ちゃんと時間を使うべき
数年前、夏祭りでもらったか買ったかしたのだと思う。子どもに渡す時に「これ絡まったらほどけないから気をつけて」と言った覚えはある。
子どもがそんな忠告を聞くのは初めの数分だけである。その夏のうちに絡まって遊べなくなってしまった。ほどこうとしたのだが、うまくいく気配がなくて諦めた。むしろもっと絡んだかもしれない。
それからというもの、思い出しては触ってみていたが全くほどけない。隙間時間でフラストレーションをためるだけの数年間だった。
覚悟を決めよう。ちゃんと時間と気力を使ってほどくのだ。
トラブル
事前にインターネットで検索してみて分かったことがある。まず『ビヨビヨするやつ』の名前は『スリンキー』や『レインボースプリング』などというらしい。今回はスリンキーと呼ぼう。フレンドリーな響きだ。
そしてほどき方を解説する動画がいくつか見つかった。まず手探りでやってみて、ダメだったら助けてもらおう。
家はダメだ。別のことしちゃうから。
スリンキーをほどくことしかできない空間を用意して集中力を上げたい。自習室に来る受験生と同じ考え方である。
今日はできるまで帰らないぞ。
絡まったスリンキーに別のおもちゃが絡まった。
最初のスリンキーの写真を撮った翌日、家でちょっと大掛かりな掃除をしたのだ。細々した子どものおもちゃがたくさん出てきて、明確に保管する場所が決まらず『保留』の袋の中に放り込んだ。その中にもともとスリンキーがあり、放り込んだおもちゃのうちの1つと絡まってしまった。絡まってしまったようです。
出かける準備をしている時に気が付いて、慌ててほどこうとしたら余計に絡まってしまってしょうがないのでそのまま持ってきた。
『スリンキーをほどく』という企画にはギリギリ一般性があると思ったのだが『スリンキーと別のおもちゃの絡まりをほどく』となると途端に生活感が出て「知らんがな」と言いたくなる。
ほどけない
全然ほどけない
紐とバネが絡んでいるし、そのバネ自体も絡んでいる。どうしたらいいのか全く分からない。
スリンキーをごちゃごちゃいじりながらTHE BLUE HEARTSの『人にやさしく』を歌っていた。「気が狂いそう」と節をつけて言いたかったので。
聞こえてほしい あなたにも ガンバレ!
頑張るとかいう問題じゃないかも。いじればいじるほど絡まっているように思えてきた。
決断
始めて40分。紐のおもちゃに付いている顔が心底憎たらしく思えてきたころ、
ずっと頭の隅にあったことを実行に移した。
紐を切っちゃおう。
もちろん「ほどく」という企画をやっている以上、おもちゃ自体に手を入れないのは大前提である。
でもプロローグで今日が終わっちゃったら困る。
スリンキーがほどけなかったら動画を見る、という保険は用意したが、スリンキーと紐がほどけない時は誰も助けてくれないのだ。
スリンキーと紐のおもちゃが分かれた。ズルをしたのにこの爽快感。川に向かって走り出したくなった。