大きくしようぜ!
子供の頃にヂャンボ餅に出会い、ジャンボを連想して、しばらく忘れていたのだけれど、急に思い出して作ってみた。鹿児島は美味しいものが多々ある県なので、ぜひまた行きたい。もっともどの都道府県にも美味しいものは溢れているんだけどね。だいたい美味しいよね、この世界にあるものって。
郷土料理というものがある。その地域だけで食べられている料理だ。県単位でもそれはあるし、市町村単位でも存在する。宮崎の「冷汁」、群馬の「焼きまんじゅう」などが、郷土料理に挙げられる。
鹿児島には「ヂャンボ餅」という郷土料理がある。漢字で書くと「両棒餅」。とても読めそうにないけれど、「ヂャンボモチ」と読むのだ。ということで、ジャンボなヂャンボ餅を作ってみようと思う。
我々は大きいということに憧れる。「大きな家」、住みたい。「大きな白い犬」、飼いたい。「大きな人」、なりたい。そんなように我々は大きいものを好む。ジャンボを求めているのだ。小さい紙飛行機より、ジャンボジェットがいい。そういうことだ。
私は常々言っている。大きな葛篭と小さな葛篭なら大きな葛篭を選びたい、と。昔話を読んでいると、いいおじいさんは小さな葛篭を選ぶ。大きい方がいいじゃない。小さな夢より、大きな夢がいいじゃない。そういうことなのだ。
鹿児島の郷土料理のひとつに「ヂャンボ餅」がある。先にも書いたように漢字で書くと「両棒餅」となる。一口大のお餅に2本の串が刺さっている。江戸時代から食べられてきたもので、武士が腰にさした短い刀と長い刀の姿に由来するそうだ。
お餅を焼いて、そこにみたらしがかかっている。柔らかくて、香ばしくて、私は鹿児島に住んでいたので、子供の頃はよく食べていた。あと、このあと、ジャンボにするために、「ヂャンボ餅」とカタカナで書いているけれど、漢字でない場合は「ぢゃんぼ餅」が普通だ。
地元を離れると、普通に食べていたものを、なかなか食べなくなる。食べなくなるというか、見かけなくて食べることができなくなる。「ヂャンボ餅」がまさにそうだ。鹿児島以外で食べたことがない。そこで作ろうと思う。
子供の頃から思っていたこと、それが「ジャンボ」だった。だって、「ヂャンボ餅」なんだもん。なので、作るヂャンボ餅は、ジャンボにしようと思ったわけだ。ジャンボヂャンボ餅、子供の頃からの夢だ。それを叶えるのだ。
ヂャンボ餅は、上新粉で作ることができる。これにお湯を入れてこねて、茹でて、さらに焼く。そこに串を2本さして、みたらしのタレを作って、かければ完成だ。作り方は非常に簡単だ。
いま、あれ、ジャンボと聞いていたけれど、小さいのではないか? 寝起きのヤル気ほどに小さいのではないのか、と思ったかもしれない。実際にそうだ。私もこのくらいのジャンボでは満足できない。茹で上がったものを、さらに包んで大きくしていく作戦だ。火を通すために。
茹でるのに、そこそこ時間がかかるので、茹でている間に、鹿児島のことを書こうと思う。私は小学校3年生から6年生まで鹿児島で過ごした。過去には日本一のマンモス校と言われたこともある谷山小学校に通っていた。私の時も7組くらいまであった。
鹿児島では「そうめん流し」をよく目にする。子供の頃はあまり気にならなかったけれど、一般には「流しそうめん」と言う気がする。ただ鹿児島では「そうめん流し」と言っていた。おそらく大きな違いは、流しそうめんは、そうめんにとって片道切符であり、そうめん流しは環状線であることだろう。
そうめんがぐるぐる回るのだ。普通にそうめんを食べるより、全然美味しい。味は一緒のはずなのに。地主家では夏になると、「谷山慈眼寺そうめん流し」に出かけた。理由としては家から近かったからだ。緑がいっぱいで川が流れ、楽しいのだ。
