特集 2020年1月31日

砂が自動で風景を描く「エキゾチック・サンド」がすごすぎるので自作する

もう5年以上前の話になると思う。たしか妻の誕生日プレゼントを探しに立ち寄った雑貨屋で、砂の入ったフォトフレームのようなオブジェを見つけた。

ガラスの中で2色の砂が、まるで砂漠を描いた風景画のような美しい模様を作り出していた。
よく見るとフレームごと逆さにひっくり返すことができる機構がついている。
「逆さにしたら絵が崩れてしまうのでは…」と思いつつ恐る恐るひっくり返すと、クルッと持ち上がった砂がふたたび下に落ちて、また新しい砂漠が現れた。

すげえ。僕はすっかり魅了されてしまったのである。

インターネットユーザー。電子工作でオリジナルの処刑器具を作ったり、辺境の国の変わった音楽を集めたりしています。「技術力の低い人限定ロボコン(通称:ヘボコン)」主催者。1980年岐阜県生まれ。
『雑に作る ―電子工作で好きなものを作る近道集』(共著)がオライリーから出ました!

前の記事:米粒じゃなくてLEDに文字を書く(デジタルリマスター版)

> 個人サイト nomoonwalk

Exotic Sands

僕がすっかり気に入ってしまったそれは、Exotic Sands という名前らしい。

動画で見てもらうのがいちばん早い

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直線状に砂が落ちる砂時計を、2次元の面に展開したようなアイテム。しかしその味わいは砂時計とは全く異なる。

液体の中に2~3色の砂が入っており、それが少しずつ落ちてくることによって、地形のような独特の模様を作り出すのだ。使われている砂の色によって、それは砂漠や海底、あるいは火星の表面のようだったりする。フレームはひっくりかえすことができ、そのたびに砂が落ちて、新たな風景が生まれる。

William Tabar という人が1985年に考案したのだという。
これをずっと欲しいなと思いつつ、金額的に微妙に手を出せないでいたここ数年。そして去年の10月、インターネットで見つけてしまったのだ。その作り方を…。

先達はあらまほしきことなり

作り方を公開しているのは海外の美術だかデザインだかの先生で、手さぐりで自作を試みた様子がブログにアップされている。その成果は最終的に1本のブログエントリ動画にまとめられている

見て、すぐに材料を注文した。

つくる

数日後、材料が届いた。これでずっとほしかったエキゾチックサンズが自分のものに!

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中に入れる、砂絵用の砂
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その他の材料

すでに全てが手に入った気分である。実際にはこの後の自分の器用さ次第なのだが。

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写真立てからガラスを抜き出し、スペーサーのゴムシートを置く
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ガラスのふちに沿ってコーキング材を置いていく

コーキング材というのはお風呂の目地についている、ゴムみたいなアレのことである。

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3辺に塗れたらもう一枚のガラスを重ねて
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おもりをのせ、乾くまで丸1日放置

これでスペーサーを抜けば、フレームが完成。次は水と砂を入れる工程だ。

……そして翌日。よーし、砂入れちゃうぞー。

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パカー

あっ、ガラスが全然くっついてなかった…。

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つくる(2)

コーキング材が十分にガラスに密着しないまま、乾燥してしまったものと思われる。やり直しだ。つぎはコーキング材の入れ方を変えてみた。

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2枚の板を重ねた状態でスタート、側面から注入する
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(翌日)くっついた!!
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すると今度はスペーサーがガラス面にくっついてしまい、取り出せないという盲点。木とかアクリルの板にすべきだった…。
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取れた!!

今度こそ、ガラスフレームが完成した。

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次のステップ。中に砂を入れていきます

砂が単色だとただの砂時計みたいになってしまう。あの美しい模様を作るには、複数色の砂が不可欠だ。

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こんなもんかな…

そして液体を注入。ブログにはイソプロピルアルコールを入れると書いてあったが、値段が安く、余りも有効活用しやすい無水エタノールに変更。水と適当に混ぜる。

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砂の上からスポイトでチョロチョロ入れていく。
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漏れてる~~~~

作業台の上が水びたしになりました。

うーん、これ、ガラス2枚とコーキング材だけで水漏れしない容器を作ろうとしているところに、そもそも無理があるのではないでしょうか。アメリカと日本のコーキング材は違うかもしれないしな…。
うまくいかないといろんなことに疑心暗鬼になってくる。

