モザイクですがいやらしいわけではありません
「XXX県のとある工場って書けばいいですか」
「いやあ、場所がわかるとウチだってわかるからなあ」
「北関東だったらいいですか」
「それならいいですよ」
というやりとりがあったので今回のレポートはモザイクが多いです。フォトショップ大活躍。
*
3月某日、北関東のとある駅を降りた。とあるタクシーに乗ってとある工場に到着。
工場の外にはかすかにコーヒーのにおいがしていた。期待に胸がふくらむ。
応接に通されるとそこにはすでに数種類の缶コーヒーが用意されていた。そして、並べているのが工場長だった。すいません、なんの宣伝にもならないのにお手数かけます。
告知スペースを設けて商品を紹介させていただきたいぐらい。僕は御社の缶コーヒーしかもう飲みませんよ。
でも写真はモザイクです。
うまい!
用意された缶コーヒーは以下の5種類。
(1) 今日つくったもの(熱処理する前)
(2) 今日つくったもの(熱処理した後)
(3) 3週間前のもの
(4) 1ヶ月前のもの
(5) 賞味期限を過ぎたもの
賞味期限を過ぎたものまで……。では(1)をいただく、
おいしい!おいしいよ。ぜんぜん違う。
口に近づけただけでコーヒーの香りがする。軽い。えぐみがまったくない。小さなコーヒーが無重力状態でくるくる楽しくまわっているみたいな。そんな味だ。説明しても分からないだろうが、絵に描くとこうだ。
工場長「でもそれは出荷できないんです。」
ーーーえ、なんででしょうか?
「熱処理をしていないからです。缶コーヒーは常温で1年持たせるために熱処理しないと出荷できないです。」
「作って1~2時間ですね。この味は。」
切ない。美人薄命。普通の人は飲めないのだ。でもすっごいうまいよ(自慢)。
できたてはおいしいよ
(2) もおいしい。香りはさすがに弱めだが無重力が0.3G になったぐらいだ。軽やかでえぐみがない。缶コーヒーって甘さが嫌になるときがあるけど、コーヒーと甘さがまじりあってキャラメルみたいに幸せな甘さ。
工場長:「でもこれも出荷できないんです。」
ーーー ええ?なんでですか?
「缶コーヒーは1週間目に抜き取り検査があるんです。この状態のものを出すと、品質管理の面で問題がおきてしまいます。」
缶コーヒーは一定の味のものが求められているのだ。
すっかりなごんで
2週間たったもの以降はいつもの缶コーヒーの味になっていた。できたての華やかさはないが、おちついた味。
ここからコーヒーについていろいろ教えてもらった。
缶コーヒーまめ知識
・食品の最大の敵は酸化。それを防ぐために各社競い合っている。
工場長:「酸化を防ぐ方法を発明したらノーベル賞ものだよ。」
・缶コーヒーは手間がかかる。8時間から16時間でラインを掃除しないといけない。
工場長:「楽なのは日本茶だねえ。3~4日動かしっぱなしでいいから」
・ビール、牛乳などあるが、できたでていちばん味が違うのはコーヒーだ。
工場長:「できて1週間でフレーバーが飛んじゃうから。それ以降はあんまり味は変わらないね」
・2本目からおいしく感じる缶コーヒーもある。
工場長「とりあえず2本飲んでほしい。」
・出来たてを飲みたいからって工場の近くで買ってもだめ。
工場長「問屋を通すのでどう売られるかはわからない」
・工場長は1日6~7本缶コーヒーを飲む。
工場長「同じ銘柄を1週間ぐらい続けてのむね。不思議なことに。」
会社にて
缶コーヒーを1ケースもらったので同僚に飲み比べてもらった。以下のように意見が分かれた。
できたてがおいしい |
できたてじゃなくてもいい |
2名 |
2名 |
・できたては味がまろやかだ
・麦チョコみたいでおいしい
・いつもの味のほうがいいかも
・いつもの味じゃないので不思議だ
・新しいのは、家で飲むコーヒーに味が似てる
・舌のまんなからへんでわかる |
ふだん、このブランドの缶コーヒーを飲んでいる人は、できたてよりもいつもの味を好んでいる。工場長の言うとおり、ファンは安定した味を求めているのだ。
まとめ
できたての缶コーヒーの味は違った。だが、缶コーヒーではできたてのおいしさとよりも安定した味が求められていたのだ。
できたて=おいしい=うれしい、とは別の評価軸があることに気づかされた取材だった。
これに味をしめてこんどはコンビーフのできたてを食べてみたい。
2020年5月追記
17年前の記事の再掲です。17年たってもあのできたて缶コーヒーのまろやかな甘さは覚えています。美味しかった~。
モザイクかけてまったく自社の宣伝にもなってないのに取材を受けてくれた工場長に感謝!
缶の色と最後の写真に写り込んでいるレモン果汁の瓶が盛大なヒントになっていますが、久しぶりにあの甘い缶コーヒーを飲んでみたくなりました。