特集 2026年4月17日

常設展示は世界で2体のみ! エゾオオカミの剥製を見に行く

いよいよエゾオオカミ

北海道大学植物園は、ハルニレの巨木が立ち、林が残り、古き札幌を思い起こさせる場所だ。そもそもは開拓使によって作られた施設で、近代的植物園としては日本で最初のものとなるそうだ。

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北海道大学植物園

入り口から博物館本館に向かい歩く。博物館本館にエゾオオカミは展示されている。自分の胸が高鳴っていくのがわかる。以前から見たいと思っていたのだけれど、札幌に行くことがなく、エゾオオカミを見る機会がなかった。厳密には札幌に行ってはいたのだけれど、毎回、基本的にニホンザリガニ探しに没頭していて、エゾオオカミを見なかったのだ。

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博物館本館
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五稜星

建物には星のマークがあった。これは開拓使が使っていた「五稜星」だ。開拓使の時代に建てられた建物には五稜星がよくあしらわれている。サッポロビールの星のマークも五稜星。開拓使が設立した札幌麦酒醸造所がサッポロビールの前身だからだ。

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剥製がたくさん並んでいます!

博物館本館は古い時代の匂いをたくさん吸い込んでいた。時間が止まっているようにも感じられた。ヒグマ、ナキウサギ、エゾジカなどの剥製が、木枠にはめられた薄いガラスの向こうに展示されている。北海道の大地を歩いていた動物たちだ。

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缶詰の展示もありました!

深く呼吸をして古い空気を肺いっぱいに入れて、エゾオオカミの剥製の前に行く。二体のエゾオオカミがこちらを見て牙を剥いていた。

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エゾオオカミです!

立っているエゾオオカミがオスで1879年に札幌白石で捕獲されたもの。先の池田食品の前で捕獲されたものだ。頭を体より下げてこちらを睨んでいる。威嚇しているように見える。ただ昼寝しているところを村民に火縄銃で撃たれたはずだ。きっと威嚇する暇もなかっただろうとは思う。

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池田食品の前で捕獲されたもの

手前で伏せてこちらを睨みつけているのは1881年に札幌豊平で捕獲されたメスのエゾオオカミ。その横には「1887(明治20)年ごろまでに絶滅したエゾオオカミの剥製は、この博物館に残されているもののみである」と書かれた紙が置いてある。

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札幌豊平で捕獲されたメス

ニホンオオカミと比べるとエゾオオカミはやはり大きく感じる。毛色も異なる。オスの方は白く、メスの方は茶色ではあるが、灰色が入っているように感じられる。少し面長にも感じるが、それは剥製を作る時の技術の問題かもしれない。

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カッコいい!

北海道の名付け親である松浦武四郎が書いた『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌』を読むと、松浦は1858年に北海道江別市で、2、3頭のオオカミが鳴いているのを聞いている。その鳴き声はクマの鳴き声よりもなんとなく悲しく聞こえたと記している。

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木枠に薄いガラスが似合っている感じがする

もちろん普通の犬にも見える。『北方動物記』を読むと、エゾオオカミの駆除で報奨金をもらう時はオオカミの四肢を持っていかなければならなかったけれど、アイヌ犬もそれに混ざっており、見分けがつかなかったとある。犬なのだろう。

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足だけじゃわからないね!

エゾオオカミ絶滅の原因は報奨金制度による駆除、またニホンオオカミでもあったようにジステンバーや狂犬病による伝染病の感染、エゾジカの生息数の減少と、毒殺による大量死ということになる。エゾジカの減少は大雪という気象問題もあるけれど、そもそも1873年からの1881年の間に約40万枚のシカ皮を輸出したそうなので、人的要因でもシカは減っていた。

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エゾオオカミの頭骨

『新冠百話』には「私たちの生活を脅かす動物を一方的に有害として駆除するのは自然界から見ると不合理と思われます。(中略)これからは共存の道を考え、自然保護の立場を考えていくことが大切です」とある。その通りだとエゾオオカミの剥製を見ながら思った。

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ずっと見ていた

固有種が好き

私は固有種が好きだ。その地域にしかいない生き物が好きで、ニホンザリガニを探したり、今回のようにオオカミを見に行ったりしている。ちなみにエゾオオカミの剥製は現在は4体なのだけれど、もっと作っていた記録がある。どこに行ってしまったのだろうか。今となってはわからないだろうけれど。

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北海道大学植物園で買ったエゾオオカミのクリアファイル

参考文献
・「絶滅した日本のオオカミ―その歴史と生態学」ブレット・ウォーカー,浜健二,浜健二 北海道大学出版会 2009
・「ニホンオオカミの最後 狼酒・狼狩り・狼祭りの発見」遠藤公男 山と溪谷社 2018
・「レッドデータブック2014 1 哺乳類」環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進 ぎょうせい 2014
・「松浦武四郎の十勝内陸探査記」加藤公夫 北海道出版企画センター 2018
・「北方動物記」更科源蔵 北海道出版企画センター 1976
・「北海道の歴史 下 近代・現代編」関秀志,桑原真人,大庭幸生,高橋昭夫 北海道新聞社 2006
・「お雇い農業教師 エドウィン・ダン-ヒツジとエゾオオカミ-」田辺安一 北海道出版企画センター 2008
・「アイヌの足跡」満岡伸一 アイヌ民族博物館 1924
・「新冠百話」新冠町郷土資料館 社会教育課生涯学習グループ文化財係 新冠町教育委員会 2017
・「北方動物誌」犬飼哲夫 北苑社 1975
・「エゾオオカミ研究史の検討」梅木佳代 北海道大学大学院文学研究科研究論集 (15) 35-67 2015
・「開拓使東京仮博物場で飼育されたエゾオオカミの記録」梅木佳代 北海道民族学(20) 51-68 2024
・「イザベラ・バードの日本紀行 上(講談社学術文庫)」イザベラ・バード,時岡敬子 講談社 2008

編集部からのみどころを読む

編集部からのみどころ
前回のニホンオオカミに引き続き、エゾオオカミの話です。絶滅経緯が違うなど、続けて読むとそれぞれの事情がよくわかって興味深いです。
記事中、札幌のいろんなところをめぐりますが、遠回りのようでいて実は行く先々がエゾオオカミに関連しており、知識が深まったところでエゾオオカミと対面…!となる展開がアツいなと思いました。(石川)

ささやかなおまけ
ジンギスカンの話

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