たまに行くぐらいがちょうどよい
今回ファミレスモーニングを楽しめたのは、それが非日常だからだろう。
日常のルーチンに組み込まれた瞬間、あのふわふわした宙ぶらりんの心地よい時間はなくなってしまう。
すぐにでも行きたいけれど、すこし我慢して、また来月くらいに行こうかな。
朝、朝食を食べる。
当たり前のことである。
しかし平日出勤前に、ファミレスのモーニングを食べたことはなかった。
ひとの少ない平日朝のファミレス…想像以上に優雅な時間を過ごせるんじゃないかと思い、1週間で5つのファミレスモーニングを巡ってみた。
それは平日朝だけにあらわれる、街角の別天地であった。
私の住んでいる東京都調布市周辺では、平日モーニングを実施しているチェーンは5つあった。
そこで実際に1週間、月〜金まで出勤前にファミレスモーニングを巡った。
どれも素晴らしいひとときだったのだが、まずは何を食べたかを紹介したい。
どれもグランドメニューに比べて割安で満足度も高いのだが、それ以上に特別なのは、この平日朝という時間帯である。
家族連れのいない静かな店内。
外を歩くちびっ子たちは学校へ吸い込まれてゆく。
朝からハンバーグを食べられるのは、自由と責任をもつ大人だけなのだ。
なんと贅沢なことか。
手軽なモーニングといえばドトールなどのカフェチェーンや牛丼屋だろう。
これらはたしかにファミレスよりリーズナブルだ。
だが、ファミレスの良さはその席の広さ。
そして広さに対して人がいないこと。
特に、びっくりドンキーのような駅からやや遠い郊外型のお店ほどその傾向は強まる。
駅前にあるドトールや松屋が朝、仕事に行く人たちの出入りでせわしないのに対し、ファミレスは時間に余裕のある人しか来ないのだ。
店内にはクラシカルなピアノのBGMが流れ、それぞれが穏やかな時間を過ごしている。
現代社会におけるエアポケットがこんなところにあったとは。
朝だからこそ、そこらの高級レストランにも負けないファミレスのキャパの大きさを満喫することができる。
出勤前にファミレスに来るということがまだ脳に馴染んでいないため、このあと仕事という現実がおぼつかなくなり、ふわふわする。
ギリギリまで家にいる場合を考えると、「何時何分まで布団の中でダラダラできるけどここからは気合を入れて何分間で準備をしなきゃ…」という風に、ダラダラまで脳内スケジュール化されているものだ。
それに対し、まだまだ経験のすくないファミレスモーニングは宙ぶらりんのひととき。社会に出る前のモラトリアムのような時間なのである。
家でうだうだするよりも、ずっとリラックスした時間を過ごせるのだ。
朝たくさん食べるのって、なんだか清々しいのだ。
ほんとのところはともかく、摂取したカロリーがエネルギーとしてどんどん有効活用されていく気がする。
朝からこれだけ糖分塩分を満喫すると、うわー仕事行きたくない!やだ!となるかと思いきや、違う。
栄養が行き渡って脳がどんどん活動し始めるため、お店を出るころには気分はめちゃ前向きである。
心なしか、午前中の仕事もはかどる気がする。
あと、なんだかんだ昼夜に食べる量が減る。
朝は客が少ない&ベテランの店員さんが多いため、接客も丁寧だ。
「ようこそ、デニーズへ」というキャッチフレーズで有名なデニーズにしろ、サーブされた後に「何か他にご要望はございませんか?」と問いかけてくれるびっくりドンキーにしろ、数百円の接客とは思えないホスピタリティを感じることができる。
一方、店員さんに気兼ねしなくてすむのがガスト。
入店し「お好きなお席にどうぞ」のあとは、タブレットで注文→猫型ロボットがくる→セルフレジで会計という22世紀然とした対応だ。
これはこれで大変よい。
私の職種はいわゆる対人援助職なので、仕事外でまったく人と関わらない時間というのも大切なのである。疲れちゃうから。
一般的なスープバー・ドリンクバーも、カフェのモーニングを思うとお代わり自由ということが急に贅沢に思えてくる。
とくに、カフェラテお代わり自由というカフェはなかなかないはずだ。
朝、2杯目のカフェラテを飲むという余裕。
ファミレスだからこその贅沢だ。
ということで大満足のファミレスモーニングだったが、ひとつだけ後悔した場所がある。
ロイヤルホストだ。
最寄りのロイヤルホストは8時オープン。自宅と職場からの距離の関係でここにいられるのは正味30分。
いいお値段するだけあり、全てがワンランク上なのだが…
それをたった30分で味わえるのだろうか。
濃縮還元のオレンジジュースだが、中にはスライスされたオレンジが浮かんでおり、フレッシュな香りや風味がプラスされている。
もう一度言うが、これは平日朝、出勤前の30分なのである。
走馬灯のように過ぎゆく、濃縮された時間であった。
これは、ふつうに休みの日に来るべきである。
仕事に行きたくなくなってしまった。
ギリ金曜だから耐えられたロイヤルホストであった。
今回ファミレスモーニングを楽しめたのは、それが非日常だからだろう。
日常のルーチンに組み込まれた瞬間、あのふわふわした宙ぶらりんの心地よい時間はなくなってしまう。
すぐにでも行きたいけれど、すこし我慢して、また来月くらいに行こうかな。
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