誘っていただいたのは、大平宿五度目の熟練者
今回、私に大平行きの声をかけて下さったのは、中山さんという奇特な方である。
中山さんは、私の記事を読んで大平宿に興味を持たれたそうで、それ以来、大平宿には仲間と共に度々訪れ、今回は五度目の訪問となるらしい(中山さんのブログ「どこかに行った」には、過去四度に渡る大平宿訪問の様子が綴られています)。
いやはや、五回目の訪問って。素晴らしいほどの大平宿フリークである。大平宿へご一緒するにあたり、これほど心強い方もそうはいまい。

今回、集合場所に指定されたのは飯田駅。ここで他のメンバーたちと合流し、複数の車に分乗して、約20km西の山中にある大平宿を目指す、という段取りである。
ちなみに、今回ご一緒させていただくメンバーは、中山さんが大学時代に在籍していたサークル「美術部探検班」のOBを中心とする方々で、参加するのは全部で15人程だという。15人!かつて一人で行った時には想像できなかった大所帯だ。
程なくしてメンバーが集合した。まずは駅前のスーパーで、食材やらなんやらをそろえる事になったのだが、それにしても、皆さん行動が早い。スーパーに行くと言ったその次には、もう移動を始めている。いやぁ、慣れたもんですな。

旅行先でスーパーに入る度に思うが、地方のスーパーのラインナップというのは面白いものだ。普段見なれないものが普通に売られていたりして、なかなか心躍るものがある。特に飯田は山に囲まれたその土地柄、やはり山の幸が豊富なようだ。


さて、そうして買い物を終えたわけだが、しかし、さすがは15人分の食料ということもあって、その量は相当なものとなった。
「こんな大荷物で、大平宿まで大丈夫?」というセリフが一瞬脳裏を掠めたが、それはすぐさま頭の中から消え去った。今回はそんなことを心配する必要は無いのだ。なぜなら、人類が発明した偉大なる文明の利器、自動車があるのだから。
以前のように、リュックサックから長ネギをはみ出させて折り畳み自転車を漕ぐなんて事を、今回はしなくても良いのだ。

あっという間に大平
食料をトランクに詰め車に乗り込むと、車はすぐさま大平宿に向かって走り出した。あっという間に駅前から飛び出し、あっという間に市街地を抜け、あっという間に山間部へ。
あまりにスルスルと大平宿へ近づく車の凄さ。自転車を押しながら約四時間、山道を登ったあの苦労はどこへやら。





飯田を出発して30分強、車はいとも簡単に大平宿へ到着した。う~ん、早い。車はおろか、免許すら持っていない私にとって、一人では逆立ちしてもできない芸当である。
あまりに簡単に着きすぎて、本当にこれで良いのだろうかという、意味不明な自責の念を感じてしまう程だ。大平宿に行くのにこんなに楽をして、バチでも当たってしまうんじゃないか、などと思い始める始末である。






いやぁ、やっぱり古民家は良いですな。今の建物には無い、風情というか、色気がある。
前回泊まった所も、今回泊まる所も、間取りは板張りの囲炉裏部屋に、畳部屋が二部屋と結構広い。なので一人だけだと空間的にかなり寒々しい感じだが、さすがにこれだけの人数だと、むしろ狭いくらいで非常に活気がある。
畳は踏むとへこんだり、一部反り上がってしまっていたりと、多少傷んでいる感じはするものの、囲炉裏の板張りはしっかり磨かれていて、一朝一夕じゃ出せないほどのツヤがあるし、土間もしっかり掃除されていて清潔感がある。良い感じだ。
熟練者は火を熾すのもあっという間
そうこうしているうちに、囲炉裏の方で動きがあった。どうやら、火を熾すらしい。到着して早々だが、やはり本来、火は何よりも早く確保するべきものなのだろう。
その行動には、きちんとした計画性を感じる。前回の私のように、行き当たりばったりで、とりあえ熾すか、というのとはわけが違う。そりゃダメだわな。



私がちょっと目を離していた隙に、火はもう付いていた。それこそ、何が起きたのかも分からない程の早業であった。
以前私が火を熾そうと苦労して、結局付けられずに終わったという苦い経験があっただけに、「そう易々火は付かんだろう」などと高を括っていた私が甘かった。
そう、この人たちは熟練者なのだ。私なんぞとはアウトドアの場数からして桁違い。ちょっくら火の付け方でも学んで帰ろうかな、などと思っていたりもしたのだが、これはちょっと無理かもしれないな。そんなレベルの隔たりを感じてしまった。



う~ん、凄い。散々苦労してできなかった事を、テキパキと難なくこなしてしまう皆さんに、私はただ感嘆の声を上げるのみ。いやぁ、五度目の訪問というのは伊達じゃあない。
皆さんの仕事の様子を眺めながら、囲炉裏の脇で呆けていると、ふと、中山さんが私の隣に腰を掛け、小さい缶を取り出した。その中には緑色の粉末が。どうやらそれは、抹茶らしい。焚き火で沸かしたお湯で茶を立て、私に飲ませてくれた。



抹茶をいただき、一息付いた私はふと思った。そういえば、集落の様子はどうなっているのだろう。3年前と、何か変わりはあるのだろうか。
そうだ、ここらでちょっとばかり散歩にでも出掛け、集落を見て回ろうじゃないか。