また鹿児島は温泉が多い。桜島があるので、温泉が多いのかもしれない。そして、特徴的なのが「砂むし温泉」ではないだろうか。温泉は液体につかるわけだけれど、砂むし温泉は砂につかる。流砂にでもはまらない限り、砂につかることは、普通ないと思う。
古くから湯治として、砂むし温泉は使われていた。雨が飴ならいいのに、に近いのではないだろうか。水が砂ならいいのに、ということだ。普通はそんなことは思わないけれど、実際に砂につかるとわかる。これ、かなりいいのだ。
最近の掛け布団は羽毛だったりで軽い。たまに古い旅館などに泊まると昔ながらの重い掛け布団に出会うことがある。あの重さが心地よかったりする。安心感があるような。まさにそれ。砂むし温泉はその安心感がある。
鹿児島のことを書いている間に、ヂャンボ餅が茹で上がった。これをまた包んで、さらに茹でる。この作業を4回ほど繰り返すことで、ジャンボヂャンボ餅が完成するわけだ。ジャンボなヂャンボ餅はいつもよりジャンボに見える。いま、当たり前のことを書きました。
ジャンボにまで育ったヂャンボ餅をお湯から出して、次は焼く作業に移る。焼き目をつけるのだ。重みを感じる。ジャンボだから。あまりにジャンボでこれはなんなのだろう、とは思ってしまうけれど、ヂャンボ餅なのだ。
餃子の王将は全国各地にあるはずなので、知っている人が多いと思う。もちろん鹿児島にも王将はある。ただちょっと違うのだ。「鹿児島 餃子の王将」なのである。鹿児島とつくのだ。
写真の鹿児島餃子の王将は1978年に開店した記念すべき1号店である。現在は9店舗ほど営業している。いわゆる餃子の王将で直営店でもなく、フランチャイズでもなく、唯一「餃子の王将」を名乗っている餃子の王将となっている。
もともと餃子の王将で働いていた方が独立して作ったのが、「鹿児島 餃子の王将」。天津飯が人気で、タレは鹿児島らしく黒酢が使われていたりする。餃子も美味しくて、どのくらい美味しかったかというと、鹿児島にはそんなに行かないのに、ポイントカードを作ったほどだ。
ただし、このポイントカード、今はもうはやっていないらしい。私は感動するとカードを作るのだ。北海道のセイコーマートのカードも作った。美味しくて感動したから。カードがあるうちに作れてよかった。使えないけど。
鹿児島餃子の王将の話をしている間に、素晴らしく焼き目がついた。そのあとにみたらしのタレも作った。これで完成だ。ジャンボヂャンボ餅の完成である。子供の頃の夢がかなった瞬間だ。
重い。とにかく重い。今回作った普通のヂャンボ餅は20グラムなのにたいして、ジャンボヂャンボ餅は1300グラム。6.5倍だ。1300グラムと言えば、成人した人間の脳の重さくらいある。そう考えると形もなんとなく脳に似ている。
茹でて、包んで、茹でて、包んで、を繰り替えたおかげで、ジャンボヂャンボ餅は中心までしっかりと火が通っている。味としては、当たり前だけど現地で食べたものの方が美味しかったけれど、こっちはジャンボだから。相殺としたい。
先日、ある農家さんにお話を聞いた。大きいのをお客さんは求めていると言っていた。適度なサイズの方が美味しいけどね、と続けた。そういうことなのだ。でも、相殺なのだ。そういうことなのだ。満足感に浸りながら食べた。
子供の頃にヂャンボ餅に出会い、ジャンボを連想して、しばらく忘れていたのだけれど、急に思い出して作ってみた。鹿児島は美味しいものが多々ある県なので、ぜひまた行きたい。もっともどの都道府県にも美味しいものは溢れているんだけどね。だいたい美味しいよね、この世界にあるものって。
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