つくる(3)

不安を抱きつつも、他にあてもないので愚直に同じやり方を繰り返すしかない。再度作り直し、今度はコーキング材を多めに注入。

ところでこのコーキング材、容器の後ろを押すと先端からニューッと出てくるのだが、効率よく押し出すために普通はコーキングガンという専用の射出具を使う。

タジマ(Tajima) コーキングガン コンボイジャスト CNV-JUST
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こういうやつ。

今回はそれを買うのをケチって、

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カメラのバッテリーで押し出している

おかげで押し出しに腕力が必要で、超大変なのだ。というかそのせいで注入量が少なくて水漏れしているのではないかという疑惑がある。

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意地でコーキングガンは買わず、気合と根性でたくさん注入した第3弾
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砂も多めに入れております(適量がわからない)
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水が漏れずに入った!!

水漏れをコーキング材のせいにしてごめん。僕がコーキングガン代をケチったせいでした……。

水を入れる時のポイントは、満杯にしないことだ。中身が水と砂だけだと、ひっくり返したときに砂が一気にドバーっと下に落ちてしまう。間に気泡が入り込むことでこれを防いでいるので、少し空気を残しておく必要があるのだ。

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最後に上辺をまたコーキング材で密封、1日待ったら完成!!

そして完成した自作エキゾチックサンズが、こちらである。

 

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?????

なにこれ????

まず、黒・茶・白の3色入れたはずの砂が完全に混ざってしまっている。水を入れてフタをした時点では混ざっていなかったのだが、撮影前に2回ほどひっくり返したらすぐに混ざってしまった。おかげでただの2D版砂時計という感じで、あのきれいな模様は全く現れてこない。

冒頭に貼ったYoutubeで見たように、きれいに色の分離した状態を保つのは、実はすごく高度な調整が必要なのではないか…?

つくる(4)

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バン!新しい材料です!

はい、今日もエキゾチックサンズを作っていきたいと思います!(気を取り直して再スタート)

砂がすぐ混ざってしまう原因として、2つの仮説を立てた。

  • 水がサラサラすぎて、砂が舞い散って混ざってしまうのではないか
  • 砂が細かすぎて軽いので、舞い散って混ざってしまうのではないか

前者には洗濯のりを水にませることで対策、後者の対策としてはちょっと大きいサイズの砂を買い直した。

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はいできました!

工程は割愛していくスタイルで行きます。
さて、ちゃんと模様ができるのか…?

 

序盤は悪くない。上から砂がサラサラーっと落ちて行って、なんとなく丘陵っぽい模様にもなっている。

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問題はそのあとで、上のほうの砂が全然落ちてこなくなってしまった!

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おそらく洗濯ノリを入れたことで、砂が固まってしまったものと思われる。

粘度が低すぎると砂が混じってダメ、高すぎても固まってしまってダメ。ここへきて、ようやく今立ち向かっている課題の困難さを理解した次第である。

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もう買う

さてみなさん。人は何のために自作をするのか。

  • 作った方が安いから
  • 自分で作って理解を深めたいから

後者のほうが崇高なのは言うまでもないが、自分は圧倒的に前者である。そんな節約派DIYerにとって、最大の禁じ手がある。それが「見本に買う」である。

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買った

DIYするときに、最も必要な資料は作り方だ。ではその次に必要な資料は何だろうか?

それは「現物」なのだ。なんかうまくいかないなーというとき、一番の近道は、「手元にある現物を見てマネをする」なのである。


そもそもDIYが安いというのは幻想である。人件費を考えると結局自分で作った方が高くつくし、そればかりか、大半のケースでは材料費だけでも買うより高くつくのだ。

買うより高い材料費にくわえ、結局、現物も買う。この禁じ手は、2倍以上の費用がかかってしまうという、究極の本末転倒だ。

しかしここまで来たら、後には引けないのである。なぜなら度重なる失敗を経て「安く手に入れたい」という目的は完全にすり替わっており、もはや「意地」が推進力となってしまっているから…。

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どのくらいの粘度の液体が使われているのか。目で見て確かめ、なんなら自作の礎として、分解してしまってもいい。なんにせよ、この梱包をはがせば、すべてが明らかになる
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全てが明らかに…
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明らかに…
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明らかに、配送事故です……

