特集 2021年1月5日

風呂屋の「ゆ」を愛でる

風呂屋の「ゆ」を集めました。

風呂屋(銭湯ともいう)に行ったときのひそかな楽しみが、店先に掲げられた看板を観賞することである。

看板には湯とかYuとか♨とか書かれていることもあるが、私としては断然、平仮名で大きく「ゆ」と書かれているやつが好きだ。

赤いペンキで書かれた「ゆ」という字は大きな金魚みたいで、風呂屋という水場にふさわしいと思う。

そんな「ゆ」を集めてみた。

変わった生き物や珍妙な風習など、気がついたら絶えてなくなってしまっていそうなものたちを愛す。アルコールより糖分が好き。

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京都の町は銭湯が多い

時代の流れで廃業する個人経営の銭湯は多い。

しかし、私の住んでいる京都市では2020年がまさに終わろうとしている今日でも、ありがたいことにそこそこの数の銭湯が営業を続けている。(勘のいいひとは気づいたでしょうが、この記事は2020年の大晦日に書かれています)

(載ってない銭湯もあるので、実際はさらに多いです。)

銭湯の数だけ「ゆ」がある。全部はとても無理だけれど、京都市内で見かけた「ゆ」を紹介していこうと思う。

よく見る「ゆ」

いろいろな「ゆ」がある。みんなちがってみんないい。と言いたいところだが、一番頻繁に出くわすのはこのロゴである。

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これと同じタイプの「ゆ」が一番多かった(紫野温泉(京都市北区))

たぶん入浴する親と子をかたどったものだと思う。

とくに比較的新しめの看板ではよくこの「ゆ」を見かけた。「ゆ」界隈のいらすとや的存在である。

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銭湯らしからぬカラフルな水玉模様が楽しい。(京極湯(京都市上京区))

市販のロゴを使っているからと言って、手を抜いているわけではない。「ゆ」の字に手がかからない分、浮いたリソースを他に回すことができるのだ。

たとえばこの京極湯の看板。カラフルな水玉模様がファンシーでおしゃれだ。

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重厚な看板!(大徳寺温泉(京都市北区))

こちらは逆に渋い見た目。

そして

・丸と四角を組み合わせた複雑な形

・それに沿うように加工された鉄骨製の柱

・看板の周りにガードの棒がついている

・「ゆ」と「大徳寺温泉」でそれぞれ別々に装着された照明

なんかが、すごく芸が細かい。

これなんかも、字体が汎用品な分むしろ頑張って個性を出そうとしたように見える。

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ひび割れている。

変わった色の塗り方してる!と思って近づいてみたら、塗料が劣化してひび割れていたのだった。

風呂屋だけに、長湯をし過ぎた指の皮膚のよう。日光や雨風にさらされっぱなしだから仕方がないのだろう。看板というのは大変な仕事なのだな。

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これも少しヒビが。やはり赤い塗料は傷みやすい。

 

創作意欲旺盛な「ゆ」

量産型「ゆ」の対極ともいえるのが、その銭湯だけのために作られた一点物の「ゆ」だ。中でも立体造形されたものがすごい。

板に文字が書かれた看板と違って背景がない分「ゆ」の字だけで勝負するぜ!という気迫のようなものを感じるのだ。

まずはこれを見てもらいたい。

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切り抜きで作られた「ゆ」(花の湯(京都市中京区))

「ゆ」の形にわざわざ切り抜いてある。

「ゆ」の字の縦棒のてっぺんの、軽く曲がったところが照明に引っ掛かるように配置されているのも、遊び心があっていい。勢いよくドアを閉めたら、振動で「ゆ」が落ちてくるんじゃないかしら?みたいなワクワク感が生まれるのだ。まるで木を蹴ってカブトやクワガタを落とす昆虫採集みたいだ。

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あ、看板と同じ字体の「ゆ」が!

学校で習う「ゆ」の書き方と若干ちがう、個性的な字体なのですぐにわかった。

(おそらく)店主が書いた「ゆ」の字をわざわざ切り抜いて看板にしたのだな。

いったん広告です

ネオンサインでできた「ゆ」

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日が落ちると光る。かっこいい!(鴨川湯(京都市左京区))

夜の闇をバックに、ネオンで赤く光る「ゆ」。

まるで『ブレードランナー』の世界に紛れ込んだようだ。俺たちが夢見たどんよりと曇った近未来がここにあった!

遠くからでも目立つから、集客効果も高そうだ。

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反対側から見ると「ゆ」ではなくなってしまう。銭湯看板の極北という感じがする。
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細すぎて昼間の光ってないときに見るとわかりにくいけど。

 

大きな「ゆ」

遠くからでもよく見えるといえば、こんな大きな「ゆ」もあった。

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1m × 1mほどの大きさ。世界で一番大きな「ゆ」かもしれない(旭湯(京都市右京区))

さすがにこの大きさだと看板として掲げることは難しかったらしく、お店の外壁にペイントされている。

「ネタに困ったらとりあえず物を大きくしろ」というのはデイリーポータルZでもよく採用される手法だが、それにしてもこの「ゆ」は手書きにも関わらずきれいに拡大されていて感心した。普通の文字や絵を大きく書くだけのことがいかに難しいかは、ナスカの地上絵の書き方にいまだに定説がないことを見ても明らかだ。

文化があつまる「ゆ」

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文化教室と「ゆ」(桜湯(京都市上京区))

こちらは文化教室の看板の上に君臨しているタイプの「ゆ」。

そういえば、坂東流や新生派(が何の流派なのかは浅学ゆえ知らないのだけれど)とは歴史も格式も段違いなデイリーポータルZでも銭湯に広告を出していたんだった。

 

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若干話がそれるけど、京都には銭湯そのものが文化財になってるとこもあります。(船岡温泉(京都市北区))

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京都市内で今まで見た中では大宮温泉の「ゆ」が一番好き

昔のままのスタイルで営業を続けている銭湯には、白地に赤で「ゆ」と書いて、その他最小限の情報だけを載せた看板を掲げているところも少なくない。

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これが一番かっこいいと思った。(大宮温泉(京都市上京区))

シンプルイズベスト。無駄を削ぎ落した正統派のデザイン。落語の言い回しだと「本寸法だねえ」というやつだ。かっこよすぎて軽くナショナリズムすら感じる。

それで、この「ゆ」出づる国スタイルの看板を掲げる銭湯はたくさんあるのだけれど、この看板でとくにポイントが高いと思ったところを挙げさせていただくと

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切れそうで切れないのがハラハラしていい。
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丸い=かわいい。

あたりだろう。

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これもいい線いってるんだけどちょっと惜しい。(栄湯(京都市中京区))
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これも、達筆だけど惜しい。(柊湯(京都市北区))

神は細部に宿る。

単純な形の平仮名一つとっても、これだけ多様なデザインがあるんだなと感動した。


番外編

いろいろな「ゆ」を紹介したが、「ゆ」の字はなくても銭湯の外観というのは千差万別で面白いものだ。

最後に、「ゆ」がないために本編で取り上げ辛かったものたちを紹介したい。

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一番大きく掲げられた「サウナ」の三文字。風呂よりもサウナが売りなのだろうか?(大黒湯(京都市東山区))
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銭湯巡りで出会った、今のところ唯一の吊り看板がこれ。(旭湯(京都市東山区))

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またしてもネオンが!住宅地の中にある銭湯がどうしてそこまで自己顕示を?と問いたくなるような派手さだ。(御三軒湯(京都市上京区))
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銭湯にもインバウンドの流れが来てる。

 

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