エゾオオカミは神様だった
アイヌの人々はエゾオオカミをニホンオオカミと同様に神として崇めていた。十勝や日高地方では白いオオカミが女神と結婚して生まれた子孫がアイヌの先祖という神話もあるそうだ。またアイヌで有名な儀式「熊送り(飼育したクマの魂を神々の世界に送り返す儀礼)」は必ずしもクマではなく、エゾオオカミの地域もあった。
更科源蔵が書いた『北方動物記』には、エゾオオカミはアイヌにしてみれば、ろくに肉が取れない上に、間違うとこちらの命が危ないので、神様にしておいて、シカを獲らせて、その食べあまりをもらった方がいい的なことが記されていた。神になった経緯にマイナスな要因を感じるけれど、肉をくれるのは神様だ。私は以前知人に和牛をもらった際に、その人を神様かな、と思ったことがある。
またアイヌは狩猟により食物を得ていた。農耕も行ってはいたけれど、1924年に書かれた『アイヌの足跡』という本に「農耕業は頗(すこぶ)る幼稚なもので」と書いてある。エゾオオカミが農耕をするはずがないので、シカを狩り生きているエゾオオカミの狩猟の腕前にアイヌの人々は憧れを持ち神としたのかもしれない。
新ひだか町アイヌ民俗資料館を訪れた。エゾオオカミの頭骨は7つだけ残っているそうだ。2つが海外で、5つが国内。5つの内訳は北海道大学植物園に4つで、残る一つが「新ひだか町アイヌ民俗資料館」にある。
新ひだか町アイヌ民俗資料館の頭骨は特別なもので、アイヌの伝統的儀礼に使われたものだ。先に書いた熊送りのオオカミバージョンの儀式。国内唯一の資料である可能性が高いと書かれていた。「ホロケウカムイ」とはオオカミの神のことだ。
儀式に使われたいためか、全体的に黒くなっている。北海道大学植物園のエゾオオカミの頭骨もこの後見たのだけれど、このように黒くはなっていなかった。エゾオオカミが神として存在したことを知ることのできる頭骨だった。
エゾオオカミを捕獲
札幌の白石区に北海道大学植物園で展示されているエゾオオカミが捕獲された場所がある。豆菓子などを作っている池田食品の本社とお店のある前の道だ。1877年に昼寝をしていたエゾオオカミがここで捕獲された。
説明によれば、現在では世界でただ1頭の雄の標本となったエゾオオカミの捕獲場所。ちなみに『エゾオオカミ硏究史の検討』という論文によれば、剥製は4体でいずれも北海道大学植物園所蔵で、常設展示の2体とは別に、2体の剥製が存在し、そちらはオス・メスらしい。
もしそうなら世界でただ1頭、ということにはならないかもしれない。ちなみに展示されていない2頭の剥製は北海道産東京飼育だそうだ。『お雇い農業教師 エドウィン・ダン-ヒツジとエゾオオカミ-』を読むと、1877年、1878年などに東京にエゾオオカミを送っている。東京に送られたエゾオオカミは「東京仮博物場」で飼育されていた。
この個体が剥製になったのかもしれない。ちなみに論文にはこの2体の剥製は、1つは八田三郎(動物学者)によって「不完全」と記述され、もう1つは阿部余四男(動物学者)や斎藤弘吉(社団法人日本犬保存会初代会長)が朝鮮半島産のオオカミと同定したとある。私はその辺は詳しくないのでわからないけれど、そうらしい。だから世界でただ1頭でもいいのかもしれない。

