「これでいいのかよ」
4月の末に選挙があった。投票をすると紙風船がもらえる。
選挙のたびに紙風船をもらい、子どもと遊び、そのうち破れてしまいお別れする。僕の紙風船との付き合いはこの繰り返しだった。
「これでいいのかよ」と思った。僕はそう思った。
「紙風船はどう思う?」と尋ねたが、部屋の隅で静かに転がったまま答えない。
「浮きたいよな、やっぱり」答えは分かっていた。分かっていたのに行動に移さなかったのは僕の方だ。
紙風船が浮いたらきれいだろうな
色々な種類の風船があるが、花形はふわふわ浮かんでいるゴム風船やフィルム風船だと思う。
紙風船があんな風に浮かんでいたらきれいだろうな。
しかしそのままヘリウムガスを入れても隙間から漏れてしまうだろう。紙風船の中にヘリウムガスを入れた風船を仕込むことにした。
不安だ。嫌な予感がする。
しかし他に浮かす方法を思いつかないので「とりあえず」という気持ちでヘリウムガスを用意した。
ヘリウムガスって高価なのだ。失敗できないぞ、と思った。
一発勝負であることがはっきりして、不安の中身も明瞭になってきた。
小さい風船が浮かんでるのってあまり見たことがない。まとまった量のガスがないと浮かないと思うのだ。
少なくとも選挙でもらう紙風船の体積では浮かないと思う。試せないので分からないけど。
「For you」
では紙風船も大きければいい。調べると直径26センチ、14号というサイズの紙風船を売っているお店を見つけた(選挙でもらったのは1号で直径10センチ)。
電話で在庫を問い合わせて買いに走った。
サイズ比較したいならクミンじゃなくて小さい紙風船でよかった。当時の自分がよく分からない。
なぜ6号があるのかも分からない。
大きな紙風船を見ていたらうまくいくような気がしてきた。このためにわざわざ用意した、というところが心強い。浮くために特別に来てくれた14号の紙風船。
あ、いいな! これはいいぞ。一発勝負のヘリウムを入れる。
浮く素振りもなく地面に転がっている。「そうか、そりゃそうだよな」と呟いた。現実には説得力がある。
ダメと分かったが他にやることがないのでヘリウムを入れ続ける。
そして、中からフィルム風船が浮かび出てきた。
「For you」じゃないんだよ。
なんてファンシーなFailure
紙風船を破って「For you」が出てきた。何を「For you」かというと、それはもちろん「Failure(失敗)」だろう。なんてファンシーなFailure。
さあ、ここからである。立て直さなければいけない。一回限りのヘリウムガスは使ってしまった。ここからどうしたらいい。