特集 2023年12月21日

伊豆諸島のいずれかの島に行く“ミステリーきっぷ”で運試し

東京と伊豆諸島を結ぶフェリーを運行している東海汽船が、期間限定で「ミステリーきっぷ」なるチケットを販売している。

伊豆大島・利島(としま)・新島(にいじま)・式根島(しきねじま)・神津島(こうづしま)のいずれかに夜行日帰りで行くというもので、行き先は出発の当日になるまで分からないという、ワクワクドキドキのお楽しみチケットである。

果たして行き先はどの島になるのか、限られた滞在時間で何ができるのか。今年最後の運試しとして利用してみることにした。

1981年神奈川生まれ。テケテケな文化財ライター。古いモノを漁るべく、各地を奔走中。常になんとかなるさと思いながら生きてるが、実際なんとかなってしまっているのがタチ悪い。2011年には30歳の節目として歩き遍路をやりました。2012年には31歳の節目としてサンティアゴ巡礼をやりました。(動画インタビュー)

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ミステリーきっぷの行き先は――

東海汽船の大型客船さるびあ丸は、東京の竹芝ふ頭を22時に出港し、翌日に伊豆大島・利島・新島・式根島・神津島の各島へと立ち寄り、折り返して19時に竹芝ふ頭へと帰港する。

今回販売された「ミステリーきっぷ」は、このさるびあ丸のスケジュールを利用した夜行日帰りのチケットだ。

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22時に出発、翌日5島のいずれかに上陸してその日に帰るという弾丸旅行である

どの島へ行くことになるのかは出発の当日にチケットを受け取るまで分からず、また決まった行き先の変更は不可。

折り返しの便で帰るので、東京に近い島ほど入港から出港までの時間が長く、遠くなるにつれて短くなる。具体的には伊豆大島なら8時間30分、利島は5時間10分、新島は3時間20分、式根島は2時間20分、一番遠い神津島となるとわずか30分しか滞在時間がない。

かなりギャンブル感あふれるチケットではあるが、そもそも通常運賃ならば東京から大島でも片道5000円以上かかるので、往復で4000円とはまさに格安。船旅を楽しむだけでもおつりがくるというものだ。

そして私は伊豆諸島の島々にまだ一度も行ったことがなく、どの島が当たっても儲けモノなのである。これを利用しない手はない。

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というワケで早速予約し、竹芝客船ターミナルにやってきた

さぁ、どの島へ行くことになるのか。窓口で予約番号を告げると、係員さんは発券したチケットを差し出しながら言った。

「――行き先は大島になりました」

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おぉ、大島か! 大島か~!

大島はその名の通り伊豆諸島で最大の島である。見どころが多そうな上に、滞在時間もたっぷりあるので観光的には大当たりだ。

とはいえ、大島で具体的に何をするのかは考えていない。行き先がどの島になるか分からなかったので、旅行の計画を立てようにもできなかったのだ。完全なるノープランでの出発である。

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乗船開始のアナウンスと共に、さるびあ丸へ乗り込む
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定刻の22時に竹芝ふ頭を出港した

せっかくの船旅なので夜景を存分に楽しみたいところであるが、早々に切り上げて早めに寝ることにした。

何せ大島の到着時刻は朝6時。遅くとも日付が変わる前には寝ていないと、十分な睡眠時間を取ることができないのだ。私は持参したストロングチューハイをかっくらい、意識を失うようにして床に就いた。

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5時半に船室の照明が付き、ほどなく大島の岡田(おかた)港に到着である

伊豆大島には客船が発着する港が二箇所存在する。中心市街地に近い西岸の元町港と、少し離れた北岸にある岡田港だ。波風の状況に合わせて港を使い分けているのだが、元町港は海に突出しているため天候の影響を受けやすく、特に夜行便は必ず岡田港に到着するようだ。

まだ日が昇らない早朝に市街地から離れた港にポツンと下ろされて「さぁどうしようか……」みたいになるのかと思いきや、ターミナルの前では各方面行きのバスが乗客を待ち構えていた。

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夜行便の到着に合わせ、各方面行きのバスが接続しているのだ
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とりあえず元町行きのバスに乗ったら、最終的に温泉施設へたどり着いた

大島は活火山の島であり、この「御神火(ごじんか)温泉」は昭和61年(1986年)に起きた噴火の後に湧き出した温泉を利用している施設なのだそうだ。夜行便に合わせて6時30分から営業しており(夜行便がない日は9時から)、到着後すぐに入浴することができる。