そこに入っているはずの神秘の液体は、すべて失われていた。中国から発送され、コロンビアを経て東京の自宅にたどり着くまで3週間。そのうちのどこかで亀裂から漏れ、少しずつ蒸発していったであろう神秘の液体。今ごろ太平洋上で、雨になって降り注いでいるかもしれない…。

ついに飽きる

と、ここまでが去年の10~11月くらいの話である。ここまできて、ついに飽きた。たくさんのカラー砂が入った袋と、落ちてこないエキゾチックサンズは、自室の机の上に放置されたまま新年を迎えた。

そしてある日、思ったのだ。「このままではいけない」と。いや誇張があった。そんな情熱的なものではなくて、単に「そろそろ机の上を片付けたい」と。

つくる(5)

最後にもう1回だけ作ってみて、これでダメなら捨てることにした。

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そして完成したのが、このファイナルバージョン。

洗濯ノリは薄すぎず濃すぎず。砂は複数色を層状に並べ、できるだけ混ざりにくいように配置。水の量もけっこう大事だ。逆さにしたとき、砂が一気に落ちていくのをせき止めるのは気泡だ。大半の砂は気泡が覆うけれども、少しだけ隙間が空く。そんな絶妙な量に水を調整した。

これまでに得たノウハウはすべてつぎ込んだ。これでどうなる…!?

(10倍速です)

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うっ、途中まではいい感じだったけど、やっぱり落ちてこない…!!!

前回と同じパターン。しかし今回、起きている現象は同じでも、一つ違うことがある。僕の成長である。次なる策があるのだ。

なぜ砂が固まるかというと、最初に砂だけを入れ高密度で砂が詰まっているところに、ノリを含んだ水を流し込むからだ。
ここから一回無理にでも砂を落としてしまえば、その時点で塊がほぐれ、スムーズに落ちるようになるのではないか。

棒を使ってガラスをたたき、衝撃を与えて少しずつ砂を落としていく。ここからは根気の作業だ。

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スマホのバイブ機能を使って振動で砂をほぐす作戦も

こうして砂をほぐし続けること1時間。砂は少しずつではあるが順調にほぐれていく。

ところがだ。ここで、うっかり手を滑らせて……

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あー!!!

フレームごと落としてしまったのだ。俺の渾身のファイナルバージョンが、割れた…!

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漏れてきた水をふき取ると急いで瞬間接着剤を流し込み、応急処置
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さらに接着剤を追加しつつ、耐衝撃性を高めるため、もとの写真立てのフレームに入れた。

水漏れ。考えてみればこの場面こそコーキング材の本領発揮だったのではないかと思うが、焦っていたので瞬間接着剤を使ってしまった。

ともあれなんとか水は止まり、また細かく叩き続けること数時間。

結局、完全にすべての砂を落としきることはできなかった。

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ここが限界

もうこれ以上がんばっても、これ以上のものはできそうにない。策は尽きたのだ。いったんこれを最終結果として、ここにご報告したい。

 

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6.gif

おや…?

冒頭に貼った動画と比べると見劣りしてしまうものの、なんかそこそこそれっぽい感じにはできたのではないだろうか。ひび割れを補修した跡も、見ようによっては火星の丘陵のむこうに天の川が見えているような、そんな趣がないだろうか。ないですか。さすがに言いすぎました。

しかし今までで最高の出来であることには異論はないだろう。現時点での到達点はここまでである。

というわけで4か月の苦闘の記録でした。


ここから先は未開拓の地

ここまでやって改めて見てみると、先生による動画の最後に出てくる完成品も、今回残された課題を克服できているようには見えず、もしかしたらそもそもの作り方に何か決定的な要素が欠けているのかもしれない。

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動画より。砂は混じってしまっているように見える

エキゾチックサンズが欲しい人は素直に買うと、4か月間の死闘を繰り広げなくて済むのでお得です。

ちなみに僕が注文して割れて届いたやつは適当な中国製のもの。割れてたので品質はわかりませんが、すくなくともフレームが安っぽいのでインテリアとしてはイマイチな感じです。良いのが欲しい人はエキゾチックサンズの公式 か、オーストラリアのメーカー、KBコレクションで買うのがよさそう。ちょっと高いけど。

また何かの自作を断念したらご報告します。

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tsukuba.jpg

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