そんな珍しくないのかも
正直言ってクジャクが羽を広げたところを見たことがある人なんてそうそういないと思っていた。
50年に一度咲く花とか空から降るオタマジャクシとか、そういう類のものだと思っていた。あることは事実、だけど誰でも見られるようなものではないのだ、と。
同意を求めようと編集部の面々に聞いてみて驚いた。
他にも古賀さんは横浜の野毛山動物園で真っ白なクジャクが羽を広げたのを見た、と言っていた。
その場にいた4人で、見たことないの僕だけだったのだ。うそだろ。石川さんは「クジャクにとっては背伸びみたいなものなんじゃないですかね」なんて言ってる。違うよ、そんな軽々しいものじゃないよ、見たことないけど。
くやしい。こうなったら僕も見ないと気がすまない。動物園へ急いだ。
動物園はもっぱらパンダ
上野の動物園はいまパンダブームに沸いている。僕が行ったのは平日の午後だったのだけれど、それでも10分以上待ちとのことだった。
対して隣にあるクジャクの檻はどうだ、誰もいないじゃないか。
クジャクいた
パンダ館のすぐ横にあるクジャク檻。通りかかる人はいてもなかなか足を止めてまで見ないゾーンである。不憫だ。明日からクジャクを見に来た人が行列を作るような記事にしたいと思う。
しかしこの檻にいるクジャクはそもそも羽が短いのでたぶんメスなんじゃないかと思われる(きれいな羽を広げるのはオスだけです)。
飼育係の人に聞くと、オスのクジャクは別の場所でテナガザルと同居しているのだとか。どんな扱いだ。
クジャクが同居しているというテナガザルの部屋へとやってきた。
部屋の前にいた中学生の修学旅行らしき集団は、ひとしきりテナガザルの写真だけを撮って帰って行った。クジャクなんて見えていないのだ。
ちょっと待て、正直パンダと比べるのは酷だというのは分かる、そこに異論はない。だけど猿とクジャクならクジャクだろうが。
徐々に腹が立ってきた。
と、その時だった。
僕の思いが伝わったのか、オスのクジャクが一羽、その見事な羽を持ち上げ始めたのだ。
クジャクが羽を広げるのはメスへのアピールだと聞いている。それ以外ではめったに広げないので見るのが難しいのだ、と。
でもこのクジャク、あっち向いて金網に向かって羽広げてるのだ。そもそもメスは今パンダの横の檻でしょぼくれているから遠いし。
羽を広げたクジャクは裏から見るとクマデみたいだった。クジャクは何度か首を前後にゆすったあと、息をはき出すようにおもむろに羽を閉じた。手前でテナガザルが「カーッ!」と吠えた。
なんだったんだろう
後ろ向きだったとはいえ、念願だったクジャクが羽を広げたところをこんなにもすぐに見ることができてしまった。
なのになんだろうこの消化不良な感じ。もっとちゃんと見たい。目の前で、せめてこっちを向いて広げてほしかった。
僕のわがままを聞いてくれるクジャクはいないだろうか。