあたりの要素が重なると脳が誤作動を起こすのだろう。気軽にはおすすめできないけど体感するとおもしろいので、興味のある人はボランティアスタッフに参加してみてください。 


こっちにおいでよ!

選手として参加していた友だちも無事通過し(みんな超かっこよかった!)、後片付けをして会場をあとにした。

選手には選手の、運営には運営の、視点があり、コツがあり、楽しさがあると思う。言葉が崩壊したのは今回が初めての発見だった。

僕は次は選手として夏のレースに出るので今から楽しみです。

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