「船旅お疲れさん、とりあえず温泉にでも浸かってゆっくり休んでくれよ」ということなのだろう。観光の動線がしっかり作られている、実に至れり尽くせりな心遣いである。

お風呂のみならずサウナも付いていて入浴料は710円とリーズナブル。休憩室もあり、雑魚寝でこわばった体をほぐすことができた。

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なんかもうこれだけでいいんじゃないかな、というくらいの満足感を得た

結局のところ、御神火温泉で2時間ほど過ごしてから出た。とりあえず湯冷ましがてら元町までぶらぶら歩く。12月であっても大島の景色は南国感があり、なんとも開放的な気分にさせられる。

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海沿いの公園から伊豆半島を望む
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流出した溶岩が桟橋のようになっていた(昔は実際に桟橋として使われていたらしい)
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元町の目抜き通りにまでやってきた
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レンタサイクル・バイク屋があったので、原付を借りることにした

お店のドアに近付くと、すぐにおばちゃんが出てきて手続きをしてくれた。料金表を見ると様々な種類の自転車・バイクがそろっているようだ。営業時間は6時からとあり、夜行便で到着した後すぐ借りられるようになっている。

そういえば、フェリーから下船する乗客の中には輪行袋(自転車を収納する袋)を提げている人も結構いた。大島はサイクリングを楽しむ島としても人気なのだろう。

さて、何はともあれ原付を借りたことで、大島における明確な目的ができた。島をぐるりと一周するのだ。

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元町から海岸沿いをしばらく走ると、眼前にダイナミックな景色が広がった

おぉ、これは見たことがあるぞ。「大島と言えばコレ!」的な感じでよく紹介される地層の断面図である。度重なる噴火による火山礫と火山灰、そして黒土が交互に堆積した、大島の歴史そのものだ。

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巨大バウムクーヘンとも言われるらしく、確かにおいしそうな見た目である

実際に目の当たりにしてみると、写真で見るよりもスケール感が遥かに違う。地形の凹凸に沿って堆積したぐねぐね地層がずっと奥まで続いており、他では見たことがない光景である。「おぉ、これは凄い」と連呼しながら、しばらく辺りをうろうろしていた。

この地層断面以外にも大島には火山島らしい風景が数多く、たびたび原付を停めては景色を楽しんでいた。

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かつての噴火口を港に利用した波浮(はぶ)港
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切り立った東海岸にそびえる筆島は、大島よりも古い時代の火山らしい
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道路から1.3kmほど登ったところにある「裏砂漠」を目指したりもした
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おぉ、確かにこれは砂漠だ。黒い砂礫で覆われた、荒涼とした砂漠である
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砂漠がそのまま海へ落ちていくような、これまた他では見たことがない光景だ
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島の北側にある泉津(せんづ)集落には、雰囲気たっぷりな切通しがある
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人工的に掘り切った、かつての生活通路であろう

――という感じで、気になったところに立ち寄りつつ、大島を反時計回りにぐるっと一周した。距離としては約46.6kmであるが、かなりゆっくり過ごしていたので元町に戻ったのは13時頃だ。

復路のフェリーは往路と同じく岡田港から出るとのことなので、バスで元町港から岡田港へと移動した。

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そして14時過ぎに折り返しのさるびあ丸が入港。大満足で大島を後にした
【伊豆大島(滞在時間8時間30分)で出来たこと】
  • 御神火温泉の朝風呂でリフレッシュ
  • 原付で島を一周し、外周部の見どころを網羅した

大島一周は割と王道な観光コースだとは思うが、火山の島らしい風景が目白押しで思っていたよりずっと楽しむことができた。日帰りでも時間はたっぷりあるし、東京から気軽に来れる離島として休日を過ごすには最適だろう。

さて、とてもお得に大島観光ができて気分は上々であるが、ひとつだけ気になったことがある。ミステリーきっぷについて他の人の当選結果をSNSであさってみたところ、私と同じ日には大島と神津島だけしか報告がなかったのだ。

改めて就航状況を調べてみると、この日は利島・新島・式根島の3島は「条件付き」となっていた。この「条件付き」というのは、とりあえず出航はするものの、現地の海上状況によっては接岸できない可能性があるというものだ。

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これは別の日であるが、大島と神津島だけが就航〇で他は条件付き★であった

伊豆諸島の島々は太平洋に浮かぶ離島ゆえに天候の影響を受けやすい。大島と神津島は港が二箇所あるので比較的波風に強いものの、それら以外の3島は「条件付き」になることも少なくないようだ。

そしてここからはSNSでの報告を見た上での私の推測なのだが、ミステリーきっぷで選ばれる島はその日確実に就航できる島のみであり、「条件付き」の島は抽選から外されるようなのだ。つまり、この日は大島か神津島の二択だったワケである。

⏩ 次ページに続きます

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