つりばんど選手の改造箱「いたずらなキューピッド」
当初予定していた風船が尽き、箱もグニャグニャになっていたつりばんど選手。「大丈夫ですか?」と聞いたら「まだまだ第2、第3の矢がある」と不敵な笑みを浮かべていたが…。
「第2、第3の矢」というのが比喩ではなく、言葉通りだったとは。それにしても、緑色の物体は既に「箱」と認識できないほどにグニャグニャ。
構えた時の「飛びそう!」という期待感から、「駄目だこりゃ」という絶望感への落差が激しすぎる。実際、1m9cmという信じられない記録を叩き出してしまった。
(2投目、どうするんだろう?)と思っていたら…
上手くいかなかったらぶん投げる。この競技の肝が見えてきた。
石井選手の改造箱「まずは己の姿勢と向き合え」
前回大会同様、素箱の記録が思うように伸びず「何で飛ばないんだよ!」と苛立っていた私。なんとしても優勝するため、改造箱は前回20m越えを記録した構造を再び採用。そこにプロペラを追加した。
しかし、今振り返ると他の選手のような面白味に欠けている。「トルー選手に勝つためには、少しでも距離を伸ばさねば」。私は焦って自分を見失い始めていた。
安藤選手の改造箱「ウインドバックだけは避ける!」
安藤選手は試投の時から、取り憑かれたように何度も「ウインドバックを絶対に克服する」と呟いていた。ウインドバックとは投げた箱が空気抵抗により戻ってきてしまう現象だ。
これがウインドバックだ
その結果たどり着いた改造箱がこれだ。
中に差し込んだ木の棒と所々に巻いた針金で、ペラ箱の強度を上げる。鋭く尖らせた先端と4枚の尾翼で安定した飛行姿勢を目指す。
「ミサイル型」のシンプル構造は改造の際、箱に触れる回数が少ないというメリットもあるため、明らかに他の選手より箱が原形をとどめている。
ウインドバックを避け1mmでも飛距離を無駄にしない、という強い意思。ミサイル型という実用的な選択。投げるフォームを下投げと上投げ、それぞれ試す貪欲さ。1人だけ裸足で元ちとせスタイルを貫くワイルドさ。(この人は具体的な獲物を想定して、それを確実に仕留めようとしてるな)という怖さを感じた。
藤原選手の改造箱「つちのこ?巨大トング?」
初参加ながら、1投目にK点越えを記録した藤原選手。改造箱はどんな作戦に出たのか?
なるほど。投げるのではなく、床を滑らせて距離を稼ごうという作戦か。
しかし、安藤選手とは対照的に改造の手数が多すぎたせいで、投げる前から箱はグニャグニャ。なんかツチノコっていうか、新種のヘビみたいになってしまった。
2投目は床を滑らせる作戦も忘れ、巨大なトングを放り投げる人になってしまった。
問われる私の人間性
実は先ほど藤原選手の改造箱を見た後、私は住さんに耳打ちしていた。
「滑るシートに手の脂を付けて、少しでも滑らないようにしましたよ。ヒッヒッヒ」
「石井さん!あなたが発案者にもかかわらず記録が伸びないのは、技術の問題じゃない。何が何でも勝ちたいという欲望、手の脂をつけるような姑息な手段。競技と向かい合う姿勢や心の問題だよ。トルー選手を見習いなさい!」
そうだった…。実はトルー選手の素箱の記録は11m75cmとなっているが、本当は12m超えの大記録を出していた。しかし、足が僅かながら投箱線よりはみ出ていたことを自己申告して、投げなおしていたのだ。
勝ちにこだわり過ぎてスポーツマンシップを失っていた私ならきっと、しらばっくれたに違いない。
絶対王者トルー選手の強さ。それは「ただ蛍光灯を素直に投げるだけ」という純粋な